第12話 性描写有り「仕事した!!!!」

 今日は操が琥珀の自宅に来る日である。琥珀は操の到着を心待ちにしていると、インターホンが鳴り、操の到着を告げた。


「琥珀君、お邪魔するよ」


 操の手には、買い物袋があり、その中には酒とツマミが買いこまれていた。琥珀も20歳を超えているので、たまには宅飲みをするのも良いだろうということで、操が提案したのだ。


「操さん。結構買ったね。これだけあれば十分かな。一応俺が用意したものもあるけど」


 琥珀は冷蔵庫の中を変えて中から缶チューハイを取り出した。琥珀は、普段からあまり飲む方ではない。そもそもの話、フリーでやっているために仕事帰りに一杯ひっかけるという文化もないのである。


 琥珀と操はテーブルの上に酒とツマミを並べて、宅飲みの準備を始める。


「それじゃあ、琥珀君。乾杯しようか」


「そうだなー。うーん……なんでもない日常に乾杯」


「あはは。なんだそれ」


「何事も起こらない平穏な日常が1番平和ってことだよ」


「確かにそれは一理あるかもしれない」


 今日は何もない素晴らしい1日だった。そう言える日が続くことが人生において最も幸福なのかもしれない。知らんけど。


 琥珀と操はそれぞれ酒を口にする。


「そういえば、琥珀君は酒は強い方なのか?」


「さあ。普段あまり飲まないからよくわからないかな」


「ふーん。私が知っている賀藤家のアレは酒を飲むと悪酔いするやつでな。しかもタチが悪いことにその時の記憶が全くない」


「うーん。まあ、それはよくわかるかな。アレに酒を飲ませてはいけない」


 共通の知人の話題として、度々名前が出てくるアレ。それだけ話題にことかかない濃い人物なのである。


「この前、同級生の結婚式に行ったんだ。久しぶりに会う同級生だったけれど、花嫁姿が綺麗だったな」


「へー」


「学生時代から結構遊んでた子なんだけど、意外とこの年齢まで結婚してなかったんだよ。でも、意外と大人しい感じの子の方が早く結婚したり、人生ってわからないものなんだな」


 操は自然でもなんでもないごり押しの流れで結婚の話題を振ってくる。友人の結婚式に参列する。妙齢の女性が結婚を意識する瞬間としてはよくある話である。


 普段は琥珀に対して結婚のプレッシャーを与えないのだが、残念ながら操は酔っている。つまり、普段抑えているものが解放されてしまってもおかしくはない。


「琥珀君の同級生で結婚している人はいるのかな?」


「うーん、どうだろうねえ。俺と付き合いが深かった同級生はまだしてないけど、話したこともないのが知らない内に結婚しているとかはありそうだけどねえ」


 琥珀の高校時代の同級生たちも何人かはまだ付き合いがある。彼らに関しては結婚したとかそういう話はまるで聞いていない。


「ふー。この部屋なんかちょっと暑いな」


 頬を赤らめた操が上着を脱ぐ。


「そうかな? ちょっと冷房入れる?」


「いや……上着を脱いだら少し楽になったかな……」


 操は結構なペースで酒を飲んでいる。その一方で琥珀はゆっくりなペースで節度を守って飲んでいた。


「あー…………」


 操は急にボーっとし始めた。頭をくらくらと動かす。琥珀は操の様子を心配して彼女に近づいた。


「大丈夫? 操さん」


 次の瞬間、操が琥珀の体に体を預けた。


「ごめん。少しこうしていてもいいかな?」


「うん。それは全然構わないけど、大丈夫? 水でも飲む?」


 琥珀は腕で操の体を支えながらも操を気遣う。頬を赤らめて上目遣いをする操の顔をじっと見つめる琥珀。


「水はいらないから、こうしていたい」


「そっか……」


 瞳を潤ませている操に琥珀は顔を近づける。そして、数秒の間お互いを見合う。長いようで短い沈黙。それを破るように琥珀が操にキスをした。


「ん……」


 操は少し不満気に口元を尖らせる。


「どうして、そこで額にキスをするんだ」


「いや……なんとなく。ごめん。いきなりキスして」


「違う。そうじゃない……キスするならもっと違う場所があるだろ」


 操は目を瞑る。そのままキス待ち顔のまま彼女は息を止めた。琥珀は今度は操の頬にキスをする。


 目を開けた操は琥珀を睨みつけて、彼の胸板をペシペシと軽くたたく。


「あはは、違った?」


「なんだよ……わかってるくせに」


 意地悪をする琥珀に操は不満を口にする。操がプイっと琥珀から顔を背けた瞬間、琥珀が操の顎に手を添えてから、自分の方に向かせて操と唇を重ねた。


 いきなりのことに驚く操だったが、すぐさま目を瞑り、琥珀の肩甲骨に手を回してガッツリと掴んだ。


「ん……!?」


 軽めのキスで済ませようと思っていた琥珀だったが、操に抱きしめられて離れることができない。物理的には琥珀の方が力は圧倒的に上であるから無理矢理引き剥がすことはできる。しかし、大切な恋人にそんなことができるはずもなく、琥珀は操が満足するまでこの状況を受け入れるしかなかった。


 キスは1分弱くらい続いた。操はようやく満足したのか絡ませていた腕をほどいて、ふふっと笑った。


「焦らしたお返しだ」


「ふーん。操さんはそういうことをするんだ。それじゃあ、こっちもお返しのお返しをしようかな」



 翌朝、琥珀は目を覚ました。気づけば自分のベッドの上。隣から聞こえる寝息。そこに目をやると幸せそうな表情で眠っている操の姿があった。


「……あれ? 昨日、俺なにしてたんだっけ?」


 賀藤家あるある言いたい。酒を飲むと記憶をなくしがち。


「んー?」


 琥珀は自分と操の姿を確認する。自分の服は着ている。ヨシ! 操も服を着ている! ヨシ! 異常なし。特に何も発生していない。


「おーい、起きてー」


 琥珀は操の頬をぺちぺちと叩いて起こした。


「へあ……な、なにをするんだ! 琥珀君」


「なんで操さんが俺のベッドで寝てるの?」


「な、なんでってそれは……私の口から言わせるな!」


 操はそのまま顔を赤らめてベッドから出て行ってしまった。琥珀も起きて、寝室からリビングへと移動する。そこにあった酒の空き缶とツマミの残りを見て、昨日の出来事をぼんやりと思い出した。


「あー……そっか。昨日、宅飲みしたんだっけ」


 琥珀は記憶を手繰り寄せる。操が家にやってきて、乾杯をして、酒を飲んで……その後の記憶はなし! 終わり!


「あ、いけない。あの仕事の締め切りが近いんだった。ごめん、琥珀君。私はもう帰るぞ。後片付け手伝えなくてすまない」


「あ、うん。大丈夫。お仕事がんばって」


「ああ、琥珀君もスケジュール管理はしっかりするんだぞ」


 最後に師匠らしいことを言って締める操。洗面所に寄ってから髪型を軽く整えてから琥珀の家から出て行った。


「ふー……後片付けのついでに掃除でもするか」


 掃除の習慣がないアレと違って琥珀はきちんと自室を片付けている。物はついでということで、リビングの掃除だけでなく、家全体の掃除を始めた。


 リビングを片付けた後に風呂場に移動する。風呂場の床は濡れていて、誰かが使った形跡がある。


「寝る前にシャワーを浴びたのか……? いや、それにしては乾きが遅い気がする」


 風呂場を掃除してから次は寝室に向かう。寝室を掃除していると、琥珀はベッド付近に常備してあるものの数が合わないことに気づいた。


「……? 減ってる? おかしいな。どっかに落したのか? それとも数え間違いしてたっけ?」


 琥珀は寝室のゴミ箱を覗いてみた。そこには、減っていたあるゴム製品が使用済みの状態で捨てられていた。


「あ……あった」


 あった。二重の意味があった。なくしていたと思ったものが見つかったし、昨日もなにか"あった”のだった。


「…………使用形跡があるならヨシ!」


 これに関しては使用形跡がない方が後々問題になるので、致命傷で済んだ。

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