第192話 お悩み中のリオちゃんと、解決してあげたいクマちゃん。

 クマちゃんはクマちゃんの肉球の下で「めっちゃもやもやする……」と繰り返しているリオの言葉を聞き、考えていた。

 大変だ。

 仲良しのリオちゃんがお困りのようだ。

 彼はあのお家の周りでめっちゃもやもやしながら遊びたかったらしい。

『さっきの場所ってなんかあったの?』というのは、つまり良い感じなのか悪い感じなのか、遊べる感じなのか遊んでいる場合じゃない感じなのか、一番のおすすめスポットはどこなのか知りたいということだろう。

 リオちゃんはクマちゃんに、あの土地の魅力を心ゆくまで説明して欲しいのだ。


 むむむ、と難しいことを考えていた大人なクマちゃんの頭に、不思議な言葉と映像が浮かぶ。

 

 ――観光ガイド……ニュース……リポーター……テレビ……インターネット……お菓子……ポテトチップス……――。


 クマちゃんは難しいことは分からない。

 しかし、リオちゃんが知りたい情報をクマちゃんがお届けするためには、『クマちゃんテレビ』と『ポテトチップス』が必要らしい。

 うむ。

 クマちゃんテレビでクマちゃんニュースを見ながらポテトチップスを食べれば、子供っぽいリオちゃんのお悩みはすべて解決する、ということだろう。



 水のもこもこ宮殿にある巨大クッションで休憩中の彼ら。

 仰向けの顔にもこもこを乗せているリオが「めっちゃ顔もこもこ……。すげー生温かい……」と、街外れの民家と全く関係のないことを考え、お兄さんが美麗な人形のように静かに横になっていたとき。

 リオの顔にうつ伏せで転がっていたクマちゃんが、幼く愛らしい声で「クマちゃ、クマちゃ……」と話しかけてきた。


『クマちゃん、頑張るちゃん……』と。


 大人なクマちゃんが頑張って作るので、子供っぽいリオちゃんは少しの間待っていて下さいね……、という意味だ。


「何かまた聞き捨てならないこと言われた気がするんだけど」


 細かい男は聞こえていないはずの何かを敏感に感じ取った。

 自身の顔に両手を伸ばし、もこもこをそっと掴んだリオが「めっちゃもこもこ」と言いながら上体を起こす。

 彼はクマちゃんの丸くてもこもこした温かい頭に頬をくっつけ、「可愛い」ともこもこを堪能したあと、


「なに作んの?」


ふ、と穏やかな笑みを零し、優しい声で尋ねた。


 もこもこが彼に「クマちゃ」と愛らしくお返事をし、彼はかすれ気味の声で「いっぱい? 色々作るってこと?」と聞き返す。

 一人と一匹は仲良く、ふわふわな籠ソファがたくさん置かれた別荘へ移動し、優雅な動作で起き上がったお兄さんも、彼らのあとをゆったりとついて行った。



 美しい睡蓮のランプが照らす別荘内。

 天才魔道具職人クマちゃんの助手、リオの目の前にある低いテーブルの上に、完成した魔道具と魔道具ではないものが並んでいる。

 やや縦長の、黒くて丸い何かの下に金属の棒が付いているもの、黒い何かを持っているクマちゃん像の下に棒がついているもの、黒いリボン、ヘルメット、皿に盛られたポテトチップス。

 

「色々おかしくね?」


 作業を手伝った助手は、天才魔道具職人が何を考えているのか少しも分からなかった。

 黒いリボンとヘルメットはクマちゃんがお兄さんにお願いし、出してもらったものだ。

 子猫なクマちゃん用なのだろう。ヘルメットもリボンも小さくて可愛らしい。

 彼の訝し気な視線に気付かないもこもこは、幼く愛らしい声で「クマちゃ――」というと、満足そうに頷いた。


『完璧、です、ね――』と。


 テーブルの上で魔道具の確認をしている天才魔道具職人が、並べられたそれらの前をヨチヨチもこもこと往復している。


「クマちゃんまた格好つけてるでしょ」


 疑り深い男は目を細めた。

 もこもこは非常に忙しいらしい。彼の話を全く聞いていない。


 体の前で短い両手を無理やり組もうとして失敗した天才魔道具職人がゆっくりと頷き、愛らしい声で「クマちゃ、クマちゃ――」と言った。


『では、準備、するちゃん――』と。

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