第18話 スネイクダケ

 カピの村にも年に二度ほど人が増える時期がある。

 そのうちの一つが春に近くの山林に芽吹く山菜が採れる時期だ。特にカピで採れるスネイクダケと言われるタケノコのような山菜は、その繊細な味が人気で王都でも高く取引されていた。

 それを目当てに都会から冒険者がやってくる。



 この世界の冒険者はその実力や実績で等級が付けられている。強大な魔物と戦えるような大層な冒険者でない鉄級や銅級クラスの冒険者でも、カピ周辺の魔物には十分対応できる。

 それでいて山菜が採れればそこそこの収入になるため、毎年必ずやってくるような冒険者達もいた。


 ナックもそんな冒険者の一人だった。

 もともとは士爵の息子であったが、四男という事で爵位を継げる訳でも無く、ただその腕っぷしに自信があることから冒険者になった男だ。

 しかし、その腕っぷしというのも街での喧嘩などでの話で、魔物と戦ってというわけでは無かったが、幼少期からの街のゴロツキの仲間たちと共に冒険者ギルドの門をくぐった。


 乱暴者で学校にも行かず遊び歩いていた息子が家を出ていくとき、それでも息子のためにと最後に親から渡された魔法の鎧のおかげもあり、仲間たちと比べてもその強さは頭一つ出ていた。



 ナック、ヌージー、ビルの三人は知り合いの冒険者にここのうわさを聞いてやってきた口だ。しかし初めての事で予想以上の田舎であるカピの村にゲンナリとしていた。


「ちっ……ちょっと来るのが早すぎたんじゃねえか?」

「季節の物は毎年ちょうど同じ時期に出るわけじゃねえからなしょうがねえよ」

「ったく。こんな田舎でどうやって時間をつぶせって言うんだ」


 今年は少し寒さも続き、今年は例年より山菜が出てくるのは遅いようだった。しかし収穫できる時期に出遅れれば、おいしいところは他の冒険者に採られてしまう。他の冒険者達も皆割と早めにやってくることはあったが、山菜採りに関しては初心者のナック達に気候からの採れる時期の予測など出来やしない。


 村の冒険者ギルドでどうやら今年は例年より一週間ほど遅れているという話を聞き苛立ちを隠せずに居た。まだ若いざかりのナック達には退屈でしかなかった。


「それでも酒場はあるんだ。良いじゃねえか」

「酒場はあっても俺たちは野宿だ。とっとと収穫して帰りてえぜ」


 ナックは仲間と共に村に設置された野営用の敷地に幕を張っていた。

 ある程度上のクラスで収入の多い冒険者ならいざ知らず、銅級程度の冒険者は宿代をケチって野営するのが一般的だった。

 他にも野営地には山菜を狙った冒険者が他にも二組来ていたが同じように低級の冒険者達だ。当然宿になど泊まらない。

 スネイクダケの採取に慣れた冒険者は、今年は少し季節の代わりが遅いという判断で少しゆっくりとやってくるのだろう。


 冒険者は加盟するとまず鉄級というランクが与えられる。その後実績を重ねることで銅級、銀級、金級と上がっていくのだが、銅級クラスの冒険者はあまり金にゆとりがあるわけでは無い。銀級になれば受けられる依頼もより高度になり、より高い報酬を貰えるようになる。


「とりあえず明日から山へ行ってみようぜ」

「ああ。それにしてもひでえ田舎だな。ギルドの依頼を見たがろくなのがねえ」

「だから村に住む冒険者だって殆どいねえんだろ? 子供の小遣い稼ぎの依頼しかねえとはな」


 これも孤児たちがギャング団を作ったりして荒れていた時代に対する政策の1つで、12歳に成ればギルドに入会しなくても子供は簡単なお小遣い稼ぎを出来る依頼などはギルドで認めるようになっている。


 この時期の山菜採りのシーズンは村の子供たちにとっても良い小遣い稼ぎにもなっている。


 スネイクダケの採れるような場所まで入ると少し魔物の強さも上がるため子供だけで採りに出ることは基本、禁止されている。

 その代わり、噂を聞いて初めて来たような冒険者が道案内として子供を雇う事は許されており、子供たちも禁止されている割に皆子供のネットワークでスネイクダケの生育場所などは知っていた。


 冒険者ギルドは普段三人が居る街の物と比べるとかなり小さい。ほぼ掘っ立て小屋のような建物に年配の女性と責任者と思われる老人が居るだけだ。

 何処のギルドでも掲示板に依頼が張ってあるのだが、この村のギルドには子供の使いの様な物が少しあるだけだ。そして、でかでかとスネイクダケについての注意事項が貼ってあった。


「場所はどこらへんなんだ?」


 ナックが受付に居た女性に聞くと、女性は首を振る。


「その様子だとスネイクダケの採取は初めてですよね? スネイクダケは山の中腹に群生しています。ただ道などはちゃんと整備してあるわけじゃないから初めての方は案内を雇ったりしますよ?」

「ほう、案内か……それじゃあ村の連中はスネイクダケで一儲けとか考えないのか?」

「ここらへんでは昔から季節の物として普通に食べるだけですから。わざわざ他の街に行ってまで売るような事はしないですね」

「欲のねえ連中なんだな」

「この時期に行商人がスネイクダケを目当てに来るので、そこに売ることはありますよ? ただ商業ギルドの管轄がないとそういった取引は禁止されているので、冒険者の方が村人から買うのは許可されていません」

「面倒なこったな。ちなみに案内はどのくらいが相場だ?」

「そうですね――」


 ナックもギルドに登録してある以上、そのルールを破るほどリスクは背負いたくない。それに村人から買うより、自分で採って来たほうが元手がかからない。元より村人からの購入は頭に入れていなかった。

 三人は女性に案内について説明を受け、募集を出すことにした。


「この依頼なら明日の朝には誰かしら依頼を受けていると思うから……早朝に来てください」

「ほう、人気なんだな。分かった明日な」

 

 ナックが募集の手続きをして戻ってくると、スネイクダケの採取に関する注意事項を読んでいたヌージーがナックに聞く。


「おい……誰か毒消し持ってきたか?」

「毒消し? いや、俺は無いな、ビルはどうだ?」

「俺もねえよ」


 どうやらスネイクダケの周辺にはその藪にねぐらを作る毒蛇が居ることが多いようだ。スネイクダケの名前も、毒蛇とセットとなって付けられた名前であり、慣れた者なら知っている事であったが、三人には初耳の話であった。


 受付に居た女性に聞くと、どうやらこの村の薬屋に行けば買えるという。三人は早速教わった薬屋に向かった。

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