56話 黒鎖
「だいぶ落ち着いた気がする」
そうこう話している間に、アリアドネの顔色が良くなってきた。
「ほんと、ごめん。不快感とかは」
「少し気持ち悪いけど、ほとんど治まったわ」
驚いた反射とはいえ一時的に失神するほどの精神攻撃を受けたわけで。調整したばかりの魔法具があってもこのダメージとなると、元の威力は相当なものだったのだろう。
「魔法具の調整してもらってて良かったわ」
「耐性は強化したつもりだったんだけど。もう少し強めた方が良かったかな」
「ユナほど強い精神干渉を出来る人なんて、この世界にはいないと思うけれど」
「そんなことはない……と言いたいけどその通りな気がする」
謙遜しようとしたが思い直してしまった。
得意という訳ではないといいつつも精神干渉は使えるし、使い慣れてもいる。弱体化していることを加味しても、ユナの方が強いという可能性はかなり高い。
「一応確認する。貸して」
そう言うのでアリアドネは魔法具を渡した。
受け取ったユナはそれを手の中で転がす。
「ああ、そういう」
しばらく魔法具を確認していたユナが、納得したように呟いた。
「何かわかったの?」
アリアドネの質問に、ユナがわかったことを話す。
「うん。
すっかり忘れてたのだけど、『一定以上のダメージを受けると周囲の魔力を吸い上げて加害者へカウンターを仕掛ける』っていう防衛システムがあったの。
確か、元々の魔石にあった効果だったかな。所謂自爆攻撃みたいな。
それで、今回は一定以上のダメージを受けた直後に解除したから周囲の魔力、今回の場合はリアの魔力と多分回収中の黒鎖もかな、これを吸収した。
その後に本来ならカウンターを返すのだけど返される前にリンクを切ってしまったから行き場のなくなった魔力はそのままリアに戻った。
その短時間の急激な魔力の減増に魔力体が耐えられずに失神した。
多分、黒鎖のダメージよりこっちの方が大きかったと思う」
「そういえば、起きた時の不快感は昔に無茶しかけた時のと似ていたわね。全力で魔法打って枯渇寸前になった時に偶然居合わせた高位の治癒士が治癒かけてくれた時の。
条件だけ見ればその時と同じね」
「正直、枯渇よりも急激な増減の方がきついかも。その治癒士がどんな治癒をかけたかは分からないけれど、治癒って他人の魔力が身体に入るわけだから、枯渇状態の時はポーションとかでゆっくり回復させる方がいい場合が多いかな。
もちろん戦闘中とか即効性が必要なら治癒の方が速く回復するけどね」
そこで思い出したように追加する。
「そもそもさ。自分で言うのもアレなんだけど、黒鎖のダメージ通ってたら不快感程度じゃなかったと思う」
「それはそうね」
「黒鎖って強すぎない……?」
話についていけてなかったサリーがぽつりと言う。
「本来、敵対対象を拘束したうえで無力化させるっていうものなんだけど。便利だからってしょっちゅう使ってたらいつの間にか強化されてた」
所謂熟練度というやつだろう。
ちなみに拘束以外にもちょっとした空中移動や防御とかにも使っている。副次効果に魔力を割り振らなければただの丈夫な鎖でしかないのだ。
その丈夫な鎖というのが、戦闘でも日常生活でも結構有効で使い勝手もいいのだ。
「というか糸とか鎖とか、そもそもがカッコイイ」
そう言うサリーはどことなく羨ましそうだった。
「私は種族特性?みたいなもので糸を操る時にはほとんど魔力を使わないし手足以上に動かせるけれど、」
「直線ならともかく、細かく動かそうとすると思考のリソースも結構使うし難しいよ。僕も糸はそこまで得意じゃないし」
「あ、やっぱり糸も使えるのね」
予想はできていた、というようにサリーが言った。
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