1話 召喚された

 気がついたら石畳の部屋にいた。床には魔法陣のようなものが書かれている。それで何となく状況を察することが出来た。


(ああ、また召喚されたのか……)

 ふと周りを見渡すと、私以外とにも2人の人が倒れているのがわかった。見覚えのあるクラスメイトだ。割騒がしいグループの中心にいるような人達だな。


「う……ん?」

 男子の方が起きたようだ。

「なんだ、ここ……おい、沙理奈?沙理奈!起きろ!」

 近くに倒れていた女子を揺さぶっている。


 沙理奈……沢森さんだったか。思いだした、男子の方は来栖くんだったかな、確か。

「あれ……リョウ……?なんでうちにいるの……?」

「寝ぼけてないで起きろ!なんか知らないところにいるぞ!」

「なにいってるのリョウ、寝ぼけてるの?」

「だから寝ぼけてるのはお前だって……」

 沢森さんはぼーっとしながら辺りを見渡し、ようやく自分のいる場所を理解したみたいだ。


「あれ?なにここ。ドッキリか何か?漫画とか小説にあるみたいなことやって驚かせようとしてるの?」

「んなわけあるか。俺だって気づいたらここにいたんだ」


 ちなみに2人ともまだ私もいることに気づいていない。どれだけ周り見えてないんだよ。

 まあ、こんな状況じゃ仕方ないけど。


 さすがに黙っているのもどうかと思ったので声をかけることにする。

「盛り上がってるところ悪いけど、これどういう状況?」

 一応何も察してない風を装った。バレて頼りっきりにされるのなんて嫌だし。

 ついでに今回は加護も何も受けてる様子がないから私はただの巻き込まれな可能性が高いと判断できる。


「うわっ、びっくりした……。えっと、御影さんだっけ。同じクラスの」

「そう」

 私は頷いた。

「どういう状況なのか全くわからないし、どうせリョウがほかの男子巻き込んでドッキリでも仕掛けてるんじゃないの?」

「だから違えって。もしそうならよく知りもしない御影さんを巻き込む理由なんてないだろ」

 こいつは今割と失礼なことを本人のいる前で言ったのでは?まあ、当然の認識だと思うから流してあげよう。


「それもそうよね……ということは何、これもしかして異世界召喚ってやつ!?ということは、とうとう私も勇者として迎えられたりするのかな!!」

 沢森さん、今はリア充そうにみえてそっちのコンテンツにも理解があるのか、意外だ。


「じゃあ沙理奈、この状況だと何があるんだ?」

 来栖君は見た目通りといえば見た目通り、そっちにはあまり理解がないようだ。



「うーん、王道だと『勇者としてこの世界を救ってくれ!』ってやつかな。あとは魔王側で世界征服を手伝ってくれとか。

 少数派だけど呼び出しには成功したものの、呼び出した人物は死んでしまって呼び出された者は放置とか?」

 うわ、割と詳しい。意外な発見だ。

 もしかすると……いや違うか。


「ちょっと引く」

「なによ、リョウが訊いたんじゃない」

 2人が言い争っているところでこの部屋の扉が開かれ始めた。

 1度来たことのある世界っぽいし、知り合いだったら気まずいし、面倒だから一応 認識阻害かけとくかな、魔力隠蔽も。




 扉が開かれ入ってきたのは兵士に囲まれた10代半ばくらいの高貴そうな女性。


 これは王道パターンかな。

 と思っていたら。


「え?」

 その女性は開口一番に驚いたような声を出した。


「「え??」」

 2人も同じような反応を返した。


「なぜ、3人もいるのですか……?」

 女性は訊いた。


「いや、俺たちに訊かれても……。貴女が俺たちを呼んだんですよね?」

「ええと、はい。私が勇者召喚を行いました。しかし、呼び出すのは1人のはずなのです。貴方がたのどなたかが、勇者なのでしょう」

 女性はもう一度見渡して来栖君で一度視線を止め、咳払いをして言葉を続けた。


「改めて。わたくしはリースベルト王国の王女、セレナータ・リースベルトです。とりあえず、お話は国王である父からいただきます。ついてきてください」

 王女はそう言って、さっき入ってきた扉を示した。

 

 リースベルトか。きいたことはあるな。前に来たことのある世界なのは確定。

 あんまりいい話は聞かなかった国だったはず。

 一応頭には入れておくけれど、先入観はないほうがいいかもしれない。

 とりあえず、王道の『勇者として〜』のやつっぽい。



「ねえねえ、これほんとに手の込んだドッキリじゃないんだよね?」

 沢森さんが来栖君の肩に捕まりながら訊いた。


「だからちげえって。まあ説明してくれるみたいだし着いてってみようぜ」

 2人が移動を始めたから私も気持ち離れて着いていく。



 召喚の部屋の外の廊下はふわっふわの絨毯が引かれていて、とても歩きにくかった。

 王女とやらに着いていくと、やたら豪華な扉の前に連れてこられた。

 結構金かかってそうな内装だな。




「こちらが王の間です」

 王女がそう言って周りの兵に合図をし、扉を開けさせた。



王の間はそれはそれは広かった。ザ・ファンタジー世界の王の間という感じだ。


「うっわぁ、すごいよこれ。いくらかかってるんだろ」

 沢森さんが小声で興奮している。私も初めて王城的なもの見た時は興奮してたし、ファンタジー好きには惹かれるのは当然だろう。来栖くんも多少テンションが上がっているようだ。




「よく来てくれた。異世界の勇者よ」

 高い位置にある玉座から渋い声が発せられた。紛うことなく国王だろう。


「話は先程レナからきいた。こちらに魔力測定石を準備させてもらったから試してみてくれ」

 その言葉とともにほかの兵士より豪華な装備をした兵士が水晶のような石を持ってきた。

 王女に促され、手をかざすと蛍光灯より少し強い程度に光を放った。

「これに手をかざしてください」

 王女がそう言うと沢森さんが真っ先に声を上げた。

「私からやらせて!」


「はい、どうぞ」


「わあ!光ったよ!もしかして私が勇者っ?」

 沢森さんは食い入るように王女に訊いた。


「ええと、この光量だと一般より多少高いくらいですね……」

 王女は言いにくそうに言った。

「そんなあ……」

 沢森さんは目に見えて落ち込んだ。まあ期待してた分、違ったらそうなるのも仕方ないか。


 続けて来栖くんが手をかざした。

 すると、さっきとは比べ物にならないくらいの光を放った。

「うわっ、眩しっ」

 確定だ。来栖くんが今回の召喚の勇者だ。


「あなたが勇者ですね!この光の強さは間違いありません!」

 王女は興奮してそう言った。

 正直、自分じゃなくて良かったなって思っていて安心したのは秘密だ。面倒そうだし、得にリースベルトでは。



 魔力測定石は勇者が見つかった時点で用無しだというようにさっさと兵士が持ち去っていったから、わざわざ私が触らさせることもないみたいだし、状況に流されていようかな。


「お主が勇者か。ところで、まだ名前も訊いていなかったな」

 国王がきくと勇者w来栖くんが代表して答えた。


「申し遅れました。俺は来栖燎原と申します。ファーストネームが先に来るとなると、リョウゲン・クルスとなります。で、こちらがサリナ・サワモリで……」

 そこで言葉を切って気まずそうに小声で私に声をかけた。


「ごめん、下の名前なんだっけ?」

 まあそうなるよね。

「優波」


 私が応えると来栖くんは国王に向き直って続けた。

「それと、ユウナ・ミカゲです」

 沢森さんは呆れたように来栖くんをみている。

 その表情からはクラスメイトの名前も覚えてないのかよ、という意思が見えている。気にしてないし許してやってほしい。


「そうか。改めて。リョウゲン、サリナ、ユウナ。ようこそ我国へ。

 本題に入らせてもらうが、現在この国は、この世界は魔王によって侵略を受けている。

 少し前に先代の魔王は倒されたのだが、新たに生まれた魔王が進行を開始したらしいのだ。新たな魔王が力をつけてしまう前に、勇者によって滅ぼして欲しいのだ。

 ……やってくれるな?」


 すごくざっくりした状況説明だ。しかし、国王の声はノーと言えない威圧を放っていた。

 多分魔力込めてる。


「わかりました。やらせていただきます」

 そうふたつ返事を返した来栖くんに対して、沢森さんも全く反対する素振りはない。魔力によって軽い洗脳も入っているかもしれない。


「とはいっても今日から出発しろなど鬼のようなことは言わない。部屋を準備させているのでそこで休むように。

 一部屋だが問題はないな?」


 問題大ありだ。せめて男女分けて欲しい。欲を言うなら個室だけど。

「はい、大丈夫です」

 何言ってんのこいつ。

「では案内させよう」

 国王がそう言って兵士を呼んだ。



「こちらです。着いてきてください」

 兵士はそう言って先導した。

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