事の初めには金がかかる

 二〇二二年(令和四年) 四月十二日 愛知県 ホームセンター 十川廉次


 商店街から十キロほど離れた場所にあるホームセンターにやってきた。食事をとり忘れたせいでかなりお腹が空いているがスーパーは家の近くに大きなものがあるので、順番的にホームセンターを優先しなくては二度手間になってしまう。昼食はまだまだ先になりそうだ。

 田舎特有の無駄に広い駐車場に駐車してホームセンター『メガ・ミスモ』の店内に入る。この店は名前にメガと付くだけあって、同系列店舗の別店舗の数倍の大きさを誇っており、材木や塩ビパイプなどの材料はもちろんのこと、医薬品や簡易的な食料などのドラックストア需要も満たしてある痒い所に手が届く店舗になっているのだ。

 さて、ホームセンターでしか見たことがない超巨大なショッピングカートを押し、まずはポータブル電源を見に行く。あちらで過ごした結果、言いたいことはとにかく夜になると暗い。ランタン一つではどうにもならない程度には暗い。あの時代で俺が過ごすには電灯は必須だ。趣味の書き物一つできやしない。

 俺は迷わずに定格電力六百ワット、充電容量十四万ミリアンペアの大容量のものをカートに入れる。ポータブル電源に接続して充電できるソーラーパネルもセットだ。お値段七万円なり。


 続いて機械道具コーナーへ、実は建築工具メーカーがバッテリー式の冷蔵冷凍庫を売っていると昨夜寝る前にネットサーフィンで発見したのだ。

 そんなわけで工具コーナーを探してみるが、ない。付近の店員さんに尋ねると、需要の少ない商品はメーカー発注になるのでネット通販で買ったほうが安いし早く手に入るらしい。その場合は保証が面倒なことになることが多いそうだが。急ぎではないので取り寄せにしてもらうことにしよう。

 応対してくれた愛想のいい店員さんが冷蔵庫の発注書を書いて俺に渡す、まだ商品取り寄せを頼むかもしれないと言ったら、つど発注書を書くので最後にサービスカウンターで提出するように取り計らってくれたのだ。手間が省けてありがたい。


 続けて室内用の大型ライトをカートへ。離れの中にも照明はあるが向こうに行ったら電力と切り離されているから点灯しないので別の照明が必要になる。

 次は土木工事用の工具。あっちで売ったら金になりそうだし、何よりあの山の上に道具と材料を持ち込んで炊事場と休憩所を作りたい。特にピザ窯とか。

 一回に持っていける量は十畳の離れ一部屋分、まずは道具をまとめて買って持ち込むのが良さそうだ。鋸、スコップ、斧、エトセトラエトセトラ。


「お、重い……」


 重量があるものばかりを載せているせいかカートの滑りがかなり悪くなっている。これは一度レジに向かって車に積んだほうがいいな。

 



 二〇二二年(令和四年) 四月十二日 愛知県 十川宅 十川廉次


 買い物も終了し家に返ってきた。取り寄せも含めてホームセンターとスーパーで四十万円近く使うとは思わなかった。必要な先行投資ではあるが、貧乏人根性丸出しの俺はこんなにお金使って大丈夫だったのかと心配になってくる。

 その雑念を振り払うように、敷地内に駐車している軽自動車から購入品を離れに運び込む。うーん、台車も買ってくるべきだったか……。

 まずは部屋の奥に十キロのビニール製米袋を二列に積み上げていく。八個ずつ重ねたので百六十キロ分の米だ。戦国時代では米は通貨だし多いに越したことはない。

 その横には袋入りの砂糖と塩をコンテナケースに入れて山積みにしていく。こちらも多くて困ることはないしね。

 後はクーラーボックスに日持ちする食材を詰め込んで置いておく。飯のたびにこちらに戻ってくるのは面倒だし、ガスコンロも三つ追加購入してきたのであちらでも食事に関しては快適に過ごせるだろう。

 道具類は目立ったものとしては蚊取り線香を山のように買ってきた。四月でも湧いて出やがるからなアイツら。それに加えて注文品以外の土木道具だ。土間に置ける数も限られるのでそれらはブルーシートを広げて重ねる。

 これで離れの七割は埋まった。一度あちらに向かって道具を置くことにしようか。



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