第15話 お前らこういうのが好きなんだろ

 なんか毎年雨降る時期ってある。その時期にしては、珍しく晴れている日。琥珀がいつものように自室で仕事をしていると急に雨が降り出した。


「お、降ったなあ……」


 窓を見てふとそんなことを呟く琥珀。特に外に洗濯物を干していないので、慌てることもなく仕事をしている。そんな時、琥珀のスマホが鳴った。相手は操からだ。


「もしもし、操さんどうしたの?」


「ああ、琥珀君。申し訳ないけど、今家にいるよな?」


「うん、いるけど」


「すまないけど、ちょっと雨宿りさせてくれないか? 今、丁度琥珀君の家の近くにいるんだ」


「うん。いいよ。気を付けて来てね」


「助かる。ありがとう」


 慌てた様子の操に琥珀は落ち着いて対応した。多分、雨で濡れてくるであろう操のためにバスタオルを用意する。そんなことをしていると操がやってきた。


「琥珀君。お邪魔するよ」


「うん、いらっしゃい。ほら、これバスタオル」


 琥珀はバスタオルを操に渡す。操はお礼を言い、それで体を拭いた。


「ふう、丁度、この近くで打ち合わせをしていてね。帰り道に急に降って来たんだ」


「傘は持ってかなかったの? 天気予報では夕方から雨だって」


「うーん、夕方までには戻るつもりだったから、いらないと思ったんだ」


 毎年雨が降る時期。その時に天気予報を見ないのは危険だし、見ても信用しすぎるのも危険。どっちにしろ危険。傘は持って行った方が良い。


「まあ、とにかく俺の家が近くで良かったよ。ゆっくり休んでいって」


「本当に助かるよ。ありがとう」


「あ、そうだ。風呂沸かしておいたから入っていいよ」


「え? そこまでしてくれるのか……好き」


 琥珀の気遣いに操が思わず本音を漏らしてしまう。しかし、この男。付き合っている彼女からの好きと言う言葉。付き合っているんだから当然という風で全く動じない。これが付き合って5年のカップルの風格。


 操が服を脱いでシャワーを浴びて風呂に入っている中、琥珀は相も変わらず作業をしている。その息抜きにちょっと自分が販売している3Dモデルの売上を確認する。


「…………また美少女モデルが売れてない」


 美少女モデルの出来が良いのになぜか売れない呪いにかかっている琥珀。この呪いはやはり最強の陰陽師にならないと跳ね返すことができない。


 ガチャっと風呂場の方から音がする。操が使い慣れた風呂場から出て来て、一言。


「琥珀君! 私の着替えはないか?」


「あ……」


 操の声に琥珀はハッとした。シャワーを浴びさせたは良いが、着替えは全く用意していない。


 現在の琥珀は一人暮らしである。当たり前だけど、女性の服はない。過去にサキュバスメイドを作る時に参考資料として買ったメイド服も操とサイズが合わない。


「なんか、操さんに着させられる服はないかな」


 琥珀はタンスやクローゼットの中身を探す。そこで見つけたのは……


「これしかないか」


 琥珀が手にしたのはYシャツ。仕事で使いものでもないし、普段は着ないもののフォーマルな場では着用する用に購入してあった。


「操さん。ごめん。これくらいしかなかった」


「む……そうか。ありがとう」


 操は琥珀のYシャツを受け取り、それを着用する。明らかにサイズがあっていないし、かなりのブカブカ。女性の中でも小柄の操に、成人男性の琥珀のYシャツは大きかった。


 腕も袖のところまで足りてないし、下の丈も膝程度まである。


「琥珀君。こんな大きいYシャツ着てるのか」


「いや、別に……普通でしょ」


 操は自分より大きい琥珀の体格の琥珀のYシャツを着て、琥珀の大きさを肌で感じてときめいてしまう。


 その一方で琥珀は……


「操さんって、こうしてみるとやっぱり小さいですね。俺のYシャツ着ているとなんか微笑ましいです」


「微笑ましいってなんだ! 可愛いって言え!」


 操は琥珀の胸板をトントンと軽くたたいて反抗する。


「あはは。ごめんごめん。可愛いよ。操さん」


「む、むー。なんか言わせたみたいで複雑だな」


 膨れ面の操。その微笑ましさに琥珀はまたしても笑顔になってしまう。


 彼シャツ。身長差があるカップルがやればやるほど映える概念である。


「とりあえず、操さんの服を洗濯しないとね」


「あ、わ、私がやる。洗濯機を貸してくれ」


「はいはい」


 流石に5年付き合ったカップルでも、まだ彼氏に自分の衣服やら下着を洗濯されることに抵抗がある操。別にそういう行為をした時に、下着を見せたり、触らせたりもしているのではあるが、洗濯となるとまた違う話になってくる。


 洗濯機を回している間、彼シャツ状態の操は琥珀と一緒にソファに座る。琥珀の肩に自分の頭を預けて甘える仕草を見せた。


「雨中々止まないね」


「ああ、そうだな」


「天気予報見たら、明日の朝まで雨だってさ」


「そ、そうか。それは困ったな」


「じゃあ、今夜はウチに泊まっていく?」


「ああ、ありがとう」


 その言葉を待ってましたとばかりに操は頷いた。彼シャツ操と琥珀が一緒のベッドに入り、2人は濃密な時間を過ごす。雨で気温が下がっている中、2人はベッドの中で熱いことをするのであった。

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