12話 屋根の上で
ギルドを出るとちょうどいいタイミングでルーが来た。
「登録、終わったのです?」
「ああ」
リョウが答える。
「じゃあ宿より先に門に行って保証金を返金してもらうといいのです」
ルーがそう言ったので門に行くことになった。
「じゃあ明日は魔法と解体の講習を受けるのですね」
「うん、そう。ルーさんはどうするの?」
歩きながら会話を交わす。
「ボクは依頼を受けているのでそっちに行くのです」
「へえ。どんな依頼?」
「ひみつ、なのです」
そうこうしている間に門に付き、用事はすぐに済んだ。
その夜。
私は宿の屋根に登った。暖かい季節とはいえ夜は冷える。
そこには先客がいた。
「ルー」
私は後ろから、呼んだ。
「はい、待っていた、のです」
やっぱり気づいていた。
「いつから?」
「最初に遠目から見た時は気が付かなかったのです。何度か話すうちに何となくそんな気はしていて。決め手はラピラビの時なのです」
「やっぱりそこかー」
軽く息を吐いた。
「改めて。久しぶりだね、ルーフェンス」
「はい。お久しぶりなのです、師匠」
そう、ルーことルーフェンスは私が前にここに召喚された時に少しだけ師事していたことがある。教えていたのは隠密系の技術だ。教えたことはすぐに吸収するタイプで、教えていて楽しかった。
「じゃあいくつか訊きたいことあるんだ。まず、私が帰ってからまた来るまでにどれくらいの期間があいた?」
「1年程度なのです」
私の体感だと再召喚まではほんの数日だった。やはり時間の流れは違っている。
「なにか大きく変わったことは?」
「とくには。ただ、リースベルトが戦争に向けての準備をし始めた、という噂が流れ始めたことが気がかりなのです」
「ルーがリースベルト王都周辺にいたことも?」
「はい、噂の裏付けのために情報を集めてたのです」
「この召喚がその一環の可能性もあるってことかな?」
「もしかしたら、程度ですね……。でもそれだと勇者とその連れに対する態度がおかしい気もするのです」
ろくな装備も持たせずに王都の外に追いやったことか。それと、
「いきなり奴隷にされかけたしね」
「!?どういうことなのです!?」
私はルーに初日の夜起きたことを簡単に伝えた。
「過激、ですね。勇者さま……リョウさまにもなにか仕掛けられているかもしれないのです」
「この世界に来てからなにかやられてる感じはなかったけど、召喚陣自体になにか仕掛けられていたとしたらわからないかな。専門外だし」
それにすぐに城を追い出されたせいで召喚陣を調べる余裕はなかった。
「リョウに関しての心配事といえば、魔力の制御が出来てなかったことかな」
「というと?」
ルーはそこにいなかったから魔力測定した時のことを話す。
「最初は、というか基本道具使った方がいいかもしれない、って印象だったかな。これが使えたら楽なのだけど」
私はそう言って勇者マントを取り出した。前にここに来た時に貰った、国の紋章が入ったマントだ。これには魔力制御の効果がある。
「さすがにこれを貸す訳にはいかないからね」
大事なものというだけでなく、そもそも他国の召喚で来た人には使うことが出来ない。完全に私専用のマントだ。
「師匠、勇者として行動する時はいつもそれ着けてたのです」
「うん、リゼから着るように言われてたからね。ウィスタリアの勇者だって一目で分かるようにしてて欲しいって。
それに、使ってて楽だしね。いろんな魔法具使ってきたけど、これほど魔力制御に特化したのはこれくらいだよ」
召喚当初は本来の魔力に加護の魔力が混ざって制御が難しかった。
「ひめさまには会いにいかないのです?」
ルーのその言葉に私はふふっと笑った。
「近いうち会いに行かないと、あとが怖そうだね。リゼはああみえて寂しがり屋だから」
ルーもつられて笑う。
「ひめさまに会った時、そんなこと言ってたって言いつけるのですよ」
そうして2人でたわいもない話に花を咲かせた。
「あ、そうだ。ひとつ頼みたいのだけれど」
ふと思いついて言った。
「ティアと連絡取れたりしないかな?保険にってだけだから出来たらでいいけれど」
ティアはセレスティスで呼ばれた勇者だ。私よりもずっと前に呼ばれ、帰還もしていないからこの世界に一番馴染んでいる異世界勇者だ。
「保険、なのですか?」
「そう、保険」
「急ぎなのです?」
ルーが真剣な表情になった。
「できるならなるべく」
「仮眠をとって、早朝に出ますです」
「ありがとう」
そうして屋根の上での密談はそこで解散となった。
うん?
屋根から降り、部屋に戻ろうとした時になにか視線というか意識を感じた気がした。
先に降りたルーはなにも感じなかったようだ。
気のせいかな?
そう思いながら部屋へと入った。
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