6話 ラピットラビット
ーー視点 紗理奈 ーー
ルーさんが待っててと言ったのに、リョウは勝手に追いかけ始めてしまった。御影さんの言う通り、1人で行動するのがいちばん危ないというのは分かるからリョウを追いかけているけれど不安で仕方ない。
危ないから待っていてということだろうと思ったのに、リョウは勝手すぎる。
ルーさんは音も立てずに茂みの中に入っていったけれど、私たちにそんな技術がある訳もなくガサガサと音を立てながら移動する。もし敵意のある何者かが潜んでいたらどうしようと思う。
だって、3人いるとはいえ私たちは素人なのだから。
茂みの向こうが比較的明るく見えた。開けた場所があるのかもしれない。
と、そう思った時私の後ろにいたはずの御影さんが急に前に出てきて、リョウを引っ張った。
「うおっ!?」
何事かと思う間もなく、さっきまでリョウがいた場所にウサギのような形をした何かが飛び込んできた。すごい速さだった。
引っ張られた勢いでリョウは尻もちをついた。
尻もちをついたまま動けないでいるリョウに向かって、ウサギが再度跳ねる。そしてそのウサギを、御影さんが蹴り飛ばした。ルーさんがいる方向に。
「え!?」
ルーさんは驚きながらも自分に向かってくるウサギを斬った。素人目にも分かるくらい良い連携だった。
そしてそこにいる人の目が御影さんに集まった。
「びっくりしたー」
御影さんはそう言って微笑んだ。それはどちらかというとこっちが言うセリフのような気がする。
「今の、何?」
私はおもわずそう訊いた。
「なんか、とっさに?」
御影さんはなんでもな風に答えた。
「すごくいい位置に飛ばしてくれて助かったのです」
ルーさんが短刀についた血を払ってこちらに来た。
「皆さんが来たことには驚きましたが、怪我はないですか?」
私たちに訊きながらリョウに手を伸ばした。
ーー視点 優波ーー
こんなどうでもいい所で怪我とかされても困るし、と思って動いてしまった。それと、あのウサギは美味しいし逃がしたくもなかったんだ。
「少し待ってくださいね。処理してしまうのです」
ルーはそう言ってウサギの血抜きをして、自分の収納袋に入れた。
「この先に水辺がありますので、今日はそこで休みましょう。もうすぐ暗くなってしまいますので」
まだ日はそこそこ高い位置にあったけど素人を連れてのキャンプだと早めに位置を決めた方がいいという判断だろう。
「まだ明るいよ?」
沢森さんが言った。
「いえ、このペースだと暗くなる前に町に着けないのです。だったら、野営の準備がはやいに越したことはないですし、水辺が近い方が何かと便利ですので」
「この辺りにしましょう」
ルーが立ち止まったのは、飛び越えられるくらいの細い川がみえる少し開けた場所だった。キャンプを張るにはちょうどいい大きさだ。
ルーは収納袋からペグのような棒を取り出して、四方に刺した。
「それ、なあに?」
沢森さんが訊く。
「魔獣や魔物避けの結界を作る魔法具なのです。簡単な安全地帯を作ることができるのです。
みなさん、この枠内にいてもらえますか?」
私たちが枠内に入ったことを確認すると、ルーはペグに向かって魔力を放った。
「これで、結界は完成なのです。作った時に中にいた者は自由に出入りが出来るのですが、いなかった者に対しては制限されるのです」
「へえ、そんな便利なものがあるんだね。これって抜けちゃったら結界は消えちゃうの?」
沢森さんが訊いた。
「はい、消えるのです。でも一応は魔力で補強されているのでそう簡単には抜けないのです」
それを聞いた沢森さんはペグに触れて揺さぶってみた。ペグはビクともしない。
「ほんとだ、動かないね」
「とりあえず、さっきのラピラビ調理しちゃうのです」
ルーはそう言って結界を出て水辺に向かった。
「ラピラビ?」
来栖君が訊く。
「さっきのうさぎなのです。名称はラピットラビット。素早い動きと美味しいお肉が特徴なのです」
ルーは話しながらサクッと解体を始めた。
「うっ……」
沢森さんと来栖君が目を逸らした。
「どうかしたのです?」
ふたりの反応を見たルーが訊いた。
「元いた世界では動物を捌くのなんて滅多に見るものじゃないから驚いたんだよ」
ふたりが答えられそうになかったから私が答える。
「そうなのですか……。でも、覚えていた方がいいのですよ。道中の食料調達のメインはこれなのですから」
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