3話 最初の朝
朝になった。窓から明るい光が差し込んでいる。
予想通りと言えば予想通りだけど、あまりちゃんと寝れなかった。
分かっていたけれどやっぱりここまで近距離に人がいるとゆっくり休まらない。
私は今回ここに来た時のことを思い出していた。
あれは何でもない日の放課後だった。部活や委員会活動なんかに入っていない私は普段通り図書室に籠って読書をしていた。
「そろそろ下校時間だよ」
司書の先生から声をかけられ、校舎を出るとちょうど部活が終わった所だったのか、クラスメイトの2人と一緒になった。だからといって特に声をかけることも無く、普段と変わらず帰宅へ向かっていた。
その時だった。来栖燎原の足元から半径数メートルの魔法陣が現れたのは。
ギリギリ私もその範囲に入ってしまっていることに気がついた時には魔法陣は起動していた。こういう召喚陣で下手に抵抗すれば逆に面倒なことになることは分かりきっていたから、諦めて流れに乗ったんだ。
召喚陣の中心は明らかに来栖燎原だった。そう考えると今回の召喚はメインが彼で、私と沢森さんは完全に巻き込まれだ。
偶然近くにいてしまった、それだけで。
こっちに着いた時は召喚の影響か、直前の記憶が曖昧だったけど時間が経って整理出来たのかしっかりと思い出すことが出来た。だからといって解決するわけではないけど。
まだ2人は寝ているようなのであまり音を立てないようベッドから出て身支度を整えた。
そしてそっと沢森さんだけを起こした。いくら仲がいいからと言って寝起きの姿を異性に見られるのは嫌だろうから。
「んー……、朝……?」
軽く肩を揺すってあげると、すぐに起きた。
「あれ、なんで……えっと……。あ、そうだった」
一瞬状況が理解出来ていなかったようだけど、すぐに思い出したみたいだ。寝起きが良いのはよいことだ。
「まだ来栖くんは寝てるみたいだから、今のうちに身支度とか整えるといいんじゃないかな」
私のその言葉で沢森さんは慌てて自分の状態を確認した。
「洗面所とかってこの部屋にないのかな?」
手櫛で髪を整えながら沢森さんが訊いた。残念ながらこの部屋にはそんなものはなかった。
「ないみたい。だけどこれ持ってるから使う?」
私は腰に着けていたポーチから手鏡とブラシを出した。持ち運びしやすいコンパクトな折りたたみの物だ。
「ありがとう、使わせてもらうね。そういえば鞄とかってここに来た時には持ってた気がするんだけど、どこに置いたんだっけ?」
受け取った沢森さんはなんとかブラシだけで整えながら訊いた。
「それなら、そこに」
私は部屋の隅を差した。召喚された部屋に2人が忘れていっていた当時の鞄が置いてある。あの後放置されている事を思い出して回収して持ってきていたものだ。
沢森さんは鞄から化粧ポーチを出した。そこから私はあまり使ったことの無いアイテム次々と出していた。
「よかった〜。これがないと纏まらないんだよね。というか昨日ちゃんとケアせず寝ちゃったんだった、荒れちゃう」
そう言いながら慣れた手つきでそれを髪や顔につけていく。あっという間に普段教室で見る沢森さんの姿になっていた。
「そろそろリョウも起こさないと」
沢森さんがそう言った時、扉がノックされた。
「勇者殿と御二方、お目覚めでしょうか?」
それと同時に声が。
「あ、ちょっと待って。今起こすから」
沢森さんはそう言って来栖くんの肩を思いっきり揺さぶった。
「うわっ!?なんだ!?」
大丈夫かなあれ。脳震盪起こしても不思議じゃない勢いだったけども。ぶつけたら痛そう。
「よく分からないけど外にお迎え来てるよ?」
「死後の世界へのお迎え!?」
寝起きなのにボケがすごい。
「失礼致します」
外の兵士が扉を開けた。
「朝早くから申し訳ありません。王がお呼びですので、速やかに支度をして着いてきてください」
兵士はそう言うとまた扉を閉め、部屋の外で待機を始めた。
「だってさ。私たちはもう準備できてるからリョウもはやく支度しなさいよ」
「寝坊は俺だけか……」
支度に時間はほとんどかからなかった。
「では、参りましょう」
部屋の外に出ると、待ち構えていた兵士が先導した。
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