48話 盛ったでしょ

 アリアドネの話もひと段落つき。

 気がつくと外は完全に暗くなっていた。


「あら。話し込んでいたら結構時間経ってたわね。さっきおやつを食べたばかりだけど、夕食はどうする?」

 外の様子に気が付いたアリアドネがそう切り出した。


「あ、貰いたいかも。ずっと貰ってばかりで悪いけど」

 サリーがすぐに答えた。

「気にしなくていいのよ。食材のほとんどはこの辺りで採れるものだし。ユナはどうする?」

 王都周辺とはいえ辺りは森になっている。採集でも狩猟でも食材には困らないのだ。

「僕は要らない。今は固形物食べられる気分じゃないし。……果実水だけもう少し貰える?」

「わかった。一緒に持ってくるわね」

 アリアドネはそう言って席を立った。



「ねえ、ユーナちゃん。一人称、気になったんだけど……」

 アリアドネが扉の向こうに消え2人だけになって会話が止まりかけた時、サリーがそう訊いた。

 そしてユナは気付いていなかった、と目を伏せた。


「あー、気が抜けてた。こっちが素なんだ。日本ではあんまり一人称が僕の子いないから矯正してたの」

 ばつが悪そうに言った。

「可愛いのに。というか、なんかそっちの方が自然に聞こえる。ここは日本じゃないんだし自然体でいなよ」

「じゃあ、そうしようかな」

 サリーの言葉に、ユナは微笑んだ。




「お待たせ」

 そんなことを話していると、アリアドネが食事をトレイに乗せて入ってきた。

「同じようなものばかりでごめんね」

 トレイの上にはここに来て何度も食べた野草と魔獣の肉野菜炒めと小ぶりなパン。それとユナがリクエストした果実水が乗っていた。

 野草と肉、それと果実は周辺の森で採れたもの。というかそれくらいしか採れないのでその素材を使ったものがメインになる。


「アリアドネさんの肉野菜炒め、さっぱりした味付けで好きだよ」

 サリーがいただきます、と言って箸に手をつけた。

 ちなみに箸文化はこの世界にはあまり普及していなかったが、ユナの影響で元パーティメンバーはメインで使う食器だったりする。



「っ?…………」

 ユナも渡された果実水を口に運んで。1口飲んで表情を変えたあと、一気にあおった。


「ねえ、リア。……盛ったでしょ」


 そしてそう一言言った。


 それに対して、

「やっぱりバレた?」

 アリアドネはあっさりと認めた。



「ん?どういうこと?」

 2人の雰囲気が変わったことを察してサリーが口を挟んだ。


「リアが果実水に薬物盛ったって話」

「ん!?どういうこと!?」

 なんでもない事のように言うユナと、驚きすぎてさっきと同じ言葉を繰り返すサリー。

「え、でも飲んじゃった……?」

 そう、カップの中身は空だ。一気に飲んでしまったから。


「僕には、薬物も毒物も効かないから平気。……盛ったのは睡眠薬、いや、睡眠促進剤かな」

「中身までバレてるのね」

 アリアドネはやれやれと手を振った。


「まあ、意図は伝わったから。明日にでも出るつもりだったけど、もう少し休ませてもらう。

 サリーもそれでいい?」

 ユナが軽く言い、サリーに今後の方針を訊く。

「それでいいも何も、明日にでも出発するって言うのも初耳だしユーナちゃんが本調子になるまで待った方がいいとも思うし。

 というか薬物耐性?どれくらいあるの?」

「即死級の毒物とかも無効化出来るレベル。効くものを探す方が大変なくらいだと思う。……その代わり有用な薬も効かないけどね」


「じゃあ、怪我とか病気の時は?」

「魔法治療も弾かれることが多いし、基本自然治癒に任せるしかないかな」



「その自然治癒が凄いのだけどね」

 アリアドネが小声で言った一言は2人の耳には届かず消えていった。




 まだ2人が食事を取っているのを見ながらユナが立ち上がった。

「ちょっと外の空気、吸ってくる」

「この辺りは結界張ってあるし大丈夫だとは思うけどあんまり離れないようにするのよ」

「分かった。それとリア、後で付き合って」


 ユナはそう言い残して、返事を待たずに小屋を出ていった。

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