何度召喚されるのか
美川彼方
プロローグ
「本当に帰っちゃうのですか?」
夕暮れの草原で、強い風が長い金髪を攫う。
「うん、帰るよ。そういう約束だったじゃない」
私は彼女に背を向けたまま、そう答えた。
「そうですが……あれから心変わりなどは、してないのですか?」
彼女のその言葉に苦笑する。
「してないよ。まあここでも色々あったし楽しかったけど……やっぱり恋しい」
「……わかりました。寂しいですけど、お元気で。もしもまた、ここに来るようなことがあれば、会いに来てください。その、私に」
「ふふっ、わかった。まあ、出来ればもう、唐突な召喚はやめて欲しいけどね」
私は軽く背を伸ばした。
「うぅ……。その節は本当にごめんなさい……」
「結果的に帰れるわけだし、もう気にしてないよ。じゃあさよならだ。リゼも元気で」
そこで私はやっと彼女に顔を向ける。
彼女の顔は逆光ではっきりとは見えなかったけれど……。
また会えることを信じている、そんな笑顔だった。
「はい。さようなら、いいえ。またね、と言わせてください。ユナ」
ちょっとだけ寂しい気もしたけれど。私はその顔に答えて笑った。少し照れくさい気もする。
「そうだね。またね、リゼ」
そう会話を交わした次の瞬間、私の体は光に包まれ、草原から消えた。
そして、次の瞬間。
私は自宅の庭にいた。
帰ってきたのだ。
ーーーーーーーーーー
夢を見ていた。
少し前に体験したことだった。
そういえば、前に異世界に飛ばされた時も、少し前に夢をみたのだった。
別の、ここではないどこかの場所の夢。
知っているけれど、知らない場所。
現在ではない、過去か未来か。
そう遠くない時間で、また……。
知らないことを知るのは楽しい。
出来ないと思っていたことができると嬉しい。
そんな些細な事を積み重ねて。
そりゃあ大変なことも多いのだけれど。
気楽な自分の性格も幸いして、割と壊滅的な状況も乗り越えてきたなって。
夢を見たあとのふわふわとした思考の中でそんなことを思う。
まだ起きるには早い時間だ。
布団の中でうっすらと時計を見てそんなことを考える。
寝直そう。
次に目が覚めた時、夢のことはさっぱりと覚えていなかった。
ただ、何かが起きる気がする。
そんな気がした。
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