時崎の幸福理論

夜半

布団でも賄えぬ寒さが忍び寄る

自己嫌悪とも希死念慮とも違う

それをきっと人は「感傷」と呼ぶ


悔やみ切れない過去を捨てきれず

去った人の温みを拭いきれず

「痛いやつだな」と嗤われたって

誰も大切な人だったんだ、忘れられる訳ないよ


甘えん坊が突然世界に放り出され幾年

時には「未熟」と詰られ

それでも他人より苦しい決断をしてきて

傷付けたくなかった人を傷付けてきた


そんな自分が嫌いだった

生きてる意味なんて無いと信じて疑わなかった

誰もそんな僕を好く訳ないと雑踏に独り

泣きたくないから感情を壊した


あの苦しみを味わいたくないから理論武装し

誰にも言えない痛みを背負って日暮らし

だからまた人に嫌われ塞ぎ

人の好意ほど信用出来ないと心を閉ざし


誰のせいかと問われれば結局僕で

過去に縋るしか居場所はなくて

あの心を締め付けるような痛みは忘れない

その痛みだけが僕が生きてる証明書


夕陽の沈まぬ街に待ち人を探し

その分だけ外の季節は移ろい

進まないんじゃなく気付かなかったんだと

それに気付いた時にはもう遅かった


そういう過去から逃げるには

この小さな身体はちょうど良かった

吹きすさぶ風に負けぬよう体温は温かく

どこにも行けない僕の居場所はこの塀の上だけ


夕日の沈まぬ街で

行き交う人々を唯見送って

たまに心が軋む時には丸まって眠って

撫でてくれる人に愛想笑いして


そんな僕は昔人間だった

医者もお墨付きの無能な嫌われ者で

痛い話を書き殴るだけの痛いヤツだった

朧気な記憶な中でそれだけは覚えていて


そんな自分が嫌で仕方がなくって

逃げるように生きていたらこうなっていた

相変わらず壊れているような気がするけれど

ぼーっと過ごすこの生活は、案外気に入っている

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