第11話 七瀬奏との出会い

思えばまあ.....その。

七瀬との出会いは本当に運命的だったと思える。

それから常盤との出会いもそれなりであり.....というか本当に常盤とは小学校時代に出会った。

そして智和、一宮との出会いもそれなりではあると思える感じだ。


だけどそんな中で何故こんなにも隔たり、落差、つまり天国と地獄の様な感じで生まれたのか。

全く分からないんだが。


正直何でここまで堕ちたんだ?

一宮と常盤が。

そんな事を考えてしまう日々だ。


「七瀬」


「.....はい?何でしょうか」


ボートから降りてみると結局パフェを食う暇も無く。

俺達は帰宅する為に歩いていた。

急がないと日が暮れてしまう。


思いながら門限がある七瀬の為に早足で歩いていたのだが。

その途中で聞いてみたくなった。

今日聞いた方が良いと思う。


「.....お前は何故俺がそんなに好きになったんだ?」


「.....私が先輩を好きになった理由ですか?.....それは簡単です。.....先輩が飛び降りようとした私を助けたじゃないですか。その時から大好きですよ。気になってましたしね」


「.....!」


「.....その時は軽く鬱状態だったので.....。入学試験も上手くいったのですが.....成績でやっていけるか、人間関係でやっていけるか不安で悩んで.....簡単に言うとそれが死に直結しました。そして思いました。それを助けられた時から世界のイメージが変わったんです」


だから先輩の事が私は大好きです、と言ってくる七瀬。

ニコッとしながら。

俺はそんな姿を見ながら眉を顰める。


何か.....良い奴も居れば本当に良くない奴も居る。

そんな感じの言葉に聞こえたのだ。

俺だけかもしれないが。


「何というか常盤もそれなりにこっちの世界に戻って来て反省してから.....そんな美しい世界を見れたら良かったんだがな」


「.....そうですね.....正直、先輩の彼女だったんですから.....根本から変わると思いました。.....でも残念です。.....私からしてみれば先輩とお付き合いしているだけでどれだけ羨ましいか。そういうの分かってほしかったです」


「まあでもこうなった以上、もう知った事ではないな。取り敢えずは今から全部を見直してスタートするべきだと思う」


「そうですね。先輩。その意気ですよ。.....ふぁいとー」


それから俺は七瀬を自宅に送り届ける。

そして門を開けて、先輩。ではまた明日、と敬礼して去って行った七瀬を見送り。

そうしてから俺は自宅に帰る。

取り敢えずは腹減ったな。

そんな思いを抱きながら、であるが。



「デートはどうだった?お兄ちゃんさんや」


「.....ああ。良かったけど.....何かその。七瀬に告白された」


「.....フえぇ?!」


「.....ああ。そうなるよな普通は。俺もそうなったし」


「.....うん。でも少し気が付いていたけど.....まさか今日とはね.....」


何言ってんだコイツ。

というか察しとったんかーい。

言えよ、と思ったが。

笑みを浮かべる八鹿に何も言えない。


それから、でも良かった。お兄ちゃんにそうやって寄り添ってくれる人が居て、と柔和になる八鹿。

俺はその姿を見ながら、そうだな。確かに、と答える。

そして靴を脱いで上がる。

そうしていると八鹿が話してきた。


「今日は鮭だよ。お兄ちゃん」


「.....お?もしかして鮭の塩焼きか?」


「そだね。お兄ちゃんの好物だよ」


「.....そうか。それは美味そうだな。有難う。お前の焼き加減、絶妙だし」


「あ、でも.....その。お赤飯の方が良かった?あ。でもこれってお付き合い始めてからが良いかな」


「冗談だろ。よせ」


恥ずかしいってそんな感じになると。

思いながら俺は八鹿に苦笑した。

すると八鹿は、だよねぇ、と反応しながらクスクスと笑う。

俺は、取り敢えず風呂に入ってくるから、と言ってから逃げる様に洗面所に向かった。

それからシャワーを浴びる。



七瀬奏という女の子。

ソイツと出会ったのは今からちょうど数ヶ月前だ。

入学当初にアイツは自殺を考えていた様で俺がそれを必死に止めた。

そして七瀬は俺を見てから自殺を思いとどまってくれたのだ。

それからこんな感じに至る。


ちょうど今から数ヶ月前の3月辺りの事?だったな。

俺は屋上に暇つぶしに行ったんだ。

そしたら.....屋上の柵の向こうで泣いている女の子を見つけた。

足が竦んでいたのか竦んでなかったのかは覚えてない。


その少女の名が七瀬だった。

何というか少女の事は第一印象で、可愛いな、とは思ったのを覚えている。

だけどそんな事を言っている場合ではない、と直ぐに思ったが。

俺は必死に説得した。


「お前!危ないだろ!」


まだ死ぬには早い、とか。

死んだら駄目だぞ!、とか言ってから柵の反対側に連れ戻した。

そして七瀬を叱ったのだが。


七瀬は死んだ顔で、何故止めたんですか、とだけしか落ち込んだ様に言った。

衝撃だったのを覚えている。

その言葉に俺は答えた。


「.....死んだって楽しくないだろ」


と、であるが。

そんな事を言いながら七瀬を説得した。

七瀬は全く納得がいかない様子で、今にも別の方法で死んでしまおう、という感じだったのを覚えている。

俺はその姿に必死に説得するにはどうすれば良い、と考えた。

そして考え込みこんな事を言ったのだ。


「.....でもまあ分かる。.....確かに鬱は辛いよな.....だけど死んだりしたら周りの誰かが必ず悲しむから。俺の母親もそうだけど.....何も考えてなかったんだ。周りの事を。.....残念ながら自殺したけどな」


「.....え?.....あ.....」


七瀬は目を丸くしてい俺を見てくる。

実はうちの母親は自殺している。

その自殺の理由が今でも分からないが死んでしまったから何も聞けない。


でも唯一思ったのが。

母親に怒りがある、という点だったと思う。

幼い妹を残して死んだしな。

相談も配慮もへったくれもなく死んだし。

何故俺達を残して、と思った。


「.....七瀬さんだっけ?.....まあその死ぬのはマジに簡単だよ。あっという間だと思う。.....でも死ぬのは良いけど周りに迷惑掛けない様に死なないと。じゃないと周りが絶対に悲しむ。残された人達の痛みは全てにおいて死ぬ時、最後まで続く。末代まで続くよ。俺はそういうのは絶対に許さない。それにそんな苦しみを与えたら地獄に行くよ。周りに迷惑を掛けずに死ぬなんてそんな事は絶対に出来ない。.....だからこそ君は生きないと駄目だと思う」


そんな事を言いながら俺は七瀬を見る。

地べたに座っていた俺はあぐらをかきながら笑みを浮かべて七瀬を見た。

そして俺の説得に納得したのか七瀬は泣き腫らした顔で、じゃあーーーーー、とそこまで考えて俺はハッとする。

シャワーが俺に掛かる中だがその部分を思い出した。


「ああ.....そういやアイツその時には既に、私を生かした責任を取って下さい、と言っていたな」


そんな事を、はた、と思いながら俺は、やれやれ、と思う。

因みにだがこの時、俺はまだ常盤とは付き合ってない。

責任か、と思う。

だが俺には責任を取れない。

そして.....この世界を真っ黒にしか感じ取れない。


「.....御免な。でもやっぱり俺は今はお前の気持ちに応えられない。傷付けてしまう。それだけでも.....アイツに絶対に答えよう。どんな形であっても.....答えないとな」


そんな事を思いながら俺はアンサーを考えながら風呂から上がる。

それからパジャマを着ているとメッセージが届いた。

それは.....ボートの上で撮った写真だ。

夕日とかそういうの。


「.....全くアイツめ」


俺は寄り添った感じで撮られた写真を見ながら苦笑しながらそう思う。

今の七瀬が出来るのも時間が掛かったが。

彼女が元に戻れて良かったと思う。

思いながら俺は決意を固くしてから洗面所を後にした。

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