第25話 演技

 俺が部屋を出ると、ちょうど他のメンバーも出て来たところのようだった。


「樋口? それに花凛も……」


「木戸!?」


 俺は木戸達に会って驚いたようなふりをした。


「ここはいったいなんなの?」


 不審がる田城さんに同意しつつ、俺達はネームプレートの置かれたテーブルの周りに集まった。


「ねぇ、席は七つ。私たちは六人ってことはまだ誰かいるんじゃない?」


 田城さんの言葉に、俺は左隣の空席のネームプレートに目をやってその名に驚いた、ふりをした。それから同じくネームプレートを覗きんだ水紀と顔を見合わせた。


「なら、もう一人を呼んで、話は全員が集まってから、ってことでいいよな」


 俺はみんなを見回して同意を得た。


 ◇


 『2』番の部屋の扉を開けた俺は一瞬動きを止め、それから倒れている創賀に駆け寄った。


「おい、創賀? 創賀だよな!?」


 それから、反応の無い創賀を前にして、辛そうに呟く。


「久しぶりの再会がこんな形って……」


「うそ、そんな……」


 水紀もショックを受けているようだった。そんな俺達に田城さんが気の毒そうな顔をしながら聞いてきた。


「知り合いなの?」


「ああ、俺と創賀と水紀は、幼馴染だったんだ……」


 俺は悲しみに暮れる演技を一通りした後、気持ちを怒りに変換させたように鋭い目つきで周囲を観察した。


「おそらく凶器は、この落ちている拳銃だ。心臓を撃ち抜かれてるから、多分即死だろうな」


「でもなんで、創賀が……」


 暗く悲しそうな水紀に、俺は悔しそうな表情で言う。


「創賀のことだ。きっと何かの事件に巻き込まれたんだろう」


「でも、拳銃なんて、相当やばい犯罪グループなんじゃない?」


 田城さんが不安そうに言うと、木戸が何か言いたげなもどかしい顔をした。


「どうした? 木戸、気になる事があるなら言ってくれ」


 俺が発言を促すと、木戸は気まずそうに拳銃を取り出して言った。


「拳銃なら、俺の部屋の机の裏にも貼ってあった」


 周囲から恐れるような視線を向けられた木戸を庇うように、俺も拳銃を取り出した。


「俺の部屋にもあった。何があるか分からないから念のため持ってきたけど、この分だとおそらく全員の部屋にあるんじゃないか?」


 俺の発言でみな一度は動揺したものの、すぐに落ち着きを取り戻した。


「一旦、中央の部屋に戻ろう。一度落ち着いて、それから改めてこれからの事を考えた方がいいと思う」


「そうね、そうしましょう」


 田城さんが同意し、俺達は中央の部屋に戻った。


 ◇


 キッチンの方を見た水紀は立ち上がって言う。


「私、何か飲み物持ってきますね」


「それだったら、俺も行くよ。田城さんも手伝ってくれる?」


 俺はすかさず立ち上がって言った。


「ええ、いいけど」


 田城さんを呼んだのは、これから起こる殺人の容疑を少しでも分散させたかったからだ。それに、田城さんと水紀の対立という構図が演出しやすくなるといった期待もあった。


 それから、俺と水紀、田城さんの三人はキッチンの方へ飲み物を取りに行った。そこに並ぶ様々な種類の飲み物を見て、水紀がどれを選ぶべきか迷っていると、田城さんが言う。


「私、三人に何がいいか聞いてくるね」


「ありがとう」


 残りのメンバーが何を頼むのかを、俺だけは知っている。それよりも、今の俺はこれから自分がやるべき事の方に意識が向いていた。


「灯也、大丈夫?」


 水紀の声に顔を上げると、心配そうにこちらを見つめている。俺は視線を地面の方に逸らして答えた。


「大丈夫、ではないかもしれない」


 創賀が死んでいるというのに、ここで元気なのは不自然だ。


「そうだよね。創賀君があんな事になってたんだもんね、ごめん」


 暗い顔で謝る水紀に対して、俺は再び水紀に視線を戻すと、決意を込めて真っ直ぐに言った。


「でも、俺が絶対になんとかするから。全員でここから出られるように頑張るから。だから俺を信じて任せてくれ」


 俺のこの言葉に嘘はない。だが、決して真意が伝わってはいけない。


「うん」


 水紀は少しだけ気持ちが安らいだように、寂しい笑顔を浮かべた。


(だから、俺は絶対に連続殺人を成功させなくてはいけない)


 そして、三人で飲み物を用意している間に、俺は隙を見て殺人鬼としての犯行に及んだ。俺は棚からコップを探すふりをしながら、八つ目の何もシールの貼られていない鍵に『3』番のシールを貼り付けて、本物の『3』番の部屋の鍵を回収し、それから二人の目を盗んで、木戸のお茶に毒を混入させた。

 仕事を終えた俺はバレていない事を祈りつつ、飲み物を持ってテーブルに戻った。


 俺は右隣の夏目にコーヒーを渡してから、自分の紅茶に口をつけた。だが、緊張で紅茶を味わっている余裕は無かった。無性に渇く喉を紅茶で鎮めながら、落ち着かない心を隠して俺は待った。


 そして、その時は間もなく訪れた。


 倒れる木戸の姿に、俺は内心で安堵しつつも、驚いた表情を作って言う。


「木戸? 大丈夫か!?」


(ようやく二人目だ)


 俺は乖離する内面と外面のどちらが本当の自分なのか分からなくなりながらも、殺人鬼とゲーム参加者を演じ続けた。


 





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