11話 初心者講座(剣)

「は?」

 私は訝しげに返す。

「3人の中だとお前が1番できそうだ。講座といっても基本的には実践だからな。ほれ、これ使え」


 ラーザは訓練場の端に置いてある刃止めされた剣を渡してきた。自分も1本取りながら。

「身のこなしくらいは見ればはわかるさ、伊達にAランクでやってきてないんだ」

 譲る気はなさそうだ。仕方がないのでそれを受け取った。




「じゃ、はじめるぞ。好きに打ってこい」

 ラーザはそう言った。初心者に向ける態度ではない。どの程度まで見破られているかがわからないのが、さすがはAランクといったところだ。

 私は剣を構える。


 そして1本とった。




「講師として手加減はしてたとはいえまさか負けるとは思ってなかったぜ。あんた強いな」

 私はちらりとふたりを見てから言った。

「護身程度、ね。でももう少し加減されてなかったらとてもじゃないけど勝てなかったな」

 実際、護身術は習っていたから嘘ではない。

 それにしても、相手もこちらも全く本気ではないつまらない模擬戦闘だった。




「凄いよユナちゃん!ベテラン相手に1本取るなんて!」

 沢森さんがテンション高く話しかけてきた。

「…………(今のあなたが、)ユナって呼ばないで」

 その発言に、気が付いたらそう言葉に出していた。


「……え?えっと、じゃあユーナちゃんならいい?」

「あ……、まあそれなら」

「私のことはサリーでいいからね!それにしてもすごい!ユーナちゃんはなんでも出来るんだね!」

 沢森さん、サリーは変わらず話しかけてくる。


「そんなことないよ、ラーザさんが手加減してたから」

「ま、そういうことでいいけどよ」

 ラーザは諦めたように言った。こっちも加減していたのがばれていそうだ。


「まあユーナに教えれることは特にないか。じゃあ次リョウな」

「おう、お手柔らかに頼むな」




 そして立ち合った2人。

 リョウの構えは構えといえるものでもない。剣を握ったことは体育の授業で軽く触った剣道程度だろうから当然か。


「はあっ!」

 リョウが剣を横薙ぎに振るう。

「おっと」

 ラーザはそれを軽く避けた。

「これなら!」

 次は振り下ろしだ。

 ラーザはそれを軽く受け止め……


「うお!?」

 ラーザの踏ん張った足が少し後方に引きずられた。

「え?」

 それに驚いた様子のリョウ。


「はー、なんだ?お前動きは素人そのものだが筋力はあるじゃねえか。技術がなくともそれだけでやっていけるんじゃないかって思うくらいに、なっ」

 打ち下ろしの剣を振り払ったラーザが言った。


 考えられるのは召喚の勇者としての加護での筋力強化だろう。本人もそれに驚いていたしおそらく間違いはない。

 それから何度か2人は打ち合って、ラーザがリョウの剣を弾いてそこで終わった。


「こんなところか。あとは実戦重ねりゃいいとこいけるだろう。俺が暇な時はいつでも相手してやるよ」

 ラーザはそう言って弾いた剣を拾い沢森さんの方へ振り返った。


「じゃああとはサリーだが……やるか?」

「うーん、長剣は憧れではあるけどスタイルに合わないのでやめときます。せっかくだから魔法メインにしたい!」

 沢森さんは魔法の方に興味津々だ。

「まー、戦闘スタイルは個人のいいようにするのがいちばんだろうからな。ならサリーには解体の方を覚えてもらおうか」

 確かに戦闘で剣を使わなくても解体では刃物を使う。


「解体もラーザさんがやるのか?」

「当然だ。冒険者だったら基本的に誰でもできる技能だしな」

「ラーザさんは狩りメインのパーティでしたから、解体の腕は文句なしですよ」

 ギルド窓口のお姉さんが言うのだったらきっと間違いはない。


「だがそろそろギルドが混む時間だからな、明日にするか」

 時間は夕方に差し掛かり、ラーザの言う通り依頼帰りであろう冒険者が戻って人が増えてきた。


「では明日の朝から魔法と解体の講座をしましょうか」

 お姉さんが提案すると、

「俺は朝苦手なんだ、先に魔法やっててくれや」

 ラーザが返した。


「ラーザさんは冒険者引退してから朝が弱くなりましたよね」

「なんだろうなー、身体張る機会が少なくなって気が緩んじまってるのかな」


「じゃあ明日また来るな」

 リョウがお姉さんに言った。

「はい、担当者には私から声をかけておきます。朝の人が落ち着いたくらいに来てくださいね」

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