55話 手合わせ(ユナVSアリアドネ)
場所はアリアドネの小屋から少し離れた広場。
「結界、少し厚めにした」
「ありがとう」
向き合うのはユナとアリアドネ。サリーは離れたところで見ている。
「じゃあ、はじめようか」
ユナがそう言うと、ふたりの間にピリッとした空気が流れた。
ーーーーーーーーーー
そもそもどうしてこういう状況になったのかというと。
「ね、手合わせしてくれるって話はまだ有効?」
そんなことをアリアドネが言ったのが始まりだった。
「僕は構わない」
「体調は?」
「絶好調って訳じゃないけど、悪くもない。良くも悪くも普通。だから軽い手合わせくらいだったら気にしなくていいよ」
「良かった。実は最近あんまり動いてなかったから訛っちゃうなって」
「それを言うなら、僕の方こそかな。ルールは?」
「魔法控えめ、黒鎖無制限で」
「了解」
前の時もこうして簡単なルールを決めて手合わせをしていた。
とはいっても戦闘力に関してはユナが圧倒的に強いのでハンデを設けている。
今言ったものもユナに対する縛りで、対戦相手、つまりアリアドネには適用されない。
ちなみにユナの使う黒鎖はアリアドネの戦闘の参考になるので全力使用を求められている。
副次効果についてもある程度は耐性の訓練ということで使って欲しいとの要望だった。
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張り詰めた空気の中、アリアドネが先に動いた。
まずは正面から複数の糸がユナに向かう。
ユナはそれを短剣で捌く。
色を調整して見えにくくされた糸、見えやすい糸の影からのそれのフェイントもあっさりと捌いた。
「これ、結構自信あったんだけどな」
アリアドネはそう呟く。
「表の糸がわかり易すぎる。フェイントですって言ってるみたいだ」
返事は期待していなかったが、その場からユナのアドバイスが飛ぶ。
もちろん、ふたりとも手を止めずに。
アリアドネの背後から黒鎖が伸びた。
「っ!」
それに対応しようとアリアドネの攻撃が緩み、少しだけ体勢を崩した。
その隙にあえての正面からの黒鎖。
一瞬の隙と視覚からのそれにあっさりと腕を取られ、近くの木に引き寄せられた。
ユナはそうしてできた時間で、空中を何度か短剣でなぞる。
アリアドネが攻撃の間に仕掛けていた不可視の糸の排除をしていた。
これを放置していれば、気付いた時には動けなくなるほど身体に絡みついていた、ということになる罠だった。
これもユナが細めの黒鎖でやっていたことで、それを糸で再現していたものだった。
というより元々は糸で使われる戦法をユナが黒鎖で再現していたものだったので、ある意味元に戻った感じだ。
周囲の糸を払ったユナはアリアドネに向き直る。
「ここっ!」
木に張り付けられたままのアリアドネが頭上に仕掛けていたくす玉のような仕掛けを作動させた。
「……っ?」
わかりやすいその攻撃をさっきのように短剣で払おうとして腕が固定されていることに気が付いた。
さっき切り払ったと思った糸が切れてなく、それがユナの動きを固定していた。
「やるじゃない」
魔法で払うのは簡単だったけれど、今回の条件は魔法控えめ。
ユナは固定された腕をそのままに無制限の黒鎖で対応しようとした。
「っ!!」
が。
絡まった糸が急に地面に引き寄せられてユナの体勢が崩れる。
そのうえ黒鎖の発動が阻害された。
「あ、」
その瞬間、ぱちんと何かが弾けてアリアドネが崩れ落ちた。
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「ごめん、調整ミスった」
そう気まずそうに言いながら、アリアドネに治癒をかけていた。
「きっついよ……、これ……」
なんとか回復したアリアドネがそれだけの言葉を発した。
「ええと、何があったの?正直やってる事あんまり分からなかったけど、特に最後」
観戦していたサリーが訊いた。
「簡単に言うと、リアが思っていたよりも強くて、それに驚いた僕が焦って条件外の攻撃をしてやりすぎた」
「ふう……。そう言って貰えると光栄ね」
まだ顔は青ざめているが、少し落ち着いたアリアドネがそう返す。
「あの切れなかったやつ、特殊な糸だった?」
ユナがそう訊く。
「そうなの!ユナに貰った綿花とエリーゼ姫とレンくんの魔力、それに私の魔糸を編み込んでルーの隠密をかけた特別製なのよ。ユナに通用するならほとんどの相手に有効ね」
「集大成みたいなことしてるじゃん。糸は切れたように見せかけて実際は魔力で繋がっている。切れたと油断したところで繋げた……って感じ?」
「初見でそこまで見抜かれるなんて」
喜んでいたアリアドネがしゅんとなる。
「僕の力が少し入っているように感じたから、そこから。でもこの世界で対応出来る相手はいないんじゃないかな。むしろ少し過剰」
「ここぞという時に使うことにするわ。そもそもまだあんまり量がないし。素材の問題で」
「あの綿花ね。霊草の一種だからちゃんと育てるの面倒だ」
「育てるのも大変だし、成功しても思った効果が出なかったりで。それでも種は取れるからなんとかなってはいるけど」
「繁殖力は強い品種だからね」
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