15、歓迎会にて
雀は
会場は
滝は雨水の
春季の暦全員がそろっていることを確認し、春が開始の合図として羽衣を振ると、そこから本物の梅花が飛び出して、くるくる回りながら宙を浮遊した。促されて雀がもじもじしながら短く挨拶を述べ、お祭り母さんモードの立春が乾杯の音頭を取る。一斉にグラスやお猪口が持ち上がり、心洗われる滝の音に浮かれた声が重なった。
雀はすぐに
あっという間に時が過ぎ、辺りはすっかり夜の帳が下りている。酔い潰れた者、会話を楽しむ者、酒と肴を際限なく口に運び続ける者、静かに滝を見つめる者――めいめい好き勝手に過ごす中、
「おかえり。ここで休むか」
「はい。すみません……」
雀は手近なパイプ椅子を引き寄せて沈み込んだ。
「お腹がパンパンで、苦しいんです……」
「室内のソファで横にならせてもらったらどうだ」
「初日にそこまで厚かましくはなれません……」
こいつならそうだろう。玄鳥至は再び庭に視線を戻した。すると苔を踏まぬようひらひら浮きながら、こちらに向かってくる者がある。
「
「ほんとうに」
菜虫は恨めしげに室内を
「あの二人をどうしたらいいのかしら。私はもうお手上げだわ」
「磁石でも飲んだらしいな」
玄鳥至の冗談に菜虫は笑おうとしたが、少し頬を動かしただけで視線を落とした。
「虫啓も桃も、
「それは……」
玄鳥至は言いよどんだ。
――暦は入れ替わる。
もしそうなったとして、菜虫はどう感じるだろうか。いや、感じたところですぐに忘れてしまうだろう。
――そのほうがうまく回るのだ、俺たちの仕事は。
余計な感傷は暦に必要ない。暦は上界の神々に定められたとおりに働くものだ。なぜならそのためにつくられたのだから。――そう思っても、どこか違和感を拭えない。そしてその違和感を追おうとすれば、たちまち思考が朧になる。
滝に映し出された梅は天国のように咲き誇っている。見事な梅林だ。夏季の七十二候、
菜虫はいつの間にかいなくなっていた。雀は頭を深く垂らして、あの印象的な黒目を青白いまぶたの下に休ませている。
「雀くん、眠っちゃったね」
菜虫がいた位置に、今度は派手な同僚が立っていた。毛先をピンクに染めたふんわり金髪ショートヘア、耳には紫のピアスを光らせ、唇をオレンジ色のルージュで彩り、水の入ったグラスを持つ爪は明るい緑だ。
「
「一日くらいなんでもないよ。ボクはいつでも虹を出せるし、のんびりしたもんさ。君と鴻は渡り鳥たちのお世話だからね、目を離せなくて大変だよね」
虹始は「ああ、飲み過ぎた」とグラスの水をごくごく飲み干してから、
「ぷはあ。春さまからのご伝言だよ。雀くんの部屋は、前任の
もぞもぞと雀が動いた。首が痛かったらしく、小さなうなり声を上げて重い頭を持ち上げた。
「ごめんなさい、おれ寝ちゃってた……」
虹始はよしよしと雀の頭をなでた。
「ねえ、雀くん。今日はもう部屋に戻って休みなよ。つばきが案内してくれるから」
「でも、皆さんにご挨拶しないと……」
「だぁいじょうぶ。見てみなよ、ほら」
テラスや部屋には屍がごろごろ転がっている。立春や雨水などの良識ある数名が机の上を片し始め、
「じゃあ、後片づけを……」
「それも大丈夫。君は今日の主役なんだから。でも、次からはぜひお願いするね」
雀は虹始の洗練されたウインクに押され、ありがたく頭を下げた。
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