54話 魔法具のペンダント

「そう、戦闘訓練してたのね」


 小屋に戻るとアリアドネは帰宅していた。


「王城の仕事ってそんなに短いの?」

 まだ日も落ちる前だった。

「通いのメイドはこんなものよ。いつもは住み込みだからもう少し仕事時間は長いけど、ここ数日は通いに合わせてもらってるから。厳しいようなイメージだけれど、結構融通がきくの。他の部署とかは知らないけどね。

 それでも噂話とかは回ってくるから情報収集にはすごく便利な立ち位置ね」


「そういえば、あれから王城ってどうなってる?」

 時間もなく、変態(王と大臣)を放置していた事を思い出したユナが訊く。


「あー、あの惨状見つけたのって部屋を掃除しに来たメイドだったらしいんだけどね。結構混乱して話したからか尾ひれがついて『王と大臣は空き部屋でお互い全裸で逢い引きしていた』ってことになってたよ。その後すぐ揉み消しにかかったみたいだけど、城中に広まったものは消せないわよね」

 アリアドネは呆れたように笑いながら答えた。


「全裸で逢い引きってどこから来たの」

「さあ?発見時にシーツにくるまってたから想像なんじゃないかな。噂ってすぐ尾ひれつきまくるものだし。

 ついでに言うと、ユナ達が脱走したことは全く噂になってなかった。そもそも入城したことすら知らないみたい」


「そういえば、入ったのも裏口とかだったし、その時に会ったのもほんの数人だったね。

それにしても王と大臣って何?」

「あ、サリーは眠らされてたね、その時。簡単に言うとあの後、襲われそうになったから返り討ちにして放置してきた。ちゃんと処理したかったんだけど、発作の前兆が来てたのもあって、起こして説明する時間もなくて」

 発作についてはサリーは知らないことになっているはずだったが、それを忘れてユナは発言してしまった。


「私、足を引っ張ってばっかりね」

 サリーはそれには気付かなかったのか流したのか、前半の言葉だけに反応した。


「強力な魔法具使われてたし、あんまり気にする事はないよ」

「そうそう。王達が使ってたってことは結構な高級品で威力も無駄に高いだろうからね。

 というか事前にちゃんと対策してなかったら多分私も負ける」

 ユナのフォローにアリアドネも重ね、胸元からペンダントを取り出した。


「あ、それ。まだ使ってたんだ」

「これより性能がいいものなんてないもの」

 ユナがそれに手を伸ばし、触れた。

「少し借りても?調整したい」

「いいの?自分でもメンテはするんだけど、初めの頃と比べたらやっぱり性能落ちちゃって」

 アリアドネは首から外してユナに渡す。


「他人が作った魔法具のメンテナンスは難しい。それにあの時は素材もありあわせだったし、長期で使うつもりで作ってない」

 その魔法具は前の時にユナが作ったもので、本人の言うようにそこまで性能の高いものではない。

 とは言っても最終戦間際に使うためのものだったので、この世界の一般的なものよりは良いものだった。ありあわせの素材というのもその時点でのありあわせなので品質も悪くない。



 受け取ったユナは一度魔力を抜いた。まっさらな状態からの方がやりやすいというのもあるし、効果をいじりたいというのもあった。

 ほとんど空になった核の魔石に魔力を注ぎながら効果を書き換える。元々の効果だった各種耐性に加え、一部を強化させていった。


 時間にするとほんの数分。

 傍から見れば手に持って見つめているだけだったが調整と改良が終了した。

 見た目に関してはほとんど変わっていない。魔石部分が気持ち透明度を増した程度か。



「はい。ベースはそのままで精神干渉系を強化しておいた。込めたのも魔力だけだから、前のよりはメンテもしやすいと思う。あとは自分で馴染ませて」

 そう言って魔法具をアリアドネに返した。


「うわあ、ありがとう!」

 受け取ったアリアドネは、外から見えないよう胸元の内側へ戻した。


ーーーーーーーーーー


「これ、そっくりだったな」


 ひとりになった時間で、取り出したのはお守りのペンダント。いつからだったか、肌身離さず身につけているものだった。


 それもそのはず、サリーの持つそれはユナが作ったものだった。

 しかしアリアドネのものとは違って、ちゃんとした素材で、さらに言うと全盛期の頃に作ったものだった。

 性能に関しては、過保護なユナが詰め込めるだけ詰め込んだのでかなりのものになっている。

 この世界の基準で言えば、国宝級では済まない性能だった。


(多分ユーナちゃんが作ったもの。でも、なんとなく訊けなかった)

 いつ作って貰ったのかは全く覚えてなかった。

 おそらくは欠けた記憶のどこかにそれがあるのだろう。


 しばらくそれを手の中で転がして、元の場所へと戻した。


 サリーが手を離すと、お守りはすうっと見えなくなった。

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