45話 アリアドネ

 ユナは気絶した2人を部屋の隅へ追いやって黒鎖を解いた。そして見たくもないというようにその辺にあった布、つまりは布団をかけた。

 これで変なものを見なくて良くなった、というようにため息をつく。


「とりあえず魔法具止めたし、起こして今後の方針を……」

 そんなことを考えていると急に脱力感がユナを襲った。

 時間にするとほんの一瞬の事だったので少しバランスを崩す程度で済んだが、ユナの表情が曇った。

「起こして事情説明してる時間はない、か」


 ユナはサリーを抱えたまま窓を開けて外へ飛び出した。


「安全地帯……この辺りの地理には詳しくないし、分かるところまで行くのはちょっとキツい、か」

 とりあえず上へ飛び、屋根に着地した。



「隠れ場所、探してるの?」

 ユナの背後から急に声がした。

 振り向くとメイド姿の少女がひとり。スカートが風でたなびいていた。

「訊きたいことも言いたいこともあると思うけど、時間がないんでしょう?着いてきて」

 メイド少女はそう言うと、屋根から飛び降りた。


 方向的にはオブシディアンの反対側。

 仮に追っ手が出るとしてもそっち方向へ捜索に出ると予想されるので、その面でも安心出来る。


 ユナは考える間もなく、少女に着いて行った。



「ここ、好きに使って」

 案内されたのは森の中の小さな小屋。

「ここは敷地ごと結界があるからそうそう見つからないと思うわ。……それじゃ、私は戻るから。また様子見に来るけど、回復して出るならご自由にね」

 少女はそう言って立ち去ろうとする。


「助かる、ありがとう」

 ユナはそう言って意識を手放した。


「っと……。相変わらず懐に入れた相手に対して無防備なんだから。寝返ってたらどうするのよ」

 倒れかけたユナの身体は空中で止まっていた。サリーも一緒に。

 そしてそのまま寝室へと運ばれた。


「まあ、今でも仲間だって思われてるなら嬉しいかな。

 にしても、この子がそうなのよね。エリーゼ姫が嫉妬するだろうな……、というか先に会った私もかも。ルーから報告は受けてるだろうし、絶対やきもち妬いてるんだろうなー」

 少女は2人を寝かせると、運ぶために使っていた糸を回収した。そして、布団をかけるついでにそっとユナの髪を撫でた。


「さて。潜入中とはいえ与えられたお仕事ある事だし戻らないとだ」

そう言って今度こそ小屋を出ていく。


ーーーーーーーーーー


「はっ!!寝てた!!」

 サリーが飛び起きた。

 そして状況を把握しようとする。


「ええと、明らかに城の部屋じゃないよね」

 辺りを見渡すと、小さめの部屋に質素な調度品と傍らで眠っているユーナと。

「眠っちゃう前の状況から考えて、助けてもらったってことだよね?完全に足引っ張っちゃった」

 サリーはそう呟いてため息をつく。

「ユーナちゃん、まだ起きそうにないしどうしよう」

 改めてユーナを観ると、眠っているからかなんの色も見えなかった。

「あれ、奥の方……なんかぐちゃぐちゃしてる?」

 サリーがよく見ようとした時、ガチャっとどこかのドアが開いた音がした。そして、足音が近付いてくる。



「あ、起きたのね」

 入ってきたのはメイドの少女、着替えていたのでサリーにはメイドだとは分からないが。


「どなた、ですか」

 サリーは布団で半分顔を隠しながらそう訊く。

「ここの家主、と言ったら分かるかしら」

 少女はそう返す。

「もしかして、あなたが助けてくれたんですか?」

「いいえ。私は場所を提供しただけよ。助けた云々はそっちの子がやったんじゃないかしら」


「そうなんですか。あっ、そういえば名乗りもせずに。私はサリー、こっちがユーナちゃんです。

 ……ユーナちゃん、起きて」

 サリーは自己紹介しながら傍らのユーナを起こそうと肩を揺する。

「疲れていたみたいだし、寝かせておいてあげて。私はアリアドネ。今はこの国の城でメイドとして雇われているの」

「この国の城で……?」

 サリーにとって城にいた人は敵の可能性が高い。そう思って見てみるが、敵意である黒いオーラは見えなかった。

「詳しいことはもうひとりも起きてから話すわ。それまでお茶にしましょう」

 アリアドネはそう言って微笑んだ。

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