第195話 リポータークマちゃんの話を聞き流す現地人リオ。
あちらは凄いことになっているようですね――、と伝えたいらしいもこもこリポーター。
ピンク色の肉球が『あちらちゃん』と示す方を見ないわけにはいかないリオ。
金髪の現地人リオちゃんは、子猫のようなリポーターが被っている小さなヘルメットから『すごいちゃん』な方へ視線を移した。
「……普通の森じゃね?」
『あちらちゃん』には樹、野草、地面、薄紫の小さな花、降り注ぐ木漏れ日、くらいしかない。
森だ。『すごいちゃん』ではない普通の。
もこもこしたリポーターはミィミィと鳴く子猫のように「――クマちゃ、クマちゃ――」と妙に真剣な表情で、現場の状況をリポートしている。
『――悪の組織ちゃん、やったちゃん――』と。
これは……悪の組織の仕業に違いありません――、という意味のようだ。
「クマちゃん、悪の組織ごっこやめて正義の味方ごっこにしたほうがいいと思うんだけど」
新米ママリオちゃんは我が子が悪い子の遊びに夢中にならないよう説得を始め、
「つーか悪の組織何もしてなくね?」
『仕業』というわりにどうにもなっていない森について指摘した。
もこもこリポーターは口を開け、もこもこもこもこと悲しそうに震えている。
キュオ、と少しだけ悲しみの鳴き声が出てしまったようだ。
この惨状を見て『何もしてなくね?』と悪の組織を擁護する現地人の言葉に『クマちゃ……!』と衝撃を受てしまったらしい。
「クマちゃんやっぱ寒いんじゃね? おくるみ入る?」
心配した新米ママが、ふわふわの背中を優しく撫でる。
撫でられて気持ちが良かったらしい甘えっこリポーターは、「クマちゃ……」とすぐにひとでなしの現地人を許してしまった。
立ち直りの早いリポーターが「――クマちゃ、クマちゃ――」と何事も無かったように説明を続けている。
『――悪の組織ちゃん、除草剤ちゃん――』
これは悪の組織が撒いた除草剤でしょうか……、という意味のようだ。
「いや悪の組織しょぼすぎでしょ」
もこもこしたリポーターを撫でつつぼーっと話を聞いていた現地人リオが、余計な口を挟む。
リオは仮面で顔を隠す黒ずくめの男達を思い浮かべた。
木漏れ日を浴びる悪の組織。
彼らは薄めた除草剤を撒き静かに呟く。
『これで世界を滅亡へ導く――』
気の長い組織である。
彼の言葉を聞かないもこもこリポーターは「――クマちゃ――」と、可愛い肉球で地面を指した。
――近付いてみましょう――、と緊張気味のリポーター。
「近付くの俺じゃね?」
リポーターを抱えたまま片膝を突く細かい男。
金髪の現地人兼もこもこの助手リオは、肉球が向けられている場所へ視線をやった。
「なにこれ」
リオの目に映る、地面の上の小さなホコリ。
リポーターのピンク色の肉球が、スッと上を向く。
こちらをご覧ください……、という意味だ。
「――クマちゃ、クマちゃ――」
『――除草剤ちゃん、もやちゃん――』
この除草剤はもやもやしていますね……、という意味のようだ。
「あー、めっちゃもやも……マジでもやもやしてんだけど!」
再び駄目な大人の見本のような返事をしていたリオは、見覚えのあるそれに目を剝いて叫び、
(いやクマちゃんこれ除草剤じゃないと思うんだけど)
魔王のような男に『細けぇな』と言われそうなことをもやもやと考えた。
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