第19話 三人の冒険者
チリン。
店のドアの開く音に仁那はカウンターに向かう。最近では接客は殆ど仁那がやっていた。薬屋と言っても人口もそんなに多くない村だ。客もそこまで多いわけじゃないが日に数人はやってくる。
少しづつ村人の顔も覚え始めた仁那だったが、やってきた客は冒険者のような三人、しかも初めて見る顔だった。
「いらっしゃいませ」
笑顔で声をかけるが、客の方は薄暗い店内をキョロキョロと見回していた。
「おお?」
声を掛けた仁那の顔を見て一人の男が驚いたように仁那を見つめる。なんだだろ? そう思いながらも仁那は三人の客に話しかけた。
「どの様な薬をお求めですか?」
「あ? ああ……毒消しをな」
その一言で仁那はその三人がスネイクダケを取りに来たのだと理解する。
そろそろスネイクダケを採りに冒険者がやってくると、アニーは近頃毒消しを作っていたからだ。仁那もそれを手伝っていたためもうすっかり毒消しの調合も覚えても居た。
「スネイクダケですね?」
「そうだ。あるのか?」
「はい、少々お待ち下さい……」
仁那は大量に作ってある毒消しが入った袋を一つ手に取ると、カウンターの上に置く。
「一つでよろしいですか?」
「それは何個はいってるんだ?」
「一袋に五個入っております」
「ふむ……じゃあ一つでいいか」
「はい」
仁那は三人に毒消しの料金を伝え、袋を手渡す。男の一人が財布からコインを取り出し、受け取ろうと伸ばした仁那の手のひらに乗せる。
仁那がお金を受け取った瞬間だった。
男はグッと仁那の手に金を握らせるように触れる。そしてスリスリとなでるように仁那の手を触った。その触り方がなんとも嫌らしく、驚いた仁那は慌てて手を引く。
「え?」
「ほら、お金は落としたら大変だろ?」
「そ、そうですね……」
「ちゃんと数えたか?」
「い、いえ……」
男はニヤニヤした顔で仁那をじっと見つめている。仁那は不快感を感じながらも必死に平静を装い、受け取ったコインを数える。問題なくちゃんとあるのを確認すると引きつったように笑いながら礼をする。
「あ、ありがとうございます……」
「……へえ」
「な、なんでしょうか」
「名前は?」
「……仁那、です」
「ふうん……こんな田舎に随分な美人じゃねえか」
「……」
男は値踏みするように仁那を見つめていた。仁那はその視線に体を固くする。
「蛇に噛まれたら、一粒飲むんじゃぞ」
その時、後ろからアニーが顔を出し、冒険者に声をかける。冒険者達はアニーを見ると「チッ」と舌打ちをしながら受け取った薬を鞄にしまう。
「ああ、飲めば良いんだな」
「……そうじゃ。噛まれたらなるべく早く飲め、さすれば効く」
「そうるすよ」
男はニヤリと笑うと、再度仁那の方に目をやる。
仁那としては相手は客だ。必死に自分を抑えて頭を下げた。
「ありがとうございました」
片目の仁那の声に男は手を上げて応え、そのまま店から出ていった。
……
「この時期はああいう冒険者が来るからな。冒険者なんてのはゴロツキに毛が生えたような連中が多いんじゃ。気をつけな」
「は、はい」
アニーの言葉に仁那は不安げに扉を見つめた。その足元をフィンがまるで仁那の不安を癒そうとするかのようにスリスリと体を擦り付けていた。
◇◇◇
冒険者ギルドの小屋で、テオはいつものように掲示板を眺めていた。
「おう、テオ。最近良く来るな」
「まあね、ほら。もうすぐ冒険者に登録できるじゃん?」
「んあ? そうか、テオもそろそろ15か」
「装備を買えるお金も少しはためたいしね」
テオの言う通りちゃんとした武器や装備を揃えたいというのもあったが、本心では院長が飲んでいる薬が値上がった時の事を考えても居た。
院長は、子どもたちの食費などを削るくらいなら自分の飲む薬を我慢してしまう、テオにはそう思えてしまっていた。
「そういえば今日、初めてきた冒険者がスネイクダケの案内依頼を出していったよ」
「え? どこ?」
テオは掲示板を見ていたがそういった掲示は無かった。再び掲示板を見直そうとすると受付のおばさんが手に紙をもってヒラヒラとテオに見せつける。
「さっき受諾したばかりだからね、まだ貼ってないよ。ほれ」
「へえ、依頼者はどんな人?」
「まだ若い冒険者だね、二十歳そこそこじゃねえかな。それでも銅級だって言っていたよ」
「うーん。でも今年はまだ早いんじゃない?」
「なに、場所さえ教えてやれば後は自分たちでまた登るだろ?」
「まあ、そうか……受けようかな」
普段は家の掃除や草刈りなどのちょっとした依頼があるくらいだ。村の外での依頼はテオにとっては魅力的だった。しかも冒険者を目指すテオにとって、都会から来た冒険者と話す機会というのにも魅力を感じる。
「受けるんだね? じゃあ貼らないでおくよ」
「うん、頼むよ」
依頼表にサインをすると、テオはギルドを後にした。
翌日。朝からテオはギルドへ向かう。
防具などは持っていなかったが、ボーンラビット狩りの時に持っていく自作の木で作った盾を背中にくくり、腰にナイフを差している。
この街には冒険者は居ることは居たが、殆どが兼業だ。
普段は農家などをやりながら、近隣で魔物が出たりすると頼まれ狩りに出るような男たちだ。その為、そこまで冒険者然とした感じではなく、ちょっと腕自慢の男というレベルであり、対応できないような魔物が出たりすれば、駐在する国境の兵士たちや、ガードナー領の領主の住む大きめの村へ依頼を出したりして対応している。
そういったこともあり、この時期に都会からやってくる冒険者はある意味子どもたちの憧れでもあった。
ギルドに着いたテオが周りをキョロキョロと見回すが、それらしき冒険者の姿は見えない。受付の女性に訊ねるとまだ来ていないという。
「たしか、今日だったよね? 時間も間違ってないよね?」
「そうだな……依頼書にもそうあるね」
今村に来ている冒険者は村に用意してある幕場に居るという。話によると三人組の若者だということでテオは行ってみることにした。
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