第29話 ボーンラビット狩り


 事件を境にテオと仁那は少しづつ仲が良くなっていた。

 この日も依頼を終えたテオがぶらりと薬屋に来て仁那と話をしていた。


「明日はボーンラビットを狩りに行こうと思っててさ。いっぱい獲れたらまた持ってくるよ」

「本当? ありがとう。でもお金請求してもらっても良いってアニーも言ってるから」

「いいよいいよ。いっぱい獲れた時くらいしか持ってこれないし」

「じゃあ、いっぱい獲れるように期待しているね」

「おう、任せておけ」


 ナヴァロの所には週に三回ほど通っているという。合間にも素振りなどを欠かさずやっている為テオは少しづつ剣を使えるようになってきてるかな。と自慢げに話す。


「剣が上手になればボーンラビットも捕まえるの楽になるね」

「え?」

「ん? 違うの?」

「ああ~、仁那はボーンラビットの捕まえ方知らないんだっけ」

「捕まえ方?」


 よくボーンラビットの狩りの帰りに背中に木の盾を括り付けているのを覚えているかと聞かれる。確かに背中に穴だらけの木の盾を括り付けているなあ。と仁那も覚えている。


「ボーンラビットはさ、敵が近づくとピョンと頭から敵に向かって跳んでくるんだ」

「あの角で?」

「そうそう。奴らの攻撃の手段ってそれだけだからね。跳んでくるボーンラビットにあの木の盾を向けるんだ。そうすればダーツのように刺さってボーンラビットは動けなくなるんだ」

「……え? まさかそれだけで?」

「そうだよ。その角が刺さったままナイフで止めをさして終わりなんだ」

「……なんか……可哀そうになってくる」

「ははは。それでも向こうはこっちをやっつけようと攻撃してくるわけだからね」

「うーん。確かにそれなら子供でも狩りをする許可は貰えるのか」

「そういう事。……あ。今度仁那も一緒に行く?」

「うーん。危なくない?」

「角が刺さるとだいぶ痛いけど。慣れればすぐに場所は分かるから」

「今度アニーに聞いてみるね」



 ちょうどそこへアニーがやってくる。

 手にはバスティーの薬があった。


「結局ワイバーンが手に入らなかったからね。竜の素材を使ったよ」

「りゅ、竜? そんなの……買えないよ……」


 ワイバーンは亜竜と呼ばれ、竜より格下の魔物と考えられていた。そのワイバーンが獲れない代わりに竜とは、テオは驚く。しかも竜なんてワイバーンより更に強く、その素材の値段は数倍にも跳ね上がることは予想できた。


 ――だけど、それがないと院長は……。


 どう考えても院長の予算内には収まらない。どうしようと困っているテオにアニーは優しく語りかける。


「金はいらんよ、先日ニナを助けてもらった礼だ。と言っても手に入った素材の量は多くないからね、いつもの半分くらいしかないんだ」

「え? ただで???」

「ああ、気にするな。前回の分だってまだ残ってるはずじゃからしばらく大丈夫だと思うが……」

「おお! ありがとうアニー」


 テオがそれを受け取ると、今度は一転してアニーは厳しい顔でテオを見る。


「ボーンラビット狩りにニナを連れていくとな?」

「え? いや……その……」

「そこの草原にだって違う魔物は出ないわけじゃない」

「は、はい……」


 気楽に狩りに誘ってしまったが、確かに村の外に行くという事はある程度の危険性はある。保護者のアニーに責められ、テオがたじたじになる。

 しかしアニーの次の言葉は意外にも狩りに行く前提での言葉だった。


「……ニナにも武器を持たすか」

「……え?」

「ええ?」


 話を聞いていた仁那もアニーの言葉に驚く。

 当然この世界は魔物などの危険が多いと聞いている。仁那は自分がテオについて村の外に行くなんて話を聞いたらアニーは絶対許してくれないだろうと考えていた。


 この世界での子育ては、現代の日本の子供を大事に大人になるまで危険から遠ざける。そういった世界とは違った方向があった。それでもある程度の制限はされるが、過保護に村から出さないで大事に育てるという風習は存在しない。


 アニーにとっても外を知るのは良いだろうとも考えていたし、特に今の時期はスネイクダケのシーズンが終わったものの、最近まで近くを冒険者が村の外を歩き回っていたこともあり、近隣の魔物はだいぶ減っている。

 イザとなれば変身出来る仁那だ。心配など不要だろう。


「ふむ……ニナ、何か武器は使えるか?」

「え? 武器……触ったことは無いです」

「ふうむ……アタシが若いころに使っていた弓があるが……使ってみるか?」

「弓? ……できます?」

「そりゃ練習は必要だろう。後で裏でおしえてやるよ」

「は、はい」


「仁那は弓かあ」

「でも弓なんて撃ったことないわ」

「いや、良いと思う。俺が前衛でさ、後ろから仁那が弓で」

「後ろからテオを撃っちゃいそう……」

「ははは、それは勘弁だけどさ、パーティーじゃん!」

「パーティー?」

「そう、冒険者たちは皆パーティーを組んで戦うんだよっ」


 テオが興奮気味で話をしているのを、アニーが苦笑いをしながらつっこむ。


「ボーンラビットでパーティーとか……」


 ……


 ……


 その後仁那は朝から村の雑貨屋に向かう。アニーが出してくれた弓は弦が劣化して使えそうもなかったので、新しい弦を買うためだった。


「さすがアニーだな、良い弓を使っていたな」


 雑貨屋のおじさんは仁那の持ってきた弓をマジマジと眺めながらそういう。仁那には弓の良し悪しは分からないが、随分と良い木を使っているとのことだった。

 おじさんに張り替えてもらい、小走りに薬屋に戻る。


 意外なことに仁那はボーンラビットの狩りを楽しみにしていた。元々この世界に来て魔物と戦うなどということは考えもしていなかったのだが、時々テオが持ってくるボーンラビットを捌き、食することもあり、釣りにでも行くような感覚なのかも知れない。


 それと、この世界に居て、娯楽が無い。初めて村の外に行くという事を少しイベントとして捉えていた。


 薬屋に戻ると、家の裏でアニーに弓の使い方を教わる。

 立て掛けた木の板に向かって何度か撃ってみるが、仁那は楽しいと感じていた。まだまだ思うような場所にきっちり飛んでいかないが、弓矢との相性も良いのか続けているうちに少しづつ矢がまとまり始める。


「今日はアタシが夕食作るよ」


 夢中で練習している仁那を見て、アニーは笑いながら家の中に入っていった。

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