50PV:ワニとネズミ

 ワニは動物園から除名宣告を受けました。


 ワニは行く宛ても無いので、親友のネズミのところへ行きました。


「やあ! ねずみくん! 世界征服の調子はどうだい?」


「んん? おお、わにじゃねえか! 動物園に拉致監禁されたと聞いて驚いたが、無事に……んん。無事じゃねえな。上顎うわあご下顎したあごがねじれの位置を起こしているじゃねえか。動物園では治して貰えなかったのか。はっはー」


「いやあ。この醜い下顎のせいで動物園を一方的に追い出されたんだけどね。トラックに詰め込まれてあわよくば焼却処分されるところだったよ。本当に喋りにくいったらありゃしないね」


「はっはー。どうやってトラックの中から逃げ出したのか聞いてみたいが、いやあ。そこはブラザー、ダチって奴よ。君がどうやって逃げ出したかは聞かないでおいてやるよ。倫理的にな」


 んで。世界征服のほうだが──。


 そう言って、ネズミは倭国チーバにあるエンターテインメント施設『ランド』の中にあるホテルの、その最上階。動物はおろか、人間も誰も入ることの出来ないあるホテルの最上階。そこまで繋がるエレベーターですらランドの名物『隠れマウス』の一つとされているほど、見つけるのが困難な、エレベーターというよりも軌道としてはジェットコースターに近い、その果てにある、ネズミ専用の部屋の巨大なベッドに背もたれを預けながら、語り始めました。


「なあブラザー。俺は世界征服を目指していたが、それは、まあ。やめることにしたんだ。かつては世界征服を目指して、チャイの上梅ジャンパイ香根コンコンに『ランド』を次々と設立して生きてきたわけだが──。なんつうかな。経済的な成功って奴だけで結構な優越感に浸れるもんだぜブラザー」


 はっは。


 あの人間たちがさあ。


 『ランド』の中だからって、超割高な芋が五、六個入ったフライドポテトを倭国の通貨で800Yイーで買っていくんだぜ。


 それも超喜びながら買っていく。


 夢の国ならば財布の紐も緩むってわけよ。


 それが何万人と来るわけよ。


 そいつらを、このホテルの最上階から眺めているだけで、人間っておもしれえ生物だなあって思いながら、俺はふかひれやキャビアをほおばるわけよ。


 この優越感って言ったら、たまんねえんだなあ。


 はっは。夢の国の愛称の本当の意味するところを、あいつらは知らねえみてえだ。


 誰にとっての夢の国なんだろうな。はっはー。


 ワニはそれを聞いて、怒りが湧いて来てしましました。


「ねずみくん。君はその程度の生物だったのかい。世界征服するって言ったじゃないか。そのうち『ランド』にミサイルを配備して、あらゆる国々を軍事力の元で征服するつもりではなかったのかい? 親友だったじゃないか! 僕も本気で協力しようと……」


「いやあ。待て待て。俺がチャイ──イッチャイナ共和国の経済的なアキレス腱、上梅や貿易特区の香根に『ランド』を立地してからよ。まあ。上手い話が舞い込んできたのさ。俺は株主からの投資によって自社株で軍備用品を揃えようとしたんだけどな。お国のほうがな。ステイツの方から俺のほうに打診があったわけさ。『軍備品はまだ配置するな。時期が来たらステイツ政府の方から財源は投資する。だから今のところはエンタメ業界の隠れみのを被ったまま経営を続けていけ』ってさ」


 まあ。俺も。お国の事情に首の根っこを掴まれちまっているってわけなのさ。猫だけに。あ、俺ネズミだったか。はっはー。


 ステイツとイッチャイナ──勝手に争っていくうちに俺はただがっぽりと儲けさせてもらうぜ。残念ながらステイツの言いなりにはならねえつもりだが。


 ブラザー。お前にも都合の良い話があるんだ。


 俺はエンタメ業界を少し拡大させて、今はホスピタル──療養・看護業界にも着々と手を伸ばしている。チーバの横のトキオにもいくつかホスピタルを構えているんだ。


「そこでだ。ブラザー。まずはその下顎を治したらどうだい? ウチの所有するホスピタルに裏では有名な外科医を買収しているからよ。ここで昔のツケを返させて貰うぜ。無料どころかVIP扱いで、誰よりも最優先でその外科医に診療してもらえるように、クチは付けておいてやるからよ。はっはー。そいつは天才だから痛みは一切無いと思うぜ。悪くない話だろ?」


 ワニは「世界征服よりもまずは自分の下顎を戻すことが優先なのはそりゃそうだな」と納得した様子で、ネズミに聞きました。


「その外科医の名は?」


「ペングー」

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