50話 思っていたよりファンタジー
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「ユナ、というかふたりとも。私がいること絶対忘れてるわね……」
アリアドネはそう呟いた。
「それにしても、ユナのあの表情。あの子がユナの大切なひとなのね。これはエリーゼ姫、完全に勝ち目ないわね」
ユナがリゼと呼ぶ、ウィスタリアの王女でもあるエリーゼがユナのことを好きなのは元一行にとっては周知の事実だった。それは本人も知っている、というか道中で告白してキッパリ振られていた。
その時に元の世界に大切なひとを残していると言っていたのだった。
現地妻の扱いでいいからなどと押しまくって、「気持ちは変わらないけど勝手にすればいい」と言わせ、それを目の当たりにしたアリアドネ達は何があそこまでさせるのだろうと呆れを通り越して感心していた。
当時はここまで言われているのだから少しは応えてあげればいいのにとまで思っていたが、今のサリーに対するユナを見ているとこれは敵わないと思わせられる。
態度は他の身内に対するそれとあまり変わらないが、目線がとても柔らかいのだ。
そう見ると、ユナの想いに対してサリーが他人行儀な態度、それでも仲が悪いという訳でもなさそうというのはアリアドネが気になっていることであった。
機会があったら訊いてみようか、どっちに訊いた方がいいのか、と考えていた。
アリアドネはふたりの関係性について考えながら、ユナから受け取った鳥の下処理を済ませていった。
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「あら。もういいの?」
ちょうど鳥の解体が終わった頃、ユナがキッチンへ入ってきた。
「もういいって、なにが。あ、サリーが水場借りてる」
ユナは平常通りに見えた。
「いえ、なんでもないわ。
鳥だけど、暇だったから解体は済ませちゃったわ。調理はどうする?」
「ありがとう。調理法については考えてなかったけど、そうだな。たまには揚げようか」
ユナはそう言って調味料を取り出し始めた。
「油はあるわよ。というか固形物の気分じゃないって言ってたのに揚げ物って……もたれない?」
「シンプルな味付けにするし、ラピットのお肉は別腹。油ってどっち?」
「今あるのは動物性ね」
「じゃあいいや、あっさりがいいし。鍋だけ借りる」
ユナは話しながらもさくさくと調味料を混ぜ合わせていく。
その間にアリアドネがちょうどいい大きさに切り分けていった。
「というか、相変わらず調味料も持ち歩いてるのね?」
ユナが取り出している調味料は家庭用の大瓶だった。それも日本製の。
「せっかくなら美味しいもの食べたいし。こっちで再現してもいいけど、スパイス系は特に探すの大変だからね」
異世界あるあるの料理が味気ない問題はこの世界にも存在していた。だからユナはいつ異世界に行ってしまってもいいように、ある程度の調味料含む食材は収納袋及び収納魔法に入れていた。もちろん日本人には必須の米も。
「おかげさまで野営でも美味しいもの食べられたものね」
「まあ、こっちの食材は元の世界よりも魔素が多いから素材の味がしっかりしてるっていうのもあるけど」
「その違いについてはよく分からないわね」
「前にも話したかもしれないけど、元の世界では表向き魔法とかが存在しない事になっているから、天然ものならともかく養殖物は魔素があんまり入ってないんだよね。
出身が異世界とか異世界帰りの人とかに向けた、魔素を含む食材もありはするけど」
「まって」
そんな話をしていると、いつの間にか入ってきていたサリーがストップをかけた。
「私たちが住んでた世界って、そんなファンタジー要素あったの!?」
「まあ、裏では結構。特に最近流行りだしね、召喚系って」
「流行りとかあるの!?」
「うん、最近増えてきたそういった創作物あるじゃん?あれのいくつかは実話。異世界帰りの知り合いがあっちで書いてた日記を参考に漫画書いたらアニメ化決まったって言ってたし。知ってる人とか風景の描写とかたまに見かけるよ」
知り合いの一件は一緒に行ったやつだったから、名前はぼかしてもらった。メディア化する時に「書いてみたら売れちゃった、一応出演者に許可取らせて」って連絡が来たやつだ。その人の視点だとこう見えてたんだってちょっと新鮮だった。
あの時に無理したせいで今も引きずっていることもあるから複雑な心境でもあるけれど。
「あとは、実は人外だったり亜人だったりがひととして生活してたり、魔獣がペットとして飼われてたりもする」
ユナは少し面白くなって、更に情報を追加した。実際にユナの家で犬として飼っている子はウルフ系の魔獣だった。ちなみに異世界からでも召喚獣として呼び出すことも可能だ。
「ちょっと待って、理解が追いつかない……情報量……」
サリーはユナの思惑通り困惑する。
異世界に来て、元の世界も実はファンタジーだったよ!って言われている訳だから混乱するのも無理はなかった。
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