異質の感情を抱いて

 

 再度根本的なところから考える。


 説とすれば双子、もしくはドッペルゲンガー。


 いつだって童心を忘れないユーモアと無限の発想力が大事なのだ。

 ありえな気にしてもちゃんと調べるべきだろう。未だに信じきれない二羽かいるのだから余計やなはっきりさせねばならない。


 一番の調べ方がもう一度あの可笑しな世界に行くのと実際に変身する様子をリアルタイムで目撃することができればいい。


 手始めに………。


「ねぇ白」「なあにぃ」と真白はパックの牛乳のストローを食わえて遊ぶ。


「朱鷺雅在好ってどんなやつ?」


 そして吹き出す真白の牛乳を未然に、口をそばの遅刻届の上で防ぐ二羽。

 よくわかったねぇ、と大袈裟なリアクションを他所に呑気に褒める真白に、

二羽は呆れながらも「純粋な興味よ」とだけ答えておく。


 ついでに口元をハンカチで吹いてやった。

 真白は目を瞑り吹かれながら少し考えていた。


「やっぱりぃ、ふぅちゃんの言ってたいい子ちゃんがぴったりな気がするよぉ。入学試験筆記面接りょーほー満点だなんて高校初なわけだしぃ、だから一年生にしてせいとかいちょーさんだからねぇ」


「あ」


 耳に入れながら不意に目についた。朱鷺雅在好が窓の外、ちょうど渡り廊下辺りで先輩と話していた。


「部活の先輩?」

「副会長さんだよぉ?知らないのぉ?わたしも名前はぁ、忘れたけど」


 二羽も知らなかったが真白も大概だ。

 なによそれ、と息を吐く。


「剣道部だったはずだよぉ?最近弾幕で全国二位とかかいてたきもしなくもなぁーい」

「ふぅん。副会長ってことは元生徒会長よね?」

「うん」

「文武平等。やっぱり生徒会長になる人っていうのはそーゆー人なのね」

「たしかねぇ。でもりーちゃんは部活入ってないよぉ。そもそも進学校だからねぇ。部活がわいわいーっしてるわけでもないしねぇ」


 その点言えば、生徒会業務に加え、部活にも力を入れていた前会長様も等しく優秀とも言える。

 胸の内で感心しておく。


「でも、進学校っていいながらこうも実力差があっていいものなの?」


 二羽は教室内を見渡す。


 多くがうつむき加減に日々を過ごしている。

 期待を胸に抱き入学しても早々に学力での格付けがされる。他校で優秀だった生徒も秀才の中では凡人に成り下がってしまうものだ。

 同等の秀才の中の真の逸材というのは異質。


 突出した異質こそ天才。


 今の所はただのいい子ちゃんでも、あの少女の正体が本当に朱鷺雅在好ならば話は別なのだ。


「丁度いいわ。そこの三人衆」


 うつむかない例外な男子グループを指名をする。思わぬ方向からで各々の反応が性格を体現していた。


「朱鷺雅在好について、どう思う?」

「二羽っちから話しかけてくるなんてー今日は氷でもふるぜ!」

「チャラ男は黙ってて」


 身振り手振りをうるさくしながら近づいてきたチャラ男を蔑視して突き返す。これで折れるとは思わないが、わざとらしい嘆きをよそに二羽は残りの二人へふる。


 爽やかくんに目線をやると答えてくれた。


「朱鷺雅在好さん、だよね。うーん……生徒会長だからやっぱり賢いって印象が強いです」


 背後に半分隠れる前髪くんも頷いている。 


 我が校なだけに秀才というのは目立つ。学校生粋のナンバーワンの学力、その証が生徒会長という座なのだから。学年などそこには関係ないのだ。学力が上回ればそれまで、実力主義の御伽高校だ。


「それに僕らのようなDクラスにも壁なく接してくれているし、優遇してくれるように先生方持ちかけたって話も聞いたんです。だから優しいというのもあります」


 模範解答とも言える言葉にふぅんとしか言えない。

 きっと多くの生徒に聞いてもそうなのだろう。


「優遇ねぇ………」

「上のクラスは僕らのことを気に留めない。卑下も馬鹿にもしない。いじめもないですし。陰口は多少あっても、直接的な接触がない分楽なのは楽だと思いません」

「逆にいないモノ扱いすぎてなんか虚しいけど…」


 そこは人によって感じるものは違うのでノーコメント。


 二羽は爽やかくんと同じだった。


「好きか嫌いかって言えば?」


 この質問は単なる興味だった。

 二羽は一択に嫌いだ。


「率直ですね」

「俺っちは好きだぜー!可愛いし可愛いしーかわいいからな!ちょっと胸が物足りな」

「いい加減黙れってお前……………っ!」


 前髪が珍しく強く出た。チャラ男くんの頭を容赦なく叩いた。真白に至っては拍手までしている。


「………前髪くんはどう?」

「えっ、あっ……とぼ、ぼく?」


 いきなり振られたのと目がしっかりとあってしまったのとが重なってかキョドりながらも前髪くんは口を開いた。相変わらずの目が合ったのはその一度だけれど、目線をチラチラとさせながら言った。


「………好きと嫌いとかの以前に………怖い、かな」

「………怖い?」

「え、と………上手く言えないけど、完璧すぎるから欠点とか弱みとかなくて、適う要素がないから」


 的確なツッコミにも、前髪くんの意見にも考えるはあった。


「なんで張り合おうとしてるんです?」

「ゲームのラスボス的な感じで考えてもらえればどう?」

 という余談もおいておいて、二羽は席を立ち上がった。真白も遅れながらにその背を追った。突飛な質問から置いてけぼりな三人衆(主にチャラ男が)が野次を飛ばす。


「もうすぐ授業ですけど」

「サボりですかー!なら俺っちも」

「行くなって………」


 今の所は遅刻以外は基本的に出てはいる。


 一日くらいは平気だ。折角だからAクラスが外からよく見える屋上へと足を急がせた。

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