最終周(n+4周目)

第24話 殺人鬼

 目を覚ました俺は、周囲がこれまでと同じ白い部屋である事を確認して、すぐに立ち上がった。


 机の下から拳銃を剥がし取り、すぐに部屋を出る。時間的余裕は多くないだろうが、焦る気持ちを抑えて、足音を立てないようにして廊下を歩いた。


 中央の部屋についた俺は、すぐに棚に向かって歩いて行き、''記憶の源''の入った小瓶を見つけ出して、中身を飲んだ。これで、万が一失敗して途中で死ぬ事になっても、記憶を持った状態でやり直せるはずだ。

 それから、毒薬と睡眠薬を回収してポケットに忍ばせ、俺は『2』番の部屋へと向かった。鍵については後回しにしても、いずれ細工する機会はあるだろう。


 俺はノックもせずに、『2』番の部屋の扉をなるべく静かに素早く開けて、中に入った。

俺は扉を閉めてすぐに拳銃を構えたが、驚いたようにこちらを見た創賀の手には既に拳銃があった。


「よう、灯也、久しぶり。思ったよりも早かったな」


 創賀はにこやかな笑顔で拳銃を持った俺を迎えた。


「創賀、さすがだよ。全てお前のシナリオ通りだったって事だろ?」


 俺は前回までの創賀の行動を褒め称えたが、創賀は心当たりが無いかのように首を捻った。


「何のことだ?」


 その反応に俺は戸惑いを覚えた。


(前の周で“記憶の源”を飲んだのは、創賀じゃなかったのか?)


 もし記憶の源を飲んでいないなら、創賀にとって今は完全に一周目の初見だ。拳銃を手にした創賀相手に、俺は戦いを挑まなくてはならない事になる。


(撃たれる前に撃たないと……)


 俺はすぐに撃とうと拳銃を創賀に向け、引き金を引こうとした。

 しかし、俺の手は止まってしまった。これはゲームだと頭では分かっている。しかし、あまりにもリアルな仮想現実で、俺は人を撃つという行為そのものにまだ抵抗があった。


(早く撃たないと、これまでの創賀がやってきた事も全部無駄になるのに……)


 焦りと恐怖に挟まれて、拳銃を持つ俺の手は震えていた。すると、創賀の拳銃を持つ手が動いた。


(マズい!)


 しかし、創賀は拳銃を机の上に置くと、俺に向かっていつもと変わらない得意げな余裕の笑みを浮かべた。


「時間はあまりないんだろう? だったら早く済ませよう」


 そう言って創賀は自身の心臓のあたりを指し示した。


「しっかり狙えよ? ちゃんと一発で死ねるように」


 これから死ぬと言うのに笑みを浮かべている創賀の異常っぷりに、呆れかえった俺は落ち着きを取り戻していた。


(まったく、お前って奴は……)


 俺は集中してしっかりと狙いを定めると、拳銃の引き金を引いた。


 銃声が鳴り響いたが、三周目で創賀が宮野さんを気がつかれずに殺害できたのだから、音が別の部屋まで届くことは無いだろう。俺は使用した拳銃を床に置き、創賀が机の上に置いた拳銃を回収した。

 そこで、俺は拳銃の下に黒表紙のメモ帳が置かれていることに気がついた。俺がその“承継のメモ帳”の表紙を捲ると、そこには一文だけ創賀の字で書かれていた。


『灯也に殺されろ。』


 俺はそのページを破って回収すると、胸から血を流して倒れている創賀の遺体に目をやって、心の中で呟いた。


(これだけで俺に殺されるとか、お前は本当に理解不能な天才だよ)


 そして、俺はすぐに創賀の部屋を出て、自分の『1』番の部屋に戻った。


 俺は部屋に戻ると、大きな溜息をついた。ようやくこれで一人目なのに、もう今の段階でかなり疲弊しているし、心臓の大きな音は鳴り止みそうにない。しかし、俺はやり遂げなくてはいけないと、改めて覚悟を決めた。


(この周の殺人鬼役は俺だ)


 創賀が死んだ今回は始まりの合図となる銃声は無い。俺は頃合いを見計らって、もう一度部屋を出た。

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