第18話 嫉妬の方向性がおかしい
琥珀と操がデートで食事をしている時、事件が起きた。操のふとした発言。報告が琥珀の逆鱗に触れることになる。
「あ、そうだ。琥珀君。私に専門学校の講師の依頼が来たんだ」
「え?」
琥珀は手にしていたフォークを落とした。操の発言。それがあまりにも彼にとってショック過ぎた。
「受けないよね?」
「ん? まあ、受けるかどうかは今のところは決めてないな。スケジュールとかの兼ね合いもあるし」
「受けないよね?」
「なんで2回言った?」
人の話を聞いていたのかとツッコミたくなるくらいの琥珀の言動。彼の脳波破壊されてしまったのだろうかと不安になる光景である。
「操さんとしては受ける、受けないの気持ちで言ったらどれくらいの割合なの?」
「うーん、まあ、割合というか。色んなことに挑戦してみたいと思うし、私は受けたい気持ちの方が強いかな?」
「なんで?」
食い気味に操に質問をする琥珀。お前がなんでだよってツッコミを入れたくなる気持ちはわかるが、とりあえず落ち着いて欲しい。
「え? 俺以外に弟子とるの?」
「いや、弟子じゃなくて学生では?」
操が極めて冷静な返しをする。だが、琥珀の腹の虫は収まらない。
「操さんが学生を弟子だと思ってなくても、相手が操さんを師匠だと思ってたらどうするの?」
「いや、どうもしない」
逆に訊きたい。どうもしない以外に選択肢があるのかと。その状況でなにか取れる行動があるのかと。
「俺は反対だ」
「えー……」
困惑する操。そこは流れで琥珀は反対派であることは誰もが気づくことである。
「琥珀君。どうして反対するんだ? 私は講師になってはいけないのか?」
「ダメです」
「あのなあ。琥珀君。私も兄貴と同じで若手を育てたい気持ちはあるんだ。私は兄貴みたいに誰かを雇うなんて、そこまでのことはできないけれど……でも、こうした講師ならば、私の技術を誰かに叩きこむことができるんだ」
操は琥珀を説得しようとする。だが、ここで折れない意思を見せるのが琥珀である。
「ハッキリ言う。俺は嫌なんだ。操さんが俺以外の誰かの師匠になることが。操さんは俺だけの師匠でいて欲しいんだ」
「う……」
琥珀の言葉に操は胸を射抜かれた。言葉を刃にすることに定評がある琥珀。それが心を射止める矢になるとは、5年の歳月は恐ろしいものである。
「で、でも。私にだって挑戦したいことがあるんだ」
「いやです。師匠」
「え?」
「師匠」
「待て。その呼び方はやめるって約束したじゃないか!」
出会った時から、お互いの呼称を変えた2人。基本的に呼び方は戻さない方針だったのだが、キレた琥珀にそんなこと関係なかった。
「師匠が考えなおすまで、なんどだって師匠って言ってやりますよ。師匠が誰の師匠かわからせてやりますよ。師匠」
「ええい。師匠を連呼するな」
久しぶりの師匠呼びに操は照れてしまっている。だが、琥珀はそれでもやめない。食事を終えて、大人のホテルで休憩する2人。操がそこへと琥珀を誘った。流石の琥珀も休憩と言う名の運動中ならば、師匠呼びはやめるだろう。その判断のことだった。
だが、琥珀の意思は固かった。
「ほら、師匠。シャワー浴びて来てくださいよ。それとも一緒に浴びますか?」
「あ、ああ、いや、私が先に浴びる」
シャワーを浴びたら流石に師匠と呼ぶ雰囲気ではなくなるだろう。そう思っていたが、琥珀は常軌を逸した存在である。
「師匠、その体に師匠が師匠だってわからせてやりますよ」
「な、なんだそれは……意味が分からないぞ」
「意味がわからないんですか? じゃあ、体にわからせてあげますよ」
【自主規制】
「どうですか? 師匠、弟子にわからされた気分は」
「むー……」
操の首筋には琥珀が付けた"跡”が残っていた。操はそれをそっと指で触れてみる。
「なんですか? そんな弟子にわからされた印をつけて
「ばか……ライブ後だったから良かったけど……こんなところに付けるな」
「じゃあ、別のところだったら良いんですか? 師匠」
「わかったよもう……講師の話は断る。それでいいか?」
「うん、よくできました」
琥珀は操の頭にそっと手を乗せた。これでこの騒動は終わるはずであった……
だが、これで操に新たなる
もう1度、琥珀に嫉妬されたい操はデート中にあることをしようとした。
「琥珀君、あの人を見てくれ」
「ん?」
「ほら、あの背が高くてすらっとした人。かっこいいな」
「ん。ああ、そうだね。確かにでかいや。匠さんと同じくらいかな」
「ん?」
「え?」
困惑する操。話を合わせたのになんで操が困惑しているのかわからない琥珀。
「琥珀君? 他に言うことはないのか?」
「え? ないけど?」
「ほら、今、私たちデート中!」
「うん」
「琥珀君が彼氏!」
「うん」
「彼女は普通、彼氏のことが1番好きだろ?」
「まあ、普通はそうですね」
「だから、もっと、こう……ないか! 感情が動くものが!」
「ないです」
「…………」
操は考えた。そして、あることを思いついた。
「ああ言うタイプはきっと3Dモデルの素質があるんだろうな」
「は?」
「私が手取り足取り教えてあげようかな」
「操さ……師匠。またわからせが必要みたいですね」
作戦大成功。チャンチャン。
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