5話 ルー
「まずは簡単に地理について話しますね」
そう言ったルーは歩きながら地図を取り出した。
「今出てきたリースベルトがここで、ボクの暮らすウィスタリアはここなのです」
示された地図を見る限り、かなり距離がある。
「間に別の国があるの?」
「はい。セレスティスといってとても過ごしやすい国なのですよ。この辺りでは1番国力の高い国でもあるのです」
「国力?」
「治安も良く、物価も安定していて暮らす人々には笑顔が多く見られます。拠点にするにはオススメなのです」
「ウィスタリアって所に向かってるんじゃないのか?」
「ボクの目的地はそこなのですけど、あなた方がどうするのかはお任せするのです。ボクなんかが決められることではないのですから」
あくまで安全確保までの護衛です、といったことをルーは話した。
「止まってください」
日が傾き始めた頃、ルーが言った。
「この先に辺りに魔獣がいるのです。ちょっと狩って来るので少し待っていてください」
視界には入らないが少し離れたところに小型の魔獣がいる。反応的にそこまで強い個体でもなさそうだから指示に従っておくのが妥当だろう。
「ここからじゃ何も見えないけど、魔獣ってどんなやつなんだろうな?」
ルーが見えなくなってすぐ来栖くんが言った。
「魔獣って言うくらいだし禍々しい獣なんじゃない?」
「なあ、見てみたくないか?」
「え?」
「あっちにいるんだろ?見に行ってみようぜ」
そんなこと言い始めた。
「え、辞めた方がいいんじゃない?危ないんでしょ?」
「いつかは戦うことになるんだし、見るだけ見るだけ」
沢森さんの静止も聞かずに、来栖くんはルーが消えた方に歩き始めた。
「えーっと、どうしよ」
沢森さんが私に訊く。
「単独行動が1番危ないと思うし、行くしかないと思う」
来栖くんの行動には呆れたが、私はそう答えた。
「まあ、そうだよね……」
沢森さんはあまり納得はいっていないようだった。ただ、私の意見を受けいれて、2人で来栖くんを追いかけることになった。
ーー視点 ルー ーー
視察に来ていただけのリースベルトで思わぬ拾い物をしてしまいました。
人間主義で亜人を嫌う彼の国は、いつ亜人の国であるウィスタリアに戦争をしかけてもおかしくないということで定期的に様子を伺いに来ていたのです。
最近は軍備強化に力を入れていたので特に気をつけて見ていたのです。そして、勇者召喚をしたという情報を手に入れたのです。
勇者召喚の主な目的は魔王討伐。
しかし、この世界の魔王はウィスタリアで召喚された勇者様がつい数ヶ月前に倒しているのです。もしかしたら戦争のために召喚を行ったのかもしれません。
もしそうであれば大変です。ウィスタリアの勇者は、魔王討伐後既に帰還してしまいもういないのです。戦争に、勇者が介入してしまうと被害もとんでもない事になってしまうのです。
リースベルト王城近郊で情報収集をしていると、召喚した勇者はとっとと国外に送り出すという話をききました。それならばガッツリ戦争に使われるということもなさそうです。
そして、勇者が召喚されて送り出される様子をこっそり確認したのです。
隠密系に関しては師匠から鍛えられているので、一般の兵士程度の目なら簡単にくぐれます。
見ていると、勇者たちはあまりにも雑な扱いをされていたのです。
勇者と呼ばれている少年少女達は見慣れない服装をしていて、ろくな装備もしていないように見えます。
放っておいても良かったのですが、粗末な袋から安っぽい装備を取り出して喜ぶ彼らを見て、つい声をかけてしまったのです。
昔、勇者に救って貰ったことがあるので、違う人とはいえスルーは出来なかった、というのもあるかもですが。
話を聞くと、平和な世界からやって来て、戦闘訓練もされずに国外へ出されたと言います。死んでこいとでも言われているような扱いです。それに、召喚した国の対応も良いと言えるものではなかったみたいです。
勇者様はあまり現状を理解していないようですが、連れの少女たちはまだわかっているようで少し安心です。
それでも武器もなにもなしに魔獣の出る森を歩くのは危険ですので、僕は予備の短剣と獲物をさばく時に使っているナイフを2人に貸し渡しました。
使い方が覚束無くてもないよりはマシだろうと。
彼らの装備を整えるためにもリースベルト国ではない町に移動することになりました。
普段は単独行動ばかりで護衛が出来るかどうか不安ではありますが、ここで放り出すよりは危険が少ないと判断したのです。町に行けば身を守るやり方くらい教えてくれる人がいるはずなのです。
そんなことを考えていると魔獣の気配を感じました。他の周辺には魔獣は居ないようだったのでボクは1人で道を開くことにし、3人を残してそこへ向かいました。
少し離れたところから魔獣の様子を伺うと、ウサギ型の魔獣が3匹いました。この型は攻撃力も防御力も弱い方ですが速度が速いのが特徴なのです。
それに重要なのですが、とても美味しいことが嬉しいのです。食堂からの需要が高いので、ランクの割には高く買い取って貰えるのです。
美味しいものにありつけるとほくほくしていると、3人を残して来た方向からガサガサと歩く音が聴こえたのです。
ボクの位置からリョウ様の姿が確認できた時、魔獣も気がついたようで、そちらに向かい飛びかかりました。
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