第25話 一宮勇人と長谷仁

常盤佳奈という女性と話した。

誰かといえば常盤の母親だ。

つまり時雨の母親に該当する。

俺は、話せて良かった、とそう考えながら文化祭をまわっていた。


「仁」


「.....何だ?親父」


「それから八鹿」


「.....どうしたの?お父さん」


「何かあったら話す様にな。私に」


「ああその事か。大丈夫だ。親父」


時間になった様だ。

親父と八鹿は帰ると言い出した。

そうか、と返事をしながら購入したアニメキャラクターのお面を身に付けたままのかき氷を食べながらの親父を見る。


俺は苦笑いを浮かべながらその姿を見る。

それから八鹿を見る。

八鹿は俺を見ながら笑みを浮かべていた。


「すまない。親父を送り届けてくれ」


「うん。お兄ちゃん。.....無理はしない様にね」


「そうだな。大丈夫だ。もう何も起こらないと思うしな」


「そうだね」


それから八鹿は手を振って去って行く。

親父も名残惜しそうだったが去って行った。

俺はその姿を見ながら背後を見ると。

そこに、あちゃー、と言いながらの七瀬が。

間に合わなかったですね、と言いながら。


「どうした?」


「いや。挨拶を最後にって思ったんですが」


「.....ああ。成程な。それで来たのか」


「はい。間に合いませんでした」


「.....まあ今度挨拶してくれ。.....大丈夫と思うから」


「はい。先輩」


そういえば柳はどうした、と聞くと。

薫はトイレに行ってます、と答えてきた。

俺は、そうか、と返事をしながら私服姿の七瀬を見る。

でもまあ本当に可愛いよな、と思う。


「お前本当に可愛いよな」


「.....へ!?い、いきなりなんですか?!」


「いや。柳もそうだったが可愛いなぁって思ってな。すまん。変な事を口走って」


「そうですよ!変態ですか!?」


「変態.....まあ確かに。すまん」


俺は苦笑いで回答する。

それから周りを見てから、そろそろ閉幕ぐらいか?、と切り出す。

すると、ですね、と七瀬も見渡す。

今日は一応平穏に終わって良かった、と思う。


「ねえ。先輩」


「.....何だ。七瀬」


「今日は楽しかったですね」


「そうだな。色々あったけどな。取り敢えずは平穏に終わって良かった」


「取り敢えずはどうなるかと思いましたけど良かったです」


言いながら俺に寄り添って来る七瀬。

おいコラ、と思いながら七瀬を見てみる。

だが七瀬は寄り添うのを止めなかった。

すると、そういえばさっきの事なんですけど、と切り出してくる。

俺は、?、を浮かべる。


「何だか背後から誰かから気持ちが悪い目線を感じて.....それで背後を振り返ったんですけど何も無かったんです」


「.....それは困ったな。ストーカーとか?」


「よく分かりません。でも気持ちが悪かったですね.....気のせいかも知れませんが」


「ふむ.....?」


俺は顎に手を添える。

それから考えていると、おや?、と声が。

見ると和宏さんが椿と.....一緒に居た。

俺達は、こんにちは、と挨拶する。

すると和宏さんが笑みを浮かべて俺達を見る。


「久々だね。お元気ですか」


「はい。元気にしてます」


「兄ちゃんが来たいって言ってな。それで」


「ああ。そうなのか。椿」


和宏さんは苦笑しながら、ですね、と答える。

俺達は顔を見合わせながらクスクスと笑う。

すると和宏さんは、まあその。巡回の意味もありますけどね、と声を発した。

そんな和宏さんに対して、もしかして不審者が?、と聞く。

和宏さんは、あまりにも警戒し過ぎかもですけどね、と答える。


「でもそれぐらいが良いかなって思いまして」


「.....そうなんですね」


顎に手を添える七瀬。

俺はその姿を見ながら、和宏さん。実は、と話す。

すると和宏さんは、それはいけないですね、と眉を顰める。

そしてこう切り出した。


「断定は出来ませんが.....でももし本当に何かあったら警察署まで相談に来て下さいね」


「.....そうですね。分かりました」


「.....僕からは大きな事は出来ませんから」


そして俺は挨拶をしてからそのまま椿と和宏さんは去って行く。

俺はその背を見つつ。

七瀬を見る。

そんな七瀬は、気のせいだったら良いですけどね、と切り出す。

その言葉に、そうだな、と答えた。



トイレから戻って来た柳とも別れてから。

俺は七瀬と一旦別れてからそのまま校舎内に戻って来た。

そして、ストーカー、か、と考えていると。


あっという間に日が暮れてしまい。

そのままその日は終わってしまった。

その日の後片付けをしてから用事があると残った七瀬達を残して住宅街を帰宅していると.....外車が通り掛かる。


この場所に似つかわしくない外車だった。

俺は警戒しながら見ていると。

外車が停まった。


「そこの君」


道をウロウロしていた外車のウィンドウが開かれてそう聞かれた。

中からサングラスを掛けたおっさんが現れる。

俺は、はい?、と聞く。

まさか声を掛けられるとは思ってなかったから。


「長谷さん家を知っているかね」


誰だ、と思いながら俺は警戒感を露わにする。

それからサングラスを睨む。

すると、知らない様だな、と苦笑しながら窓を閉める。

そして去って行った。


髭面のオールバック。

そして.....あんな嫌味な性格。

外車、高級感。

俺は暫く考えてから一つだけ思い出す。

あれは一宮の一族ではないか、と。


「.....でもまさかな」


俺はその考えを打ち消しながら首を振る。

それから歩いてから帰宅する。

そして家に入ると。

お兄ちゃん、と声がした。

顔を上げると八鹿が何かを見せてくる。


「これは回覧板か?」


「.....ここ最近の不審情報だって。家の事を聞いて来る黒の外車の話」


「.....そうなのか」


「うん。.....お兄ちゃん気を付けて」


「.....」


『長谷さん家を知っているかね』


俺は言われてから考え込む。

それから、まさかな、と思いながらも。

でもこうして回覧板に乗るぐらいだ。気を付けなければ、と思った。

そして俺はリビングに向かう。


「今日はどうだった?文化祭」


「まあ楽しめたよ。.....有難うな」


「あれからお父さん直ぐに大学に帰っちゃった」


「.....そうなんだな」


そしてそう会話していると。

いきなりスマホに着信があった。

俺はビックリしながらスマホを見る。

そこには非通知と書かれている。

何だ?、と思いながら出なくても良いものに出てしまった。


「もしもし」


『お久しぶりですね。仁先輩』


「.....一宮.....お前か」


『はい。僕ですね。.....えっと用件としてはですね。僕の父親が貴方を探しています。何でも僕とかの話をしたいそうで』


「.....は?」


俺は眉を顰めながらインターフォンを見る。

するとインターフォンが鳴る。

それから先程の髭面が画面に現れる。

まさにバッドタイミングだ、と思ってしまった。

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