15話 暴走

ーー視点 リョウーー


「リョウさん、どうですか?」

 魔力の流れ、その感覚が掴めずにあれこれ考えていると声がかけられた。


「いやー、ダメだわ。ぜんっぜんわかんない。魔力っていうの?それがわかんない。俺にも魔力はあるんだよな?」

「はい、それは間違いなく。昨日水晶も反応しましたし、見たところ魔力量も多いですよ」

「見たところってそんなこともわかるのか?」

「そうですね……、どう言ったらわかりやすいでしょうか。原石の魔力量はオーラでなんとなくはわかりますよ」

「原石」

「あ、すみません。魔力操作が未熟な、えっと、将来が期待できる人材の事をそう呼称しているんです」


 つまり俺はまだまだ未熟ってことか。当然だけど。

 でも勇者なのは俺なのに、巻き込まれのふたりのほうが上手く魔法を使っているのを見てしまうともやもやする。

 さっきまで風の魔法を使っていたサリーは今光を試しているようで、手に浮かべた光の光量を調整していた。

 その近くでユーナも水球をポンポンさせていた。なんで水をボールみたいに扱っているんだろう。水なんてすぐびしゃってなりそうなのに。



「ちょっと失礼しますね」

 そんなことを考えていると、お姉さんが俺の手を取った。

 両手だ。

 両手で輪になるように握られた。


「ちょっと魔力を流してみますね。左手から右手の方に、体内を動かします」

 お姉さんはそう言って、握る手を少し強めた。


「んっ……。これは……」

 宣言された通り、左手の方から熱が流れてくる感覚があった。

 そして、


「え!?」

 お姉さんの驚くような声がしたかと思うと、その熱は一気に広がった。




ーー視点 ユーナーー

 お姉さんがリョウの方へ行ってから、私は水球を玩びながらサリーの様子を見ていた。

 魔法を使うのがよっぽど楽しいのか、適正の出た光と風を出したり、その大きさを変えてみたりと色々試していた。

 流石、とてもセンスがいい。


 そちらに気を取られていたら、後ろから。リョウの方から途轍もない魔力の膨張が起こった。



「っっ!!」

 慌てて振り返った私の視界は、一面の赤に塗りつぶされた。






「っっっ、あっつう……」

 不覚だった。

 いくら油断していたとか、別の所を見ていたとか、言い訳にしかならないけれど。


 一瞬、もしくはそれ以上意識が飛んでいた。

 気が付くと周囲は一面の赤、赤と言えるだろうか。そんな地面に投げ出されていた。そして、周囲全てが熱気で包まれていた。

 活火山の噴火口に放り込まれたと言われても納得できるような、そんな光景が広がっていた。 


「どこまで、とばされたの……?」

 辺りを把握している間にも、溶けた地面からのダメージが入ってくる。

 デフォルトで自動治癒をかけていなかったらと思うとぞっとする。



 その時、視界の隅で、何かが弾けた。


「サリっ!?」

 弾けたのは、許容限界を超えて壊れた魔法具だった。

 飛ばされた衝撃で失神しているようだけど、魔法具が働いたおかげで、この熱の中でも無傷を守っていた。今までは。


 地面に接する直前で受け止められたけれど。

「か、はっ」

 熱気をもろに吸い込んでしまったようで、咳き込んでしまった。そして、じんわりと全身に火傷が広がっていく。


「移動、しないとっ」

 そう思ってもどちらに行けばいいかわからない。


 私は腕に抱いたサリをぐっと抱えなおし、上空へと飛んだ。

 熱気を防ぐため、水と氷を複合させた防御魔法と、サリに治癒魔法をかけながら。



「うっわあ。」

 上空から見る街、いや、元街はその面影を残していなかった。

「どれだけの熱量が」

 熱源、つまり元ギルドがあったであろう場所は一目でわかった。その位置、その一点だけ黒く浮いて見えたから。

 その位置にはまだリョウがいるのだろう、ということは察せられたけれど、正直その余裕はなかった。自分の周囲は散らしたとはいえ、かなりの量の煙に包まれている。


 私ひとりならまだ耐えられるけれど。

 これ以上サリをこの熱に晒すわけにはいかない。


 熱源の位置を確認すると、空中に張った壁を思いっきり蹴ってその反対へと飛んだ。




 なんとか熱の届かない所まで退避出来た、と思った時。

 私の意識は闇に引き込まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る