ソロ活動
クッキー売り場の前で人は頻繁に立ち止まる。喫茶スペースから背中しか見えず、客達に怪しまれない状態でアパアパを盗み、容易に退店出来た。しかし、その選択を彼らが取っていない。
知羽は屈んで、アパアパに無銭飲食の嫌疑を掛けた。口内の水分が奪われていないか心配して、巡がカゴの中を見る。彼女も異様な光景に驚き、空いた空間へアパアパを置く。
前方のクッキーが排泄物にしか見えず、薺は新手の営業妨害だと非難する。後方の空きが景観を損ねていたと答え、巡はその様子を撮影して楽しむ。
空腹感を抱き、知羽が2袋を手に取り、冷蔵ショーケースの方に行く。会計の際、クッキーの話題を切り出す。それを聞かされ、店主は急いでカゴの様子を確認した。
「やられたな。こっちが本命だったか」
盗んだクッキーの被害をしばらく隠す為、アパアパが窃盗対象から外されている。予め窃盗計画を立てて実行していた。恐らく既に商品は胃袋の中へ入っており、取り戻す事が不可能だ。
見過ごすと、店の窃盗被害は今まで以上に増えてしまう。店主が会計場へ戻り、犯人達の特定を命じた。仕事の納期に追われ、彼は歯痒さを感じながら耐えなければならない。
会計後、包装を開け、知羽が朝食代わりのクッキーを食べる。それに触発され、巡は服のポケットから
アパアパの頭を撫でて、彼女は何かを思い出したかのように声を上げる。そして、窃盗犯達が『
長い文章を授業以外で読みたくない女子中学生は、手洗い場へ行き、説明してくれそうな人物と通話する。名称の段階で、興味本位に手を出すべき行為で無いと予想出来た。
通話の相手は彼女が開口する前に、ぬいぐるみの窃盗を把握しており、知羽は早速、謎の儀式について訊く。蜜三郎と有為子が迎える予定の末路を聞かなければならない。
涼鈴に知られると、怒られてしまう事を危惧しつつも、通話相手は『ひとりかくれんぼ』について説明した。一種の降霊術であり、ぬいぐるみの中身を抜き取り、米と爪を入れて糸で縫合する。
そのぬいぐるみを用い、午前3時から、隠れる役目と探す役目を交代して行う。詳細な手順は現状に必要無い為、省かれていた。
儀式が行われる前に、蜜三郎は何かしらの行動を起こし、窃盗犯達の生命を脅かす。その前に回収出来なければ、安全装置を担う人間の説得が必要となる。
知羽は蜜三郎の正体について説明を求めた。しかし、名前を口にする事すら憚られた邪悪な存在という特徴以外、通話相手が答えない。
蜜三郎の策略で、『
彼女は力無く挨拶して通話を終わらせた。知羽達に残された猶予があまり無いようだ。今日の不運をイースターエッグの影響と決め付け、彼女は手洗場から出る。
既に薺が所用の為か、退店しており、巡は同級生らしき女子に何かを頼まれていた。核戦争の脅威が間近に迫っているにも拘らず、それを理解しない社会から隔離された、SF映画の精神病患者の思考をようやく理解する。
店長が制作していたホールケーキを完成させ、客の手に渡るかどうかは、知羽と巡次第だった。無知な中学生達によって、平穏の終焉は刻一刻と迫る。
「メリー、明日までに終わらせないと、怖い兄に監視されながら終わらせる羽目になるわ。後生だから、数学の課題を写させて!」
貴重な人手を失いたくない知羽が、合掌し、面識の無い女子の尻へ回し蹴りを放つ。恥じらいの無い甲高い彼女の叫びが店内に響く。注目した客達は、すっかり巡の同級生を不審人物と認識している。
「
蹴られた尻を軽く撫でながら振り向く彼女は、品の無い言葉遣いに反し、目鼻立ちが整っている顔をしており、丈の長いファーコートを着ていた。
知羽の顔を確認すると、唐突に彼女の成長を喜ぶ。隣の巡は知羽の粗相を謝罪し、彼女に急用を伝えた。助け舟を出すより、知努と再開するきっかけの方が大事だ。
「Here
喫茶スペースの空席を指差し、怠惰な同級生は退店を認めない。今夜、教材を彼女の家まで持って行く事を巡が提案する。持つべきものは友と喜び、彼女の同級生は残りのクッキーを全て取った。
要求不満で部屋を荒らす白い猛獣の様子を見に、2人が京希の部屋へ戻る。カナコだけ起きており、キャットタワーのハンモックから彼女達を見下ろした。
知羽は再度、アパアパの中身について切り出す。数年間、正体不明のぬいぐるみを部屋に軟禁していた染子が、第六感に目覚める様子を見せていない。幼少期から変わらず性悪のままだ。
巡はアパアパの腹部に、楕円形の発光体が入っていると答えた。単体で超常現象を起こす危険性は持ち合わせていないのか、一部の人間がその存在を隠している。
蜜三郎と有為子捜索に役立たないと分かり、知羽は次の手段を講じた。SNS『チャープ』に盗難事件の報告をする。旅行中の兄達もすぐ把握してしまう。
『クッキーを万引きされたから、店長が被害届を提出するんだって。犯人は中坊らしいけど、少年院送致の進路決まったじゃん』
証拠品を胃の中に収めた犯人達が、SNSでその情報をわざわざ発信している可能性に賭けていた。同級生からの情報提供を待ち、知羽はベッドに横たわる。
巡が窃盗犯達の末路に、希望は薄いと警告した。司法が通用しない蜜三郎は、彼らの生命を奪う事に躊躇せず、目を塞ぎたくなるような光景が待ち構えているかもしれない。
事故現場や事件現場に集まり、その様子を撮影する野次馬と同じく、知羽は彼らの生死に興味を持たないと答えた。ぬいぐるみを回収し、報酬を貰う事が彼女のやるべき事だ。
クッキーだけで腹を満たせていない知羽は、巡に昼食の用意をさせた。猫達の妨害を防ぐ為、居間で済ませる。巡が食器洗いをしながら何度も1人の女子に対して文句を漏らす。
歪んだ愛を受け入れて貰える権利は、現在、ユーディットが有していた。最早、巡は知努の記憶の中から消えつつある。不安を紛らわそうと、1人芝居を始めた。
「週に1日、2人だけの日を設けよう」
「分かりました。昼は兄様の演奏で癒され、夜に貴方と愛を確かめ合う、楽しみですわ」
人命を蚊同然と認識しているような2人が、白猫や元国家公務員に監視されていた場所以外で会う事は、許されていない。織姫と彦星より厳しい状況だ。
耳がまだ垂れている子熊の事情より優先されるはずも無く、知努の演奏もしばらく聴けない。
居間の扉を開けたカナコと共に、知羽が京希の部屋へ行く。スマートフォンの通知を確認すると、先程の投稿に同級生からのメッセージが送られていた。
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