黄金を求めることにする

 二〇二二年(令和四年) 四月十一日 愛知県 十川宅 十川廉次


 リビングに置いてあるノートパソコンを立ち上げ、検索エンジンに検索ワードを打ち込む。今川、城、あとは津島って言ってたから尾張って打ち込んでおくか。

 検索結果は那古野城がヒット、築城したのは今川氏親。義元のお父さんだ。彼が尾張攻めの前哨基地として柳之丸、のちの那古野城を建てたらしい。調べたところによると、この頃の織田家は尾張守護の斯波家に仕えていた。正確には家臣の織田達勝の家臣なので、斯波家から見ると陪臣だ。その斯波家は今川家に治めていた遠江を攻め取られて激おこ、何度も遠江に出兵しては負けて出戻りを繰り返していた。

 不毛な争いは止めようよと織田の皆が声を上げ、守護代の織田達定までもが反対して守護バーサス守護代が勃発。その争いは尾張守護の斯波義達が勝ち、なおも遠江に出兵を繰り返す。

 そんな折、引馬城で斯波義達が大敗。丸坊主にされて尾張に送り返されてガチ凹みをしたまま、息子であり齢三歳の義統に家督を譲ったらしい。無理強いして自分が丸坊主になったら引き籠るとかクソだなコイツ。

 織田家は上にあげた守護代ボコボコ戦争のお陰で織田家はワントップから群雄割拠状態へ。信長の爺ちゃんである信定は拠点として津島を握って信秀、信長へ続く経済拠点を手に入れたと。


「つまり、津島に近いらしいあそこは織田信定の領地ってことか」


 会うこともないしあんまり関係ないだろうが予備知識として覚えておこう。

 パソコンをシャットダウンし、婆さんのノートを広げる。お勉強の時間だ。昨日は中二ワードの羅列でダウンしたから最初のページしか読んでないんだよな。




 二〇二二年(令和四年) 四月十二日 愛知県 十川宅 十川廉次


 やらかしたので不貞寝していたら日付が変わっていた。

 ノートを詳しく読んでいくとタイムトラベルには条件があり、一つは一度タイムトラベルするとそこを起点にしたジャンプしかできないということ。つまり、俺はあの社の内部でしか現代と行き来できない。もうちょっと下調べするべきだった。

 二つ目はジャンプしても時間は互いに干渉しないこと。ようは俺があちらにいた時間の直後にしかジャンプできない。

 三つ目、一度タイムトラベルしたらそれ以外の時代には飛べない。これが一番のやらかしだ。平安の時代に飛んで化学変化を見せつけて最強陰陽師でござるとかやってみたかった。

 最後、タイムトラベル中は俺は加齢しない。世界から浮いた存在になるからとかふにゃふにゃ婆さんの持論が書かれていたが俺にはよくわからなかった。


 まとめると、俺は西暦一五三〇年前後のあの社にしかジャンプできず、あちらの時間軸では俺は歳を取らない代わりに都合よく一年後にジャンプとかは出来ないってこと。

 あとはあの儀式に必要な茜の作り方とか書いていたが、これは急がなくても金庫に予備は入れてくれているので補充は減ってきたらでいいだろう。


 で、だ。俺はこれからどうするかを考えなければならない。

 ぶっちゃけ、あちらにタイムトラベルしたところで俺に利点なんて何一つない。むしろ命の危険があるのでマイナスまである。だが、戦国時代にタイムトラベルなんて面白そうなことは放置できないよな。

 つまり、タイムトラベルを楽しみつつ金になることをする。戦国時代から金目の物を持って帰ってくればいいってわけだ! 俺って天才!

 ……金目のものってなんだ? 金とかしか思い浮かばない。あとは茶器とか刀か。

 黄金を手に入れる、目的としてわかりやすくていいか。金の収集を主目的にしよう。


 となれば情報だよな。源太ともう一度接触して大人を連れてきてもらって貰うのが手っ取り早いよな。

 いや待てよ、その方法だと大人数で武器を持ってこられて社に詰めかけられたら向こう側に二度と行けなくなる。時間でやり過ごすってのは出来ないんだもんな。

 そうだ、神様のノリで村まで行けばいいのか。源太は簡単に信じていたし、いい感じの浮世離れした衣装なら中世の人間なら押し切れるような気がする。もしダメでも食料の施しをすれば信じてくれるだろ。多分。





 一五二八年(大永八年) 四月 尾張国 十川廉次


 タイムトラベル二回目。俺の十八万しかない預金残高を使って米と塩を買い込んできた。この時代には米と塩はいくらあっても困らんはず。近所のスーパーで塩を二十キロと米四百キロを購入した時は凄い目を向けられたけどな。

 値段は二つの合計で四万三千円程度。手痛い出費だ。他にも村に何もないことを考えて缶詰を結構買ったので総計六万を超えた。何かしらの売れるものを持って帰らないと俺の財布が干上がっちゃう。最悪、源太の知り合いから米と交換に刀とかもらおう。知らんけどそこそこの値段つくだろ。


 ガラリと離れの扉を開けるとそこは昨日見た森に囲まれた景色だった。ノートの情報によると俺がこの時代にいない間は時間は経たないらしいので、状況的には源太と別れた直後というわけか。

 源太がカレーの匂いを漂わせて親に問い詰められないとは思えない。明日にでも誰かしらが来るだろうが、それまでは暇ってことだな。

 時刻的には日が傾きかけているので午後三時ぐらいってところだ。ランタンと持ち込んだ書籍で暇つぶしをして、匂いで目立たないように携行食で腹を満たそう。


 それから数時間後、日は暮れ落ちて辺りは真っ暗になる。

 離れの中にはランタンの明かりだけが満ちている。暗闇に恐れを抱く昔の人々の気持ちがわかった気がするな。


「もし! どなたかおられるか!」


 おうわぁ! ビックリしたぁ!

 木戸を隔てた向こう側から大声で誰かにいきなり話しかけられた。高速で脳内会議が返答するかどうかを悩んでいる。答えないが賛成九割だけど、扉を開けられて侵入されたら困るしなぁ。

 木戸越しに返事だけして追い返すのが一番かな……?


「いかがした。このような夜更けの山奥の社に参るなど妖としか思えぬが」


 適当な理由をつけて帰ってもらおう。うん、それがいい。


「某は織田弾正忠が祐筆、大野木彦太郎と申す。決して怪しいものではない、戸口を開けてもらえませぬか」


 うわ、関わることないって言ってた織田信定の家臣じゃん。聞いたことないけど有名な人か? いや、大体有名なのって信長の時代からだから名前は残ってないような気がする。

 名乗られてドア越しに追い返したって親分の信定にチクられたら兵士が来てもおかしくないよね……。え、今から危険な目に合うか、後で兵士送り込まれるかってこと? クソ二択じゃん。


「あいわかった。しばし待たれよ」


 ガッツリ部屋着だから着替える。大学時代に学園祭でコスプレしたときの白い学ランだ、白い見たこともないような衣服だと威圧感あるから上位存在としての圧掛けていけるだろ。多分ね。



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