第28話 事後報告
ポーションにより回復したテオと一緒にアニーが孤児院について行く。
さすがに子供が遅くまで外に出ていたことに院長も心配しているだろうという事だった。仁那の事を含めて説明とお礼をしに行くという。
仁那も一緒についていく。
初めて見る孤児院は少し古いが村ではかなり大きい建物になる。多いときは十人以上の子供が住んでいたという。村の子供が減り、今では五人ほどしか子供はいないと言うが、村の学校的な役割を果たしている為、空いた部屋もうまく使っているとようだ。
「ホントに、一人で大丈夫だって」
「しかしまあ、奴らが仕返しを考えている事だってあり得る」
「赤毛の人にボッコボコにされていたんだぜ。もう村から逃げているって」
元々冒険者は自らの命を守るために危険を感じれば何を捨てても逃げる習性がある。実際にナック達三人は、テオの言う通り村から既に逃げ出していた。幕場に張ったテントも置いたままで、真っ直ぐに街へ向かっていた。
街へ逃げかえれば、当然この村での話はどこかから漏れる。この村に赤毛の魔人が居た。そんな噂が流れるのは先の話になる。
孤児院の玄関をノックすると、息を切らせながら院長のバスティーが扉を開ける。
「テオ! 無事だったか……ん? まさかテオ……貴様……」
テオの後ろに居るアニーと仁那を見てバスティーは血相を変える。
「アニー! まさかテオがその子に……」
「ああ、この子が――」
「テオ! お前なんていう事をっ!」
「へ?」
バスティーは顔を真っ赤にしてテオをにらみつける。何のことかわからないテオはあたふたとする。
「幾らその子に恋をしたと言ってもやって良いことと悪いことがあるんだぞっ!」
「え? いや、俺は……」
「何をしたテオ! 覗きか? それとも夜道を襲ったのか?」
「ちょっ。ちょっと待ってくれよ……」
「ええい! 最近どうも様子が変だと思っていたが……う……うう」
「院長っ!」
激昂するバスティーが突然胸を押さえ苦しそうにうめく。慌ててアニーとテオが手をだす。
「アニー……もうしわけない……」
「バスティー。もうしゃべるな。テオは何もしておらん」
「しかし、今……」
「村に来ている冒険者に襲われたニナをテオが助けてくれたんじゃよ」
「なっ。テオ……が?」
……
……
「はっはっは。この子は元々正義感が強くてな」
「覗きとか夜道を襲うとかなんだよ……」
「いやいや。私はずっとテオのことを信じていたぞ」
「最近様子が変とか言ってたじゃないか……」
ようやく落ち着いたバスティーは、ご機嫌で語る。先程までの激昂を思いアニーも仁那も苦笑いでそんな様子を見ていた。
ポーションは相場としてはそれなりにするようだ。冒険者などはイザというときのために大抵は持っているが、街の規模の冒険者ギルドなら治癒師が勤めており、そこで回復魔法を頼んだほうが安上がりだったりするため、駆け出しの冒険者は持っては居てもあまり使わないほどだ。
そしてその代わりにポーションの元にもなる治癒力を促進する様な薬草などを普段は使っている。それを飲ませてもらったというのもバスティーは申し訳ないと言うが、アニーは自分で作れる物だから気にしないでくれと再三いう。
仁那にとってもああいった事件がある中、自分を守ってくれる友達が居るというのは心強い。アニーはむしろポーションくらいじゃ足りないと考えていた。
いずれにしても、この一件以来、仁那はテオという同年代の友達が出来た。
……
……
ナック達はその後村で見かける事はなくなり、村では平穏な日常が戻ってくる。
バスティーはテオの勇敢な行為がよほど嬉しかったのか、寄る場所寄る場所で、その話をする。その結果テオは村を歩くたびに「よっ小さな英雄!」などと言われ、赤面する日々が訪れる。
当然その話は、回り回ってナヴァロの耳にも届いた。
ある日、ナヴァロのお使いの仕事から帰ってきた孤児院の子供がテオを探していた。
「あ、テオ兄。ここに居たんだ」
「どうした?」
「あのさ、ナヴァロのおじちゃんがね、テオに家まで来るようにって言われたの」
「ナヴァロさんが?」
なんだろうとテオは悩むが全く心当たりがない。ナヴァロとはテオがもう少し小さい頃によくお使いの仕事をさせてもらったくらいだ。今はもっと小さな子達にその任を譲っているためしばらく会ってもいない。
その日は特に用事もなかったため、すぐにテオはナヴァロの家に向かった。
……
……
久しぶりにやってきたナヴァロの家は、かつてとあまり代わり映えはない。柵の中でこじんまりと作られている野菜を見ながら、家の扉を叩く。
「ナヴァロさん! テオです」
しばらくすると義足を付けたナヴァロが出てきた。
「おお、久しぶりだなテオ。見違えたぞ」
「ナヴァロさんも、元気そうで」
「ま、足は生えてこないがな。はっはっは」
そのまま家の中に通される。リビングで座るように言われ、おとなしく言う通りにしながら、テオは何のために自分が呼ばれたのだろうと悩んでいた。
見る感じナヴァロの機嫌は良さげで、何か怒らせたような事もなさそうだ。
「話は聞いたぞ、小さな英雄」
「ぶっ……止めてください。ナヴァロさんだって村の英雄じゃないっすか」
「ははは。嫌だろ? 俺だってただやることをやっただけだ。英雄なんて思ってもない」
「でも……ナヴァロさんは……」
「ま、そのお陰でこんな体になってもなんとか生活していけるというのはあるがな」
実際にナヴァロは村の英雄として年金的な物をもらって生活している。そこまで大きい額ではないが、なんとか生きて行けているというのはある。
「で、何か用があると聞いたんですが」
「ああ。先日のニナを守ってくれた件でな。お礼をしようと思って」
「え? いや俺何も出来てないんですよ」
「そう言うな、ニナは俺に薬を届けた帰りに襲われた。責任を感じないわけにはいかない」
「でも、ナヴァロさんはしょうがないですよ」
確かにナヴァロに薬を届けた帰りに襲われたのは本当だが。そこに責任が発生する様な世界ではない。ナヴァロが何かをする義理も無いのだが、ナヴァロにとってはそうもいかないようだ。
「お前。冒険者になりたいんだって?」
「そ、そうですが……」
「俺も街で暮らしていた頃は銀級まで上がった経験がある。もしよければ剣の使い方を教えてやろうと思ってな」
「え? ナヴァロさんが?」
「ああ。テオは剣の使い方は教わったことは?」
「無いです。本当っすか?」
「槍などは教えるほど知識はないがな。剣なら基本を教えることは出来る」
ナヴァロの提案にテオが目を丸くする。それはそうだ。冒険者になりたいと思っていてもこの村に戦い方の手ほどきをしてくれる様な冒険者は居ない。実際にそれを悩んでいるところでもあった。まさに渡りに船だ。
「お願いしますっ! 俺。全然戦い方が分からなくて不安だったんです」
「喜んでもらえたようだな」
「はい! 俺、がんばりますんで」
ナヴァロとしても、テオの両親はよく覚えていた。自分の足を失ったゴブリンの襲撃の際、共に戦い亡くなっている。そんな戦友の子に何かしたいという思いも重なっていた。
こうしてテオは冒険者としての第一歩を歩むことに成る。
毎日と言いたいところだったが、テオは小遣いを稼ぐために働く必要もある。とりあえずは週に三日ナヴァロの家に通い、その剣の技術を教わり始めた。
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