探偵二羽と皮をかぶる人(仮)

 

 朱鷺雅在好は優秀で秀才でいい子ちゃん。


 放課後、学校を出てからもその評価は変わらなかった。


 昼休憩から授業の様子を観察していた。


 数学では率先して手を挙げる以前に指名されることが多く、難なく答える。受け答えも丁寧で黒板もノートの字も書道の先生のようだった。

 授業後の僅かな時間に教師に質問に行くというのもしていた。

 体育では流石というべきか、呆れるべきか。


 彼女も全生徒会長同様、文武平等に完璧らしい。


 器用という言葉では収められない及第点以上を取る感じだ。

 まあ二羽には劣るけど、などとと勝手に比較したりし、途中からはそういうゲームもしてみた。

 だがすぐに飽きた。


 放課後、生徒会室へ多くの生徒先生に声をかけられながら到着し、書類をテキパキと分類。他の生徒会員に見事な采配をしていた。その後、自分の職務を終えて部活周りをし、図書室に。自主勉強を始めた。夕方六時を前に学校を出た。


 そして今。


 彼女は駅に近い塾へと入っていった。


「ーーーーーハードすぎるんだけど」


 冷や汗を垂らしながらもう呆れの息を吐くことすら疲れた。

 とっくに真白は図書室時点で退場、途中途中で彼女は人に多く話しかけられ頼まれる。その度に移動に移動と忙殺にもほどがあった。その移動距離の長さから、真白は途中で眠気に襲われダウン。

 朱音にすぐさま連絡を取り送迎役を押し付けたわけだ。


「……………………………つーか、なにしてんだろあたし」


 これじゃあ本当にストーカーみたいだ。


 真白は探偵ごっこだとはしゃでいたけれど、謎というのにも根拠がなさすぎる二羽の目撃情報のみが頼り。

 何がそんなに楽しいんのか、よく分からなかった。二羽としてはただただ義務感のみで、その後のことだなんて考えてもいないわけだ。


 確かめたいだけ、なのか。


 それとも、その続きで何をーーーなにをあたしは望んでいるんだ?


 そんなことを考えたって終わりはなかった。それでも彼女が塾から出てくるまではここで待機するしかない。まとめられることはまとめておきたい。


 向かいのビルが塾、というか予備校。

 そのすぐ脇の路地へと入り壁へと背中を預けた。


 一息つける、というところでーーー



 「お前何やってんだ」



 と呆れ混じりの声が届いた。驚くわけでもなくスマホから目線を一瞬やってその姿を確認した。


「………………赤?」

「もう少し良いリアクションしろよ。ビビれよこのストーカー」


 赤音には真白を任せたはずなのだが、なにかおかしい。赤音は真白となかなか離れたくないと思って妨害阻止の為にも派遣したのだが、予想外だった。驚きはしたけど可能性としてはあったのでそこまで驚くことではなかった。


「ストーカーとは失礼ね。あたしは探偵ごっこをしてるの」

「とんだ迷惑ものだなーーーで、何探ってんだよ空離州二羽」


 スマホから目線をそのままに、二羽は余裕綽々と言葉をつなげる。


 こんな茶番は飽き飽きなのだ。


 というかなんでこんなとこにいるんだよ、というのご二羽の心境であった。こうして表面をある程度取り繕う必要なく、はだけた制服以上に砕けて二羽は赤音でないそれに接する。


 普通、二羽以外なら信じたであろうこのシチュエーションは偽物。


 それに気持ち悪い。


 いい歳こいた野郎が何やってんだか。特に今回は知り合いで尚且つJKで口調まで真似てきやがって、不愉快極まりない。そのオーラを隠そうとしない二羽は剥き出しに、ない牙を向けた。


「友人、おふざけはやめろ」

「おーっとバレてた?」


 次の瞬間、赤音の姿をしたそれは煙のような黒いモヤに包まれて姿を徐々に変えていく。体躯は多く異なり、細みで低身長の男児へと容姿を変えたのだった。


「………あたしそれ嫌い」

「なんで?君、好きだろショタ」

「だからだよ。中身おっさんづてわかってたら余計によ」

「仕方ないなー」


 立て続けに黒モヤに包まれ、次はあの満開桜の時と同じスーツ姿の中年男性へと容姿が変わった。


 これで満足かい、といわんばかりの薄ら笑みを浮かべて。


「で、何」

「用ということはないんだけど僕は優しいからね。君の幸福のお手伝いをしに来たんだよ」


 胡散臭い。


 そんな言葉すら吐くことすらも面倒な相手がこの友人だ。一瞥すらもくれやりたくもない。二羽の態度に無関心で興味があるのは、友人曰くその内心。


 弱さ、不幸、それに立ち向かう強さと幸福。

 酔狂というより単なる変態なのだから。


 こいつの扱いはそんなものでいい。そうでなければ困る。


「君が探っている子ーーー可愛い可哀想な少女は朱鷺雅在好で間違いはないよ。だから引き続き頑張ってね」


 友人の言葉があってもちゃんとこの目で確認するまでは信用しない。

 言葉にしなくとも友人は分かるはず。それなのにこんなことを言うためだけに来たのだろうか。


「間違ってはない。行動に意味はある。それを示してあげた。それだけだよ」


 心を見透かしたように続ける友人は路地の奥へ奥へと歩いていく。


 結局何がしたかったんだ。


 それっきり友人はゆっくりと路地の奥、向かいの通りを右へと曲がっていった。二羽は様子を見計らい一瞥してそれを確認した。よく、わからないことばかりだった。そしてはっとする。


 時間だ。


 小一時間、友人との僅かなやり取りのはすなのに進行がおかしかった。スマホをぼーっと見ると時間が急に進んでいたのだ。

 これは見逃したかと焦ったのは焦った。

 実際に挙動がおかしくならない程度には周囲を見、他の塾生徒もまだ出ていないようで安心はした。


 が、そればかりで過ぎないのがあの友人の登場の影響だ。



「何か用?」

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