16話 神子が来た

「っ!!」

 不穏な夢を見ていた、そんな気がして飛び起きた。

 寝汗がすごい。心なしかいつもより体温が高いような気がする。というか、温度の高いところに長時間いたときのような、そんな感覚だ。

 外を見るとまだ空は白み始める前で、起きるべき時間にはまだ早い。

 宿の風呂はまだ開いていないだろうな、と思いながらも隣で寝息をたてているサリーを起こさないよう、そっと布団を出た。


 予想通り風呂は開いていなかったけれど、庭は使っていいとのことだったから、そこで洗浄魔法を使う。

 お湯を使った湯浴みに比べたら全然だけれど、結構な寝汗だったし幾分かすっきりした。

 そういえばこの洗浄魔法、属性的に見たら水だな。適正見るときに水優先させていたのは正解だったかも、あとでサリーにも使ってあげようか。

 そんなことを考えながら、部屋へと戻った。




「今日は魔法の講習だね!楽しみだね!」

 朝からサリーのテンションはMAXだ。起きたばかりだというのに。

「あんまり眠れなかったよー」

 いや、結構しっかり寝てたよ。抜け出して戻ってきても気づかないくらいには。

「俺もあんま寝れなかった。なんかぞわぞわした感じがしてさ」

 リョウもそんなことを言う。

 ぞわぞわした感じ、というのはわからないけれど、環境や身体が大きく変わったのだから身体の不調は仕方のないことかもしれない。


「とりあえずご飯食べてギルド行こうよ。私、はやく魔法使いたい」

 サリーがそんなことを言うから宿に併設された食堂へと向かった。



「そういえば、ルーさんは?同じ宿に泊まってるんだよね?」

 その質問には私が答えるしかない。

「なんか予定が早まったとかで、今朝早いうちに出たみたい。書置き残そうとしてたルーにきいた」

 実際は昨夜きいたのだけど。

「そっかー、なら仕方ないね。まだ色々訊きたいことはあったのだけど」


 なんだか同じような会話をしたような、そんな気もしたが気のせいだろうか。




 そうこうしながらギルドにやってきた。

 朝のラッシュが過ぎた頃ということだったので少し遅めだったが、入ろうとした時中からどっと人が溢れてきた。


「あれ、まだ沢山人がいるな?まだ早かったか?」

 リョウが呟く。


 こっちの世界の人は太陽と共に生活しているからだいぶ遅めだとは思うけれど。何かあったのかもしれない。



「あ、リョウさん達……」

 ギルドのカウンターへ行くと昨日担当してくれたお姉さんが対応してくれた。

「申し訳ないのですが、今日の魔法講座は延期させて頂けませんか?」

 そしてそう続けられた。


「えー、なんで!?楽しみにしてたのに!」

 サリーが1番に不満を出した。

「何か事情があるのか?」

 そしてリョウが訊いた。


「ええ、ちょっと隣町から神子様が来ていまして……」

「神子様?」

「そうです。今奥でギルマスと話しているのですけど、どうやら緊急の用らしく、講座をやる予定の人が取られてしまって」

「神子様が来ると人が取られるの?」

「あ、もしかして神子様のこと、ご存知なかったりします?」

「知らない」

 ふたりはここでいう『神子』がどんな役割を持っているか知らない。


「神子、というのは未来を視ることの出来る方の総称です。人によってどのように視ることの出来るかは違うのですが、隣町、ダイオプサイトの神子様は割とはっきり視えるということで有名です」

 お姉さんはそう解説した。


「未来を!凄いんだね!」

 サリーがまた興奮している。

「それだったら仕方ないね。さっき大勢の人が出てきてたのもそのせい?」


「ええ。受付担当も何人かそちらに行きましたし、何よりさっきまでこちらにいらしたので野次馬が多くて」

 そりゃあ隣町からとはいえ神子と呼ばれる人物が来たのだから野次馬が集まるのも無理はないか。ある種の有名人な訳だし。

 とはいっても未来視の人は珍しくはない。神子として活動していなくても体質的に視える人もいれば技術と魔力に任せて視る人もいる。精度はあまり良くないし、後者は消費が激しすぎてあまり乱発もできない。

 私もたまにだけれど見えることもあるし、戦闘中の予測だってある種の未来視のひとつでもある。



「じゃあどうしようか。ラーザさんの解体講座まで時間空いちゃうね」

 サリーがそう言う。

「装備整えるのは?異世界にこの服装だと目立つし」

 私はそう提案した。

 私たちの今の服装は呼ばれた時のもの、つまりは制服だ。正直町の空気からは浮いているし、ふたりは気にしていないようだが視線が気になる。

「確かに!せっかくだから異世界の服着てみたい!」

「そういや結構見られてるもんな、服装のせいだったのか」

 リョウ、視線には気づいてたのか。


「ということなんだけど、この辺でおすすめの服飾店とかあったら教えて貰えない?」

 そう、受付のお姉さんに訊いた。

「なら、ここの通りにあるここがいいと思いますよ。この町の人がいちばんよく利用する店です」

 すぐに地図を出し、答えてくれた。

「ありがとう」



 そういうことで、1度ギルドから出ることになった。

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