第137話 雑貨屋でお買い物中のクマちゃん達と、不思議なキラキラ。
クマちゃんの歌声と共に始まった〝お出掛け〟。
彼らは集まり過ぎてしまった聴衆を避けるため、『可愛い財布』がありそうな雑貨屋に来ていた。
焦げ茶色の木が中心の内装は、少し薄暗く感じる。
店内のほとんどは棚や机で埋まり、通路はあまり広くないようだ。
壁や棚、天井には売り物なのか店の内装の一部なのか判断の付きにくい装飾の凝ったランプがあちこちに飾られ、店中に並べられた――どこにでもありそうな――雑貨類を、まるで値打ちのあるもののように見せていた。
リオがスタスタと奥へ進み、「この店あちこちにモノ置きすぎでしょ」店員に聞かれたら『お客様……』と切なげな目で見られそうなことを言いつつ、財布を探す。
物でごちゃごちゃしている店内。袋やハンカチなどが並ぶ机のような棚の上から、緑色に染められた革製の財布を手に取ったリオが、
「クマちゃんほら。財布あったよ」
クマちゃんに声を掛けた。
もこもこの入った袋を抱えたクライヴが、そちらへ歩み寄る。
袋は何故か輝いていたが、すぐにおさまったようだ。
出たいような出たくないような袋のなかが暗くて、明かりをつけていたのかもしれない。
彼が黒革に包まれた手で袋をそっと撫で、『出てきても問題ない』とクマちゃんに合図を送った。
――そもそもずっともこもこが袋から出ていても、『可愛すぎる』以外に問題などないが。
袋がもこもことうごめき、愛らしいもこもこが愛らしい顔を出す。
袋から顔だけ出したクマちゃんは、次に猫のような可愛いお手々を、ス――と覗かせた。
もこもこした可愛い両手に、出がけにマスターが大量のお小遣いを入れてくれたお財布――というよりも小銭入れという方が近い、飾り気のなさすぎる巾着が握られている。
クマちゃんが幼く愛らしい声で「クマちゃん、クマちゃん」と言う。
『クマちゃん、お財布』と。
クマちゃんはもう素敵なお財布をマスターから貰いましたよ、という意味だ。
「……いや、それが悪いわけじゃないけど、微妙におっさ――可愛さが足りないってゆーか」
いつも余計なことを言ってしまうリオが考えてから口に出した発言は、保護者達からの冷たい視線で『何かだめっぽい』と察知し、修正された。
『おっさん』は教育に良くないらしい。
しかし、人形のように可愛いおっさんも、探せばどこかにいるのではないだろうか。
――リオの『教育に良い言葉遣い』は迷走しているようだ。
「うーん。リオ、確かに綺麗な色だけれど、クマちゃんには大きいのではない?」
ウィルは緑色以外に特徴の無いそれに『その財布はもこもこの手の大きさに合っていない』と指摘した。
彼の言葉の裏には『もっと可愛い物があるだろう』という意味が含まれているが、金髪に直接的でない言葉は伝わらない。
しかし、彼らの会話を聞いていたもこもこが、肉球が付いたもこもこの両手をサッともこもこの口元に当て、まるで衝撃を受けたもこもこのように震えている。
ゴッ、ガチャ――とおかしな音を立て、もこもこの財布、もこ巾着が床へ落ちた。
「何クマちゃん、その『凄い事聞いちゃった!』みたいな反応……つーか今なんか変な音しなかった?」
リオはもこもこが落とした『落とすと変な音がする』もこ巾着を拾い「……これなんか重くね?」と眉を顰め、
「……いや重いしなんか形おかしいと思うんだけど。――クマちゃん財布に何入れたの?」
妙にボコボコしているそれについて、目の前でもこもこ震えているクマちゃんに尋ねた。
クマちゃんはお口を押さえたまま、愛らしいもこもこの頭を少しずつ横へ傾けている。
リオちゃんは何を言っているのですか? という意味だ。
「いや、だからこの財布なに入ってんの? って……開けてみていい?」
気になる。と強く思った彼は、口から言葉を出すのと同時に開けてしまった。
「この子はまだ君に『開けていい』と言っていないと思うのだけれど」
保護者達からの鋭い視線とウィルから言葉にしない――『返事をもらってからにしろこの金髪が』――優しい警告が飛ぶ。
「クマちゃんなに、この金属のおもちゃみたいなの」
リオは自身の手がもこ巾着から取り出したそれを見て、素直な感想を口にする。
金属のクマちゃん、金属のお花、金属のハート、金ぴかの青年のような人形、金属の球体、その他色々。
金一色のもの、全体が金で一部が銀、銀一色、新品の銅貨のような色、色が混ざったものもある。キラキラしていてとても綺麗だ。
しかし、入っていた大金はどこへいったのだろうか。
彼はもこもこへ視線をやった。
何も考えていないような愛らしい顔で、チャ、チャ、チャ、と口元を動かしている。
もこもこが幼く愛らしい声で言う。
「クマちゃん、クマちゃん」と。
『クマちゃん、お金ちゃん』らしい。
それはクマちゃんのお金ちゃんですよ、という意味だ。
「え、奥に入ってるってこと?」
もこもこの言葉を聞いたリオは、袋の底の方へ手を突っ込む。
確かに、平らで円形の物が手に当たる。
クマちゃんが財布に入れた金属のおもちゃのせいで、お金が隠れていたようだ。
「ほんとだ…………あ、すげー可愛い。――この金貨なんでクマちゃんの顔かいてあんの?」
不思議だ。このような絵柄は初めて見る。
ぼーっとコインを見つめるリオの頭にフッと嫌な言葉が過った――偽造通貨――。
まさか、このクマ、やってしまったのでは――。
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