第14話 オチは特にない
山のふもとにあるキャンプ場。緑豊かな広い高原では走り回る子供たち。近くには川があり、そこで親子連れが楽しそうに遊んでいる。そこに1組のカップルがやってきた。
「琥珀君。中々良い場所だな」
「うん、そうだね」
自然とは無縁の自宅の仕事部屋で普段は缶詰になっている2人。たまにはこうして、自然に触れるのもいいものだとデートを兼ねてやってきたのだ。
「それじゃあ、まずは釣りでもするか。あっちのため池で釣り竿レンタルしているみたいだ」
琥珀と操は釣竿を借りてため池で釣りを始めた。
「さて、釣れるかな」
琥珀と操は適度に距離を取っ手からお互い池に釣竿を垂らした。食われる運命にある養殖された魚が自由に泳いでいる。だが、釣り餌から放たれる匂い。それに反応して釣り針にかかる。罠だと知らぬまま、いや、罠だとわかっていてもかかってしまうのが魚というものであろうか。
「かかった!」
操の竿に魚がかかる。非常事態に気づいた魚は暴れるものの、書背な人間よりもパワーが少ない魚。力がそんなにない操に楽々と釣り上げられてしまった。
「よし、やったぞ。琥珀君。釣れた」
「おー。良かったねえ。お、こっちにもかかった」
琥珀の竿にも魚がかかり見事に釣り上げることに成功した。釣り上げられた魚は哀れにもエラをひくひくさせている。ここまで来ればもう助からない。人間の腹の中にはいって血肉の一部となるしかない。
早速釣った魚を調理場に持って行き焼いて食べる2人。
「こういうところで食べる魚はおいしいもんだな」
「うん。そうだね。スーパーで魚を買って焼いて食べるのと何が違うんだろうね」
自然という状況がそうさせるのか、それとも自分で釣ったから美味しくかんじるのか。人間は脳で味を感じる生物である。そうした体験や周囲の状況によって、食べ物に付加価値が生まれてしまうのはよくあることだ。
昼間は適当に遊び、夜になるとテントに入る2人。テントの中から顔を出して一緒に星を見る。
「星が綺麗だな」
「うん。この辺りは都会と違って空気が澄んでいるから星が良く見えるね」
特に星座に詳しいわけでもないのに、星空を見て綺麗だと言う。あれは、何々座だとかそういう会話も一切ない。名前がついている星もあるのに、名前が呼ばれないまま鑑賞される現象が発生する。
操は星空を見ている琥珀の手の上に自分の上をそっと重ねた。そして、琥珀はなぜか反対の手で更に上から操の手の甲に乗せる。違う。そうじゃない。
更に操が反対の手で琥珀の手の甲に更に手を乗せる。もう滅茶苦茶。1度おかしいことが起こったら、連鎖的に奇行が続くアレのピタゴラスイッチ。
そんなわけのわからないテンションのまま星の鑑賞タイムは終了した。テントの中に入り、ランプの灯りで談笑を始める琥珀と操。
「操さん。星見ている時に俺の手の上に手を乗せたよね? あれ何?」
率直に訊く琥珀。わからないことはわからないと言える。勝手な解釈で行動をしない。社会人、特に新人に習得して欲しいスキルナンバーワン。
「キミには伝わらなかったけど……手を繋いでほしかった」
少しふくれっ面になる操。普通そうだろ。気づけ。
「あー、そうだったの。言ってくれれば繋いだのに」
言わすな。もう1度言う。言わすな。察しろ。
「まあ、琥珀君がそういうところが昔からあるのは知っている。そういうところ含めて……好きになった私の負けだ」
「あ、そうなのか。なにか知らないけど勝った」
勝手に勝つな。
「あ、あはは。私はもう寝る。おやすみ」
急に恥ずかしくなってきた操はその場で寝ようとする。
「そっか。それじゃあ俺も寝ようかな」
琥珀がランプに手をかけて灯りを消そうとする。そして、操が一言。
「添い寝して欲しいかな」
「ん?」
「琥珀君には素直に言わないと伝わらないんだろ? 今日は……添い寝したい気分なんだ」
「ああ、いいよ」
琥珀はランプの灯りを消してから操のいた方向に近づいた。暗闇でなにかがもぞもぞする音。このもぞもぞした音の正体はなんなのか。2人が何をしているのかは詳細には語れない。だって、暗くてよく見えないのだから。添い寝以上のことをしていたとしても、描写できるわけがない。
「琥珀君。どこを触ってるんだ」
「いや、俺も暗くてよく見えないから何を触ったのかはわからない」
わからないなら仕方ない。いつどこで誰が何をどのように触ったのか。それは各人の想像に留めておいて欲しい。
「琥珀君、寝た?」
「寝てない」
「そっか……」
「…………」
「琥珀君、寝た?」
「いや寝てない」
「そっか、早く寝た方がいいんじゃないか?」
「いや、別に俺は車の中で眠れるけど……」
「そっかー……運転する私の方が良く寝た方がいいのかー」
「…………」
「琥珀君、寝た?」
「…………」
「寝たか」
「いや、起きてるよ」
早く寝ろ。修学旅行中の中学生か。
「そっか……」
「操さんは寝ないの?」
「いや、先に寝たら負けかなと思って」
「そっかー」
なんだそのルールは。お前ら付き合って何年になるんだよ。何回一緒に寝てんだよ。今更変なルール持ち出すな。
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作者からのお知らせ
ラブコメで1話3000文字以上がっつり書くのが苦行だと気づいたので今回から2000文字ペースに落します
筆が乗ったら3000文字になりますが、基本2000文字にします(;´∀`)
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