カタログを作ろう

 一五二八年(大永八年) 四月 尾張国 十川廉次


 スモーカーにやたら触りたがる孫三郎に拳骨を一発くれてやり、社に括りつけたタープを引っ張って大きな日陰を作る。そこにテーブルとドリンクホルダー付きのチェアを用意して孫三郎を無理矢理座らせた。

 孫三郎はブーブーと文句を言っていたが、菓子の山をテーブルの上に並べると目を見開いて黙る。戦国時代では到底味わえない接待を受けるがいい!


「こ、これは菓子か? 見たことも聞いたこともないものばかりだぞ」


「そりゃないだろうな。天上の美味ばかりだし」


 興味深げにバウムクーヘンを手に取った孫三郎はクルクルと回してみたり、穴から俺のほうを覗いてみたりと落ち着かない。

 俺は付き合う気もないのでシュガードーナツを手に取って齧った。孫三郎も俺に倣ってバウムクーヘンを食す。


「甘い! 美味い!」


「知ってるから騒ぐな」


 紙パックの紅茶を自分と孫三郎の紙コップに注いでテーブルに置く。それも興味の対象なのか孫三郎が肉桂色の液体を顔を近づけて睨む。


「赤いな」


 孫三郎が言う。


「紅茶だからな」


 俺が返す。


「美味いのか?」


 孫三郎が俺に問う。


「好みによるだろ。俺は普通」


 俺はコーヒーのほうが好きだ。今日はアイスを飲むには寒く、ホットを飲むには暑いから紅茶にしたが。

 孫三郎は俺の反応を見て、紅茶をちびりと飲む。口に合わなかったのか表情筋を引き絞って嫌悪感を示す。


「……。なるほどな、少なくとも俺の見知った味じゃないのは確かなようだ。」


「苦手なら水もあるぞ。砂糖を入れてもいい」


 俺の言葉に孫三郎は「いや」と返して、紙コップになみなみ入った紅茶を一気に煽った。渋みが苦手なのか眉間にしわを寄せて息を吐く。


「未知とは一度ぶつかってしまわんとな。後に回すと腰が引けてしまうものだ」


「違いないな。知らないから人は恐れる、知ってしまえば正体はなんてないものだったりする」


「そうだ。だから俺はお前のことを知りに来た」


 紙コップをテーブルに置き、俺のことを真っすぐ見据える孫三郎。明らかに腹を決めてここにきている表情だ。供廻りを連れていないのもおかしいと思ったがコイツ、周りに何も言わずにここに来ているな。


「俺の何が知りたい」


「ここにお前が居て、織田の益になるのかどうかを」


「なるかどうかはお前らが決めることだ。俺は誰にでも金さえ出せば品物を売ってやる。ある種、神の名を借りた商人だ俺は」


「織田弾正忠家が尾張を統一するための物も売ってくれるのか?」


「売ってやってもいいが、対価は国一つじゃ聞かんぞ」


 ううむと腕を組み悩む孫三郎、そんな簡単な道なんてないこった。俺も思いつかないからハッタリだけども。


「では目録をくれないか! 親父たちに見せ、どう使うかどうかを考えてもらう」


 なるほど……。いい案だな。一々なにがあるなんて聞かれるのも面倒だし、これはナイスアイディアでは?


「わかった、少し待ってろ」


 善は急げで孫三郎に待っているように言って、社の中に戻って現代に帰る。パソコンは戦国時代に持ってきていないのだ。




 二〇二二年(令和四年) 四月十四日 愛知県 十川宅 十川廉次


 母屋に戻ってノートパソコンを立ち上げて文章ソフトを開く。売れそうな消耗品や道具をピックアップして文字にして打ち込む。


 米、五斤で百文。一石が大まかに百五十キロで二百五十斤、一石が千文なので五倍の値段で販売になる。戦国時代の米は赤米や黒米がメインで、今の超美味しい白米と同じ値段にすると淘汰しちゃうから高めにした。

 砂糖、一斤で三百五十文。八郎左衛門が砂糖は一斤二百五十文と言っていたので現代の精製白砂糖は少し高めに設定した。

 サラダ油、一升で七十文。説明には油とだけ乗せておく。これは戦国時代と値段差はあまりない。

 味噌と醤油、一升で六十五文。現代のほうが美味しいから人気商品になりそうだな。あれ、醤油ってまだないんだっけ?

 塩、一升十文。精製塩だから高めに、これは売れないと思う。

 ここまでが調べて分かった、戦国時代の物価だ。ここから先は調節しなければいけないであろう品物をざっくりと値付けする。孫三郎に城に持って帰ってもらって周りに聞いてもらうつもりだ。

 まず羊羹、五個セットの合計半斤で百五十文。災害時用の栄養食の羊羹だ。日持ちもするし、人気が出そう。

 あとは酒、これは瓶ビール、ウイスキー、バーボン、ラム酒、清酒、焼酎などを個別に値付けして記載する。人気のあるものは当然値上げする予定だ。

 最後にサプライ系。タオルは一枚二百文、バスタオルは倍の四百文、石鹸は一つ五十文。贈答用によしってことで記載しておく。ついでに薬もカタログに載せとくが値段と効果は応相談ってことにしよう。俺は医者じゃないし。

 ネットから品物の写真を拾って編集したものをプリンターで印刷、それをステープラーで留めて四つ分作る。これでよし、せっかく戻ってきたしシャワー浴びてあっちに戻ろうか。





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