第191話 気になるリオ。「クマちゃ……」と答えるクマちゃん。
五件目のお庭改造を終え、もこもこお花畑クマちゃん噴水前で休憩中の、四人と一匹とお兄さんとゴリラちゃん。
幸せそうに寝ている男達も、お兄さんの闇色の球体で運ばれ、お花畑に転がされていた。
「すげー空気が綺麗になった気がする」
リオは輝く噴水からカッ! と出た光る霧のような何かへ視線を向け、「いや光り過ぎでしょ」と大きな独り言をいった。
「気がする、のではなく本当に綺麗になっているのではない?」
ウィルの青い髪が、噴水の光を受け鮮やかに輝いた。
髪だけでなく、身に纏う装飾品もキラキラでピカピカだ。
噴水から飛んで来た光の溶け込む水滴が全身を煌めかせ、もとから派手な男を一層派手に見せている。
彼は目を覚まさない男達を少しのあいだ見つめ、透き通った声で言った。
「でも、一応彼らは酒場で預かったほうがいいだろうね」
視線を落とし、考え込むような素振りを見せる。
ただの民家はクマちゃんのおかげで『噴水だけ豪華すぎる聖域』という雰囲気の、神聖で安全な場所に変わった。
もう危険はないだろうが、被害者たちから詳しい話を聞き、原因の調査をしなければ。
ルークに抱えられている天才ガーデンデザイナーが、幼く愛らしい声で「クマちゃ、クマちゃ……」と頷いている。
『あずかる、ちゃん……』と。
ええ、預かった方がいいでしょうね……、という意味のようだ。
天才ガーデンデザイナーはお疲れらしい。
仰向けでお昼寝中の子猫のような格好で、ルークの腕をベッド代わりにしている。
「クマちゃん繰り返してるだけでしょ」
『クマちゃ』と刺激を受けたリオの口から、意図せずもこもこ批判が飛び出す。
言葉とは裏腹に、その視線は心配そうにもこもこへ向けられていた。
「帰るぞ」
魔王のような男が珍しく指示を出した。
早くクマちゃんをベッドで休ませたいらしい。
闇色の球体はルークが歩き出す前に、全員の体を一瞬で包み込んだ。
◇
闇が彼らを運んだ先は、湖畔の別荘前だった。
花畑にいる人間がいつもより少ない。森の奥へ行くための準備をしているのだろう。
かすれ声の金髪が礼を言う。
「お兄さんありがとー」
ルーク達が視線や態度で感謝を伝え、高貴なお兄さんがゆったりと瞬いた。
クマちゃんの保護者である彼らは、マスターへの報告や、話し合い、湖畔の花畑に並べられた男達のあれこれ、街外れの調査、午後の仕事など、やることが多く、忙しい。
「俺クマちゃんと待ってる」
新米ママリオちゃんはベテランママルークからサッともこもこを受け取ると、すぐにおくるみで包み込んだ。
気持ちがいいらしいクマちゃんが「クマちゃ……」と小さく頷いている。
リオが優しい表情で「クマちゃんお帰りー」と言うと、もこもこはつぶらな瞳で彼を見上げ、幼く愛らしい声で「クマちゃ、クマちゃ……」と彼にお返事をした。
『リオちゃ、おけーり……』と。
新米ママが「なんか変だけどクマちゃんめっちゃかわいー!」と叫び、おくるまれたもこもこの頭に頬を寄せている。
一人と一匹はいつも通り仲良しで、とても幸せそうだ。
我が子が手元に戻り安心している彼は、大切なもこもこから離れ仕事に向かわねばならない保護者達の、慈愛に満ちていない視線に気付いていない。
死神のような男が仕事中の死神のような顔で、金髪をどこかへ連れて行こうと画策している。
赤ちゃんクマちゃんを抱えた幸せいっぱいのリオは、温室のような外観の建物を指さし、
「あっちいるから仕事行くまえ教えて」
と幸せでない彼らへ告げた。
水のもこもこ宮殿へ向かう一人と一匹は「クマちゃん少し寝る?」「クマちゃ……」「いや寝たほうがいいんじゃない?」「クマちゃ……」と楽しそうにお話ししている。
いつもはすぐに幼いもこもこのあとを追うお兄さんは、視線をスッと楽しくなさそうな彼らへ向けると、その場にゴリラちゃんを残し、ゆっくりと去っていった。
◇
リオはおくるみクマちゃんを抱えたまま巨大クッションに腰を下ろし、バフ、と背中から倒れた。
視線の先には、天井の巨大水槽。すぐ側からザァ――、と噴水の水音が聞こえる。
水底から見上げる水面のように、ゆらゆらと光が瞬き、そのなかを魚の群れが横切った。
泳ぐ光を目で追い、リオがもこもこへ尋ねる。
「クマちゃん、さっきの場所ってなんかあったの?」
もこもこはおくるみから猫のようなお手々を出し、お上品に肉球をペロペロしている。
胸元に乗せたクマちゃんから、「クマちゃ……」という愛らしいお返事が聞こえた。
『リオちゃ、子供ちゃん……』と。
子供っぽいリオちゃんにはお答えできません……、という意味のようだ。
「ヤベー。おくるみに入った赤ちゃんから子供っぽいとか言われたんだけど……」
なんと憎らしいもこもこだろうか。
新米ママは限界まで目を細め、時々発言が可愛くないが存在が愛くるしいもこもこを撫でつつ、己の心を落ち着かせた。
「いやでもそれどっかで聞いた気がする」
リオはおくるみから出たがっているもこもこを手伝いながら「あー、何だっけ」と眉をひそめる。思い出せない気持ち悪さに「めっちゃもやもやする……」と呟き、
「……いやクマちゃんひとが考えてるとき顔乗るのやめて欲しいんだけど」
顔の上をヨチヨチしている我が子を『メッ!』と注意した。
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