2話 洗脳と暗示

「こちらがお部屋になります。どうぞお休みください」

案内を終えた兵士は立ち去っていった。




結局3人同室になってしまった。ベッドは大きめのがひとつで、テーブルにはちょっとした軽食がある。


「どうなるんだろうな、これから」

「きっと明日説明されるよ。そんな不安にならなくても。

とりあえずの問題は休むところだけど……」


ベッドの他に寝れそうなところといえばソファくらいだ。床でも絨毯がふわふわなので寝れそうといえば寝れそうだけど、土足の床はちょっと、といったところ。

「俺は床で寝るから2人はベッド使いなよ」

来栖君が真っ先にそう言った。わーお、紳士だ、意外。


「さすがに床って……。せめてソファ使いなよ。お言葉に甘えて私と御影さんはベッド使わせてもらうね。

御影さんもそれでいい?」

「うん」

正直同じベッドで寝るのは抵抗があるけど、仕方ない。



「今日はなんか色々あって疲れたね。でも、わくわくする。だって異世界だよ?魔法とかもあったりするんだよね?」

ベッドに転がりながら沢森さんが言った。

「そうだな。不安はあるけどどんなことが出来るか楽しみだ」

来栖君もわくわくの方が大きいみたいだ。もう少し慎重になってもいいだろうに。

けど、私も初召喚のときはテンション上がりまくってたし気持ちはわかる。


「明日、色々説明してくれるっぽいし今日は早めに寝ちゃおうぜ」

「早く寝るのはいいけど、同じ部屋にいるからって襲ったりしないでね?御影さんもいるんだからね?」

本気で言ってないのは口調で分かるけども勘弁して欲しい。

ふたりは良くても巻き込まれるこっちの身にもなれってものだよ。


「んなことするわけないだろ、おやすみ」

「おやすみ〜」



みたいな会話交わして即寝れる神経がわからない。


え?まじで寝た?隣からは気持ちよさそうな寝息聴こえるし、ソファから軽くいびき聴こえてきたんだけど。

会話終わってまだ1分も経ってないくらいなのによく寝れるな、と思いながら寝ている体勢をとっていると外から話し声が聴こえてきた。




『どうやら眠ったみたいです』

『効果があるか不安でしたが、睡眠誘導の魔法具は使えたようですね』


睡眠誘導の魔法具か。なるほどそれなら魔法耐性のない人は即寝するの当然か。寝てないのがバレないようにしないとだ。

いよいよきな臭い。


『勇者もその連れも、我が国のために働いてもらわないといけませんからね。早いうちに処理してしまいましょう』


聞き捨てならない台詞が聴こえた。処理ときた。


「準備は出来ていますね?」

部屋に入ってきたのは王女と兵士っぽい人、あとは肥えたオッサンの3人だ。

「もちろんですとも」


オッサンが取り出した物には見覚えがあった。魔力を使った焼印だ。

そしてこの状況が意味するものは恐らく奴隷印。冗談じゃない。

さっき言っていた睡眠誘導の魔法具というのはきっと今寝ているベッドの下にあるものだろう。これだけ距離が近ければ触れなくても操作は可能だ。良かった、単純な構造のもので。


私はそれに向かって魔力を込める。ある程度の魔法耐性がある私が少し眠くなるくらいの威力を持たせると、侵入してきた3人は眠りに落ちた。


私は周囲を探って他にいないのを確認して起き上がった。

そして軽く頭を振って眠気を飛ばすと、寝ている3人に記憶操作の魔法をかける。

『やろうとしていたことはやった』と思わせるだけの簡単な操作だ。暗示に近い。

でも平気で洗脳魔法を使っている国であるから耐性はそこそこあるだろうし、長くは持たないだろうな。早めにリースベルトを出るようにしないと。


処置を終えて3人を部屋の外に出して、魔法具の出力を操作する前程度に戻し布団に潜って目を閉じた。






いや、まともに寝れるわけがないな。

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