36話 接触前

ーー ルー ーー


 オブシディアンへ戻っている途中にすれ違った商隊、その中に知っている顔を見つけたのです。いつもはセレスティス王都でしか会わない人だったので意外です。



「アリスさん、お久しぶりなのです」

 ちょうど休憩のようで停止したので声をかけに行くのです。

「ルー?こんな所で。驚いた」

口では驚いたと言いながら、全く驚いたようには見えないのです。いつも冷静というか、感情を表にあまり出さないのは変わらないのです。

「アリスさんこそ、王都の外にいるなんて珍しいのです」

「どうしてもオブシディアン製のナイフが欲しくて、この商隊に便乗させてもらった」

「わざわざです?」

「いいものは、自分で見て選びたいから」

 前も確か、自分の使うものはこだわりたいと言っていたのを思い出したのです。


「ルー、オブシディアンに向かってる?」

 アリスさんが思い出したように言ったのです。すれ違った方向的にそう思ったのだと思います。

「なのです」

「気をつけた方がいい」


「リースベルトの王女が来ていた」


「リースベルトの、王女……?」

 まさか師匠と、勇者一行と関わりがあるのでは?というか、状況的にそれ以外考えにくいのです。

「そう。目的は分からない。ルーなら大丈夫だと思うけど関わらないに越したことはない。こっちも急いで出てきた」

「……情報、ありがとうなのです」

「ん。そろそろ動くみたいだから、また」

 商隊の人が、アリスさんを呼んでいる声が聞こえ、それに合わせて立ち上がります。

「はいなのです。アリスさんも、道中お気をつけて」



 アリスさんを見送って、ボクはオブシディアンへの道を急いだのです。一刻も早く、師匠にこの情報を伝えるために。




ーー ユーナ ーー


 ルー?

 採集を終え戻る途中、こちらを伺うルーを見つけた。そして、ルーは何か書いたメモを渡し、去る。急ぎの事項が発生したのか。

 後ろ側にいたこともあり、2人に気付かれることもない。


 手の中に残ったメモをそっと開く。

『オブシディアンにリースベルト王女来訪の情報有』

 メモにはその1文が走り書きされていた。


 うん。これは、確かに急ぎの事項だわ。

 ルーのことだから追加情報を取りに行ったのだろう。取り急ぎ伝えたということか。


 面倒な事が起こりそうな予感がする。


ーーーーーーーーーー


 それにしても、ここで会うのか。ギルドとか街中でも接触がなかったから少し油断していた。


 しかもご丁寧に同じ宿を取っているとか。王女様的な人が泊まる場所じゃないでしょう、ここ。一般というか冒険者向きの宿だから必要最低限くらいしか備わっていないよ。風呂もないし。


 幸いにもお互いまだ気付いていない。

 それをいいことに自然な気配隠蔽をかけて、その場を通り過ぎた。


 でも、この感じだと宿はバレているだろうから、遅かれ早かれ接触はあるのだろう。



 ところで何の用なんだろう。

 考えられる可能性としては、

・奴隷印の効力がないことがばれた。

・城への潜入がばれた。

・可能性は低いけどお忍びでの視察。場所は偶然。

 といったところか。


 いちばんありそうなのは奴隷印のやつかな。あの時はここを切り抜ければいいと思って暗示だけで済ませてしまったから。

 潜入に関しても、召喚の場で結構派手に魔力使ったから痕跡が残ってしまった可能性は十分にある。というか、自分の魔力じゃないから完全には消せなかったというのは言い訳か。


 どちらにしても面倒なのは間違いない。


 関わり合いになりたくねーな……。でもあの2人が気付いたら積極的に関わりに行くんだろうな……。

 むしろ伝えるべきか?そのうえでできる限り避けさせるのがいいのだろうか。問題が後回しになるだけなのは分かっているけど。


 とりあえず、時間はあまりないけれど、接触前に下調べをしよう。できたらルーと合流もして。



 そう考えて、部屋を出た。

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