49話 霊力と魔力

 結界があるからそこから出ないようにと言われたユナだったが、あっさりとその外へ出ていた。


「休ませたいっていうのはちゃんと伝わってるんだけど、もうそんなに調子悪いわけじゃないんだよな」

 そう呟いた。

 起きた時に固まっていた身体はすっかり解れている。体内で力を動かしてみるが、それも問題なく動いた。


 問題があるとすれば。

「霊力の方が少し、少ないかも」



 一般的に肉体を持つ生物は魔力だけを宿している。一方、霊力を持つのは植物などの自然物や、精霊や妖精といった霊体で存在する生物である。


 基本的には生物はどちらか一方を持って存在している。

 環境や行動によってもう一方を得ることも出来はするが意識しての成功例は少ない。両者は同一個体内に入ると反発してしまうからだ。

 魔力の濃い所に生息する植物が後天的に魔力を得るということや、霊力の濃い、いわゆるパワースポットに通うことで霊力が体内に溜まるということは起こったりするが。


 そして、ユナは産まれた時から両方を持つ稀少な存在だったりする。

 最初から両者が存在している状態で安定しているため、同一個体内でも反発は起こらない。更に言うと相容れないはずの力を混ぜ合わせたり変換させたりすることも出来た。

 デメリットといえばエネルギーバランスが極端に崩れてしまった時には体調に影響が出てしまう事くらいか。


 ちなみに今回倒れた原因とはあまり関係がないし、多少減少した今くらいではほとんど誤差のようなものだったりする。

 万全の状態に近付けておこうと行動しているだけだった。



「寝ている間結界の中にいたって事は、その間の分かな」


 魔力で作られた結界の中では霊力はほとんど存在せず、補給できずにいたということだ。

 魔力は体内で生成されるが、霊力は外から補給する必要がある。とはいっても、霊力が存在する空間に居れば勝手に補充されるのだが。


「あんまり離れたり遅くなるとまた心配かけるだろうから手っ取り早く補給して戻らないとだ」

 ユナはそう呟いて周囲を探る。

 幸いにも現在地は自然溢れる森の中。結界から出た今は立っているだけでも補充されている。

 それでも霊力の濃い場所に行けばより速く補充できる。


「霊力溜まりの付近に魔獣の気配があるな。……でもこの気配は」

 ユナは獲物に気が付いてふっと笑みを浮かべた。

「ちょうどいい栄養源になってくれそう」

 そう呟いて気配を消し、その場所へ近付いた。




 サクッと仕留めた魔獣、それは鳥型の魔獣だった。

 それも、今回この世界に来てから初めて狩ったウサギと同じラピット種の。

 鳥の血抜きを傍らに待ち、空いた時間でユナは大きく息を吸った。

 小さな戦闘を起こしたことで多少気は荒れてしまったが、問題なく霊力が流れ込んでくる。それを何度か繰り返し、血抜きが終わる頃にはしっかりと補充が完了していた。


ーーーーーーーーーー


「ユナ、結界の外に出たわね」

 アリアドネはユナが出ていった扉を見ながらそう呟いた。結界を張ったのはアリアドネ本人だったので、出入りがあればすぐにわかるようになっている。

 もちろんそれがわかっていてもあえてユナは隠さずに外に出ていた。


「え、出ちゃったの?ユーナちゃん、アリアドネさんの言葉にわかったって返してなかったっけ」

「ええ。まあ出ちゃうだろうとは思っていたから、出ないようにじゃなくて離れすぎないようにって言ったのだけどね」

 アリアドネは以前にもユナが度々せっかく張った結界から出て何かしていたのを見たことがあった。だから今回もそれだろうと軽く流していた。

「えぇ……」

 サリーは自分の知らないユーナを知るアリアドネを見て少しだけ不貞腐れた。


ーーーーーーーーーー


「少し遅くなっちゃった」

 軽く霊力だけを補給して戻るつもりが狩りを挟んでしまったせいで言葉通り遅くなってしまった。

 お土産の鳥を無造作に持ち、小屋に戻る。



 ガチャリ、とドアを開けると全く表情を変えないアリアドネとまた不機嫌そうなサリーが出迎えた。


「これ、近くに居たから狩って来た……サリー、どうかした?」

 ユナが鳥をアリアドネに渡しながら、様子のおかしいサリーに気付いて声をかけた。


「ユーナちゃん、病み上がりなの自覚してるの?」

 サリーはまだ本調子でないと思っているユナが安全の保証されている結界から外に出て、あろうことか狩りまでしてきた事に対して怒っていた。


「自分の身体のことはちゃんとわかってるし、無理はしないようにしてるから大丈夫だよ」

 そもそも無茶な行動はできないし、と遠い目をして思った。

「それでもだよ。はっきり言わせてもらうけど、私はユーナちゃんのこと頼りにしてるし心配してるの。……知らない世界で、ひとりにしないでよ」

 最後の一言は小声だったが、ユナにはしっかりと届いていた。


「心配かけてごめん。でも、多分これからも心配させちゃうと思う。

 それでも、ひとりにはしない。絶対に。それだけは約束する」

 ユナはそう言って、サリーを抱きしめた。



 それを横目に、アリアドネはそっと席を外した。

 お土産の鳥をキッチンへ持っていくという体で。

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