37話 情報収集

 っと。

 部屋を出てすぐにすれ違った。さっき王女といたうちの1人だ。


 こちらに視線を向けられたが気付かないふりをして通り過ぎ、

 ようとして、辞めた。


 ちょうどいいから少し情報収集といこう。



 足を止めて目を合わせる。

 男の目がふっと虚ろになった。


「ねえ、何しに来たの?」

 知り合いと偶然会って世間話をするような、そんな感じで声をかける。

「レナ様の護衛の為に」

 ちゃんと暗示はかかっているようで、簡単に答えてくれる。

「王女の目的は?」

「勇者に接触し、女2人をリースベルトに連れ戻すこと」

 狙いはこっち、と。

「どうして?」

「聞かされていない」


 目的は私たちを連れていくため。奴隷を、とはっきり言ったことから奴隷印の効力がないことはバレていなさそう。

 別の用途で使おうと思ってた奴隷がいつの間にか旅立ってしまったから連れ戻そうとかそんな感じかな。


「勇者は?」

「特になにもする予定はない。勇者とはいえ戦闘能力はほとんど無いようなもの、相手にもならない」

 リョウ、舐められすぎでしょう。確かに戦闘能力はこっちの人に比べたらまだ全然だけど、魔力だけは結構な量あるのに。それを利用したいとかそういうことじゃないんだ。

 魔力暴走の対策が不安なのかも。実際、対策可能なマントは隠されていたわけだし。


 あとは、そうだな。

「今、何しようとしてた?」

「この辺の部屋に勇者たちが滞在しているみたいだから、様子を見に来ていた」

 正確な部屋の位置は知らない、と。

 まあこれはすぐバレるか。出入りは避けられないし。



 そんなことを考えていると、こちらへと近付く足音が聞こえてきた。


 そろそろ切り上げ時か。


「そ。じゃあまた後で、『初めて会いましょう』」


 そう言葉をかけて、暗示を切った。



 今話したことは覚えていないだろう。


 そしてそのまま、何事もなかったかのように通り過ぎた。


ーーーーーーーーーー


 宿の裏でルーと合流した。

「ごめんなさいなのです、来たばかりらしくてほとんど何も情報がなかったのです……」

 しゅんとしてる姿が可愛い、さすが癒し枠、と思ったのは置いておいて。


「簡単な目的ならわかったよ。僕とサリーをリースベルトに連れ戻すことだってさ」

「さすが師匠なのです。でもなんで、また」

「理由までは推測くらいしか。この感じだと接触は避けられないだろうね」

 心底面倒だ、という感情を隠すことなく表情に出す。今更ルーの前で気を張る必要もない。


「なにか、ボクにできることはありますですか?」

 その質問には少し考える。


「うーん、とりあえずは様子見かな。

 王女も護衛もそこまで警戒するような実力はなさそうだし、こっちに対する悪意もあまり感じない。問題は、命令を出している上がどう思ってるかだけど。

 もしも僕が対処できないような状態になったら……ルーにはサリーを連れて離脱してもらおうかな。僕ひとりならどうにでもなるし。

 そうだな、リゼなら保護してくれるだろうけど……距離もあるし厳しそうなら雫に協力してもらって。あんまり頼りきりにはなりたくないけど」


「わかったのです。

 ……それより師匠。エリーゼ様と連絡はとりましたですか?」

 自分で名前を出した時に思い出したけれど、結局バタバタしててまだ連絡をとってない。 こっちの世界に来てて連絡してないのは、バレたら拗ねそうだ。

「あー、まだなんだよね」


「エリーゼ様、顔を合わせる度に師匠に会いたいって言ってたのです」

「やっぱり?……でも、とりあえずは今の状況が落ち着いてから、かな」

「ボクが戻る時に、伝言か何かした方がいいです?」

「うーん、いいや。こっちがある程度片付いたら、直接会いに行くよ。多分その方がいい気がする」

「わかったのです」


「とりあえずルーは、アイツらには接触しないようにした方が無難かな。顔バレもしてないし、リースベルトの兵士ともなれば偏見も強いだろうしね」

 ルーのフードで隠した部分を示す。

「はいなのです」

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