いきなりの集団来訪
一五二八年(大永八年) 四月 尾張国 十川廉次
「待たせたな」
「いや待ってないわ。社の中に入ったら出てきたろお主」
俺がこの時代にいない間は時は進まないらしいから、孫三郎から見たらそうなるよな。
社の階段を降りながら、お手製のカタログを孫三郎に投げ渡して先ほどの席に座る。そのまま食べかけのシュガードーナツをむしゃり、うん美味しい。
孫三郎は投げ渡し時に慌ててバウムクーヘンを頬張ったのでリスのように口を膨らませてカタログを眺めている。写真を指さして何かを言っているが何一つ聞き取れない。飲み込んでから喋れとキレ気味に言ったら、孫三郎は凄い速度で咀嚼して飲み込んだ。
「精巧な絵だなこれは!」
「ああ、こいつは天界の技術で目の前の風景を切り取ってるだけだ」
「なんだと!? そのようなことができるのか!?」
「当然。天上の力を舐めるなよ」
偉そうにしているが俺は別に仕組みなんて知らないけどな。孫三郎が驚愕してるから、俺が神の使者って説に納得できる材料にはなってるだろうしハッタリはこれからもかましていこう。
「……ふむ、適当に言った言葉がここまで返ってくるとは思っていなかったわ。これを親父に見せても?」
「同じのあと三つ持ってきたから全部持って行っていいぞ。ついでに記載しているもの以外で欲しいものがあるなら教えてくれ。大抵のものは揃えられる」
「ありがたい。カタログ《これ》を持って帰るのは急務のようだから今日はこれで失礼するぞ」
孫三郎はバタバタと準備をして下山していった。もう少し待っていたらスペアリブが食べられたのに損な男だ。
一五二八年(大永八年) 五月 尾張国 十川廉次
孫三郎が単身遊びに来てから二週間ほど経った。ネットもないスローライフにも慣れたもんだ。最近は昼に畑を耕して、夜は読書をする。なんて素晴らしい生活なんだろうか。
「やっぱり農薬を使ってないから虫が多いな」
現代で近所の農家から植え付け用のカボチャとナスとオクラを購入して夏野菜の畑を作った。無農薬のせいか、いやに虫が多い。木酢液でも用意してみるかな?
畑のことを考えていると、山道ではない山際から誰かが登ってくる音がした。源太かな? そう思って振り返ってみると、そこにいたのは源太ではなく。
「……! 人か」
「ただの人間ではなく天神様の使いだ」
頭が真っ白な髪で覆われた見た目が十五歳前後の少年とボロボロの身なりをした小学生ぐらいの子供たち六人組だった。
突然の見知らぬ人間に驚いて天神様の御遣いモードで返しちゃった。普通に頭湧いてるやつだよこれ。
「使い……? まぁ、いい。なんか食いもん持ってないか、こいつらも俺も二日近く食べてなくて限界なんだ」
態度のデカい子供だ。……孫三郎もこんな感じだから戦国時代のデフォルトの態度なのか?
腰に装着した防犯スプレーに手をかけ、白髪の子供を挑発してみる。彼は意外にも俺の挑発には乗らず、地面に両膝をつけると。
「お願い致します。俺はともかく、他の奴らは限界なんだ。飯をくれればなんだってするから」
子供たちが白髪の子供の服をつまんで不安そうな表情でこちらを見つめる。やれやれ、これじゃ俺が悪者じゃないか。防犯スプレーに触れていた手を外し、腕を組んで彼らを見下ろして一言。
「ちょっと待ってろ」
俺は降って湧いた面倒ごとに嫌気が差しながらも社から現代へ帰宅するのだった。
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