8話 冒険者ギルド
何事もなく過ぎた夜。
そして何事もなく進んだ道程。
魔獣と出くわしたのもラピットラビットのあの1度だけで、拍子抜けするくらい安全に町に辿り着いた。
「ここはリースベルト国では珍しい町なのです」
ルーは町に入るとそう言った。
「珍しい?」
来栖君が訊き返す。
「はい。亜人に対して友好的で、獣人が多い町なのです」
そう言われ周りを見渡すと、確かにチラホラ獣耳や尻尾のついた人物が目に止まった。
「うわぁ、ほんとだ!可愛い!」
ちょっと興奮する沢森さん。
「………………」
そして黙り込む来栖くん。
多少声は抑えてあるけれど、獣人は感覚が鋭い人が多いからこの距離だと多分聴こえてしまう。相手は気づいていないか気にしていないかでスルーしているみたいだけれど。
「説明が途中だったのです。町の名前はオブシディアン。刃物で有名なので、武器の調達には丁度いいのです」
「刃物なら、解体用ナイフとかも丁度いいのがありそうだね。その辺はどうなの?」
気になったので訊いてみた。
「詳しくはあまりよく知らないのです。ギルドで訊くのが速いと思いますです」
やっぱりギルドか。
「ギルド!異世界っぽくなってきたね!まずはそこに行くの?身分証とかにもなるんだよね?」
沢森さんが訊いた。
さっき町に入る時、身分証がなかった私たちは保証金を支払って仮身分証を発行してもらっている。ちゃんとした身分証を持っていけば半額返してくれるらしい。
その半額というのがギルド登録料と同等とか。
「身分証としてはいちばん普及していてわかりやすいのがギルドカードになるのです」
そう話している間に大きな建物の前に来た。
1階は酒場とギルド窓口が合わさった、ファンタジー世界あるあるのわかりやすい建物だ。
「ここがギルドなのです」
「なるほどなるほど!酒場と併設されてるのね?情報収集にもよさそうね」
沢森さんがきょろきょろと中を見渡している。
「おう、てめーら。初めてかい?」
そんなお上りさん状態の私たちを見ていた、何かを飲んでいるおっさんが声をかけてきた。
「ああ、初めてなんだ。ギルド登録ってのはあそこの窓口に行けばいいのか?」
来栖君が答える。
「おうよ。だがてめーら戦えるのか?武器も握ったことないような手ぇしやがって」
さすが冒険者、よく見ている。
「戦えなきゃ登録できないのか?」
「そういうわけじゃねぇが。戦闘職意外だと稼げねえぞ?ま、がんばりな」
おっさんはそう言って見送ってくれた。
こういう所で絡んでくる酒飲みのおっさん(今飲んでいるのが酒なのかは知らないけれど)は無駄にちょっかいかけてくるようなものだと思っていたけれど、心配してくれたただのいい人だった。
「話は聞こえていましたよ。ギルド登録の方ですね?」
窓口に行くと私たちが何か言う前に受付のお姉さんが話しかけた。
「はい、よろしくお願いします」
来栖君が代表して答える。
「ええと、4人ですか?集団で登録に来るのは珍しいですね」
お姉さんはルーも含めて言った。
「いいえ。ボクは案内してきただけなのです」
ルーはそう言って1歩引いた。
「では3人ですね。1人10000ルナなので、30000ルナお願いします」
ルナというのがここのお金の単位だ。
日本円でいうと1ルナ1円くらいなのでわかりやすい。
「じゃあ、これで」
来栖君がアイテム袋から小金貨を3枚取り出し、渡す。
貰った全財産だ。
「はい確かに。ではいくつか質問をしますね。まず登録名ですね」
「本名じゃなくてもいいのか?」
「基本的には本名ですが、好きに決めて貰って構いませんよ。ただし変更はできませんし、国内で複数のカードを作ることはできません」
つまり国外であれば別のカードが作れるわけだ。例外もあるけれど。
ちなみに私のアイテム袋にはウィスタリアのギルドカードが入っている。
「んー、特に変えなくていいか。『リョウ』でお願いします」
「じゃあ私は『サリー』で」
深く考えることでもないし、いつも通り……いや同じ名前なのは不便かも。
「『ユーナ』で」
「はい、承りました。次は得意魔法等はありますか?先程戦闘経験はないといったような話をされていましたが」
「実は使ったことがなくて」
「でしたら奥で測定しましょうか」
お姉さんはそう言って立ち上がった。
そして、別の人に声をかけて窓口から出てきた。
「どうぞ、こちらへ」
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