38話 セレナータとの接触

「あ、ユーナちゃん。こっちこっち!」


 ルーとの密会を終え、宿の食堂へ行くとサリーが呼んでいた。

 しかもご丁寧に王女が同席している。


 既に接触済みとは、行動が速い。

 驚きつつも呼ばれた席へと向かう。



「驚いたよね。ちょっと軽食でも食べようかと食堂に来たら、王都で別れた王女様がいるんだもの。しかもお忍びで」

 サリーは王女様、というところだけ小声で言った。

「ええ。ちょっとした用事がありましたの。重要な事だからとわたくしが派遣されたのですわ」


「ええと、王女様?えっと、お忍びなら別の呼び方をした方が?」

「あら、お気遣いありがとう。わたくしのことはレナとお呼びくださいまし」

「そう、レナさん。なんだか王城で会った時と印象が違うような」

 とりあえず気になったのはそこだった。

 王城で会った時はまだ厳かな感じがあったのに、今はお転婆なお嬢様といった印象がある。


「あら、気付きまして?王城では厳しい人の目が多くて気を張ってなきゃいけませんのよ。

でもここでならどんな振る舞いをしても文句を言う人はいませんわ。貴女方も遠慮なく話してくださいまし」

 つまり、こっちの方が素だと。


「レナちゃん、こっちだと話しやすくていいね」

 一瞬どう話そうか考えていたサリーだったけれど、友達と話す感じにするようだ。

 私も話し方はそれに倣うことにする。もちろんしっかりと警戒はするけれど。


「そう言って貰えると嬉しいですわ。

 ……ところで、本題に入ってもよろしいかしら?」

 レナはそわそわしながら、周りを気にしている様子でそう言った。

「さっき言ってたちょっとした用事ってやつ?私たちに関係あるかんじ?」


「そうですの。率直に言いますわ。貴女方にはリースベルト王都へと戻って貰いたいのですわ」

 本当に率直に来た。

 レナの護衛から聞いていた通りの返答。

「私たちが、どうして?えっと、リョウは?」

 私が口を開く前にサリーが訊いてくれる。

「えっと……詳しい理由は訊かされていませんの。勇者様の方は、貴女方が戻るまで、わたくしが着いていますわ。 まだ、この国には不慣れでしょうし、ひとりにはさせられませんもの」


「……私たちは2人で王都へ戻れと?」

「貴女方にはわたくしの連れてきた兵……護衛をつけますわ」

「その人たちは、レナさんの護衛でしょう?レナさんから離れられないんじゃ?」

「そのくらい大丈夫ですわ。……多分」

 多分って。

「いえ!大丈夫です!ひとり残せば問題ない(はず)ですわ!」

 取り繕っているようにしか見えないけれど。


 さて、どうしようか。

 兵士って言いかけたけど、さっき見た護衛ひとり程度ならどうにでも出来るから着いて 行ってみてもいいかもしれない。

 問題は明らかな敵地にサリーも連れていくことになるという事。ルーにはもしもの時は保護するように言っておいたけれど、出来れば離れたくないし危険な事には近付けたくない。

 まあ、ハンデがあるまま異世界に飛ばされてる時点で手遅れかもしれないけれど。もしもの時の保険もないことはないし。


「うーん、それってまたすぐ合流出来るってことよね?」

「おそらく(帰して貰えない気がしますけど、ここは黙っているのが吉ですわね。濁しておきましょう)」

「じゃあ……行ってみる?」


 サリーは消極的ながらも従う方向で考えているようで、こちらに問いかけてきた。

 サリーがそのつもりなら。

「そう、だね」

 不本意だけれど、仕方ない。


 状況が拗れる前に探っておくのも良い手なのかもしれない。

 とりあえずはルーともう一度打ち合わせておく時間は取りたい。

 直接言わなくても察してくれそうって感じはするけれど、話すに越したことはない。


「じゃあリョウにも話さなきゃ。もうすぐ来るだろうし、レナちゃんもリョウと話しておきたいでしょ?」


「え?ええ。そうですわね、勇者様とも王城で別れたきりですし」

 少し頬を赤らめてるのが気になる。一旦別れる前まではそんなことなかった、というか最初以外接点もそんなになかった気がする。



 そういえば、前にここに来た時は『召喚されし勇者の血を残すため、王族と縁を結ぶ慣習がある』とかなんとかいう話があったような。つまり召喚された勇者はその国の王女だか王子だかと結婚しろってやつ。

 男性の勇者が召喚されることが多いとかで、王女が召喚の儀を行うことが多いんだって。

今代に至っては男性はリョウだけだけども。


 うん、僕もアプローチは受けたよ。断ったけどね。

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