4話 早速王都を出る

「よく休まれましたかな?」

相変わらず魔法としての威圧を放っている国王が言った。素の姿によっぽど自信が無いのだろうか。



「はい、お陰様で」

睡眠誘導してくれたからそりゃあゆっくり休めただろう。起きるのも遅かったし。

「早速だが、勇者殿の装備を用意した。今日は旅立つにはとても良い天気だ」



つまりさっさとこの国を出ろと言うことか。展開が速い。

国王のその言葉で、周りにいた兵士が袋を持ってきた。収納能力付きの魔法具だ。さすがにそれくらいは出し惜しみしないのか。



「ここに支度金と武器防具を入れている。好きに使うといい」

「ありがとうございます」

来栖くんがそれを受け取る。

「さあ、行くがいい。見事魔王を討ち果たしてくれることを期待している」







城壁まで兵士が案内してくれた。あまり話さない人だった。もしかしたら無駄な会話を禁じられているのかもしれない。



「それでは、ご武運を」

兵士はそう言い残して去っていった。







「そういえば、武器とか入ってるって言ってたよな」

来栖くんがそう言って袋を開けた。

入っていたのはショートソード1本と皮の防具1式、少しの食料と小金貨3枚だった。



「すごーい!こんな小さな袋にこんなに入ってるなんて!」

沢森さんはマジックアイテムに喜んでいる。

でも、勇者に与える装備としてはほんと最小限すぎる。

というかこれは、家を出る子供に与える最低限の装備ってやつじゃないかな?少なくとも武器防具は1人分しかない。



実は私の腰に着けているポーチも魔法袋で、戦える装備くらいは一式入っている。

メンテもしているからすぐにでも使える。問題はどのタイミングで出すかだけれど。





「あの、すみません。リースベルトで召喚された方々で間違いないですか?」

いろいろ考えていると、急に後ろから声をかけられた。

毛皮のモコモコしたフードを被った小柄な少年だった。



「そうだけど、君は?」

「ボクはウィスタリアという国から来たルーというのです。もしリースベルトの、その、対応があまりよろしくなかった場合に手助けをということで……」

ルーと名乗った少年はちらりとこちらを見ながら、少し言いにくそうに言葉を選びながら話した。



「王様も王女様もよくしてくれたよ、ねえ?」

来栖くんが私達に訊いた。

「そう?この世界での常識とか過ごし方とかそういうことは全然教えてくれずに、役目だけ果たせーって感じてるけど。魔王倒せって事だったけど、具体的にどこにいるのかすら知らない訳だし。

それに、さっきは感動したけど、持たせてくれた袋の中身も1人分しかないよね?私と御影さんはどうしたらいいんだろうって思うよ」

冷静に状況を見れていることに少し驚いた。そういう作品を嗜んでいるだけはある。



「言われてみれば……?」

来栖くんも少しだけ疑問を感じ始めたようだ。

「ええと、ボクもそんなにたくさんのアイテムを持っている訳じゃないのですけど、予備の武器を貸すことは出来るのです。魔法はあまり得意ではなくて、教えられませんけど」

ルーはそう言って短剣を私と沢森さんに渡した。

「幸い、近くの町までは強い魔獣はいないのでそこで装備を揃えましょう」



「戻って揃えるのは?」

来栖くんが訊いた。真後ろに、さっき出てきたリースベルト王都の門がある。

「……あまりオススメはしないのです。王都はよそ者嫌いで有名なので、見たことの無い人は良くてぼったくられますです」

「良くてって……。ちなみに次の町っていうのはどれくらいかかるものなんだ?」

「そうですね……。ボクひとりでしたら1日もかからないくらいです、けど」

「私たちはこんな自然豊かなところ歩きなれてないものね」

ルーの言葉を沢森さんが引き継いだ。

「それに、少ないとはいえ魔獣も出るのです。できるだけ安全なルートを探すつもりですが、出会ってしまったらまず自分たちの安全優先でお願いします」

「わかった。移動しながらでいいから立ち回りとか教えてくれないか?」

「もちろんです。無事に着くことが1番ですから」

話はまとまったみたいで、とりあえずはルーに任せておけばなんとかなりそうだ。



「そういえば、まだ私たちの自己紹介をしていなかったわね。私は紗理奈で、こっちが優波さん。それであれが勇者のリョウだよ」

沢森さんが思い出して自己紹介をした。面倒になったのか名前だけだった。

「サリナさん、ユウナさん、リョウさまですね」

来栖くんに『さま』をつけたのは一応は勇者だからだろう。私も勇者時代は様付けされていたけど慣れるまで小っ恥ずかしいものだった。

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