第21話 [ゲーム]
俺は一人、部屋のベッドの上に腰掛けた。この白く静かな空間の中で、俺の呼吸音と時計の秒針が時を刻むかすかな音だけが、一定間隔で耳に届く。俺は天井の監視カメラを睨みつけながら、思考した。
(そもそも、いったいこのゲームはなんなんだ?)
手紙には新感覚サバイバルゲームだとか書かれていたけれど、実際には殺人鬼を見つけ出すデスゲームだ。そもそも、ルール説明も不十分で訳もわからないまま、人が死んでいくのだから、ゲームという表現が適切なのかも分からない。どちらかというと、人為的に用意されたクローズドサークルでの連続殺人事件だ。
俺は部屋の時計に目をやった。時計は3時を指していて、目覚めてからちょうど丸一日が経過した事になる。だが、今の俺にとっては三周目の二日目の3時だ。俺は丸い時計を見ながら、俺が死んだらまた時が戻るのだろうか、と時計の針が逆回転するイメージを思い浮かべた。あるいはリセットされたみたいに、改めて用意された世界に切り替わるのだろうか。
そんな事をぼんやりと考えているうちに、ふと閃きかけのようなモヤモヤとした感覚が湧き上がってきた。何か思いつきそうな感覚に、俺ははやる心を抑えて、論理的に考えようとした。
(そもそも本当に時間が戻っているのか?)
思い返せば二周目では、一周目ではあったはずの机の上のメモが消えていた。三周目に至っては、俺が部屋を出た時には既に死人が出ていた。だからゲームマスターによるゲーム説明すら聞いていない。タイムリープにしては、周によって異なる点が多すぎるのだ。
(てか、なんで三周目はゲーム説明無かったんだ? 宮野さんが死んだからか? だとしたら…………)
様々な可能性が頭の中に浮かんでは消え、それでも思考を続けているうちに、俺はある一つの考えに辿り着いた。
(ひょっとしたら、全てひっくるめてゲームなんじゃないか!?)
俺は思いついたアイデアの真偽をすぐにでも確かめたくて、部屋を飛び出していた。
◇
俺は夏目の部屋をノックした。出てきた夏目は俺の様子を見ると、不思議そうな顔をした。
「どうしたの? 」
「少し聞きたいことがあってな」
「うん、いいけど」
夏目は戸惑いながらも、俺を部屋に迎え入れてくれた。夏目に促されて俺が椅子に座ると、夏目はベッドに腰を下ろした。
それから、俺はやや興奮気味に考えを語った。ひょっとしたら馬鹿馬鹿しい話かもしれない。やや非現実的な考えだとは自分でも思った。しかし、前回の記憶があるなどという不可思議な現象を実際に体験している以上は、多少の現実離れ感は受け入れるしかないと思った。
「どうだ? できると思うか?」
話を聞き終えた夏目は少し唸るように考えてから、難しい顔のまま答えた。
「可能だと思う」
「本当か!?」
自分で聞いておきながら、夏目の答えに俺は驚いていた。しかし、夏目はゲーム会社の社長の息子だ。この分野においては、夏目の情報は信頼に値する。
「現実とほとんど変わらない、仮想現実フルダイブ型のゲームでしょ? 確かに超高スペックのコンピューターとか、脳と接続する専用の機器とかは必要だし、色々と越えないといけない障壁はあるだろうけど、不可能では無いと思う。実際、僕の会社でも研究開発していたし」
それから、夏目は俺に向かって懐疑的な視線を向けた。
「だけど、樋口君は今ここが、そのゲームの中だって言うの?」
「そうだ。実際、俺には前の周の記憶がある。例えるなら、ゲームオーバーになって初めからやり直した時みたいな感じだな。周ごとに展開は少し違うけど、ゲームのスタート条件が少しずつ変わっているとしたら、あり得ない話じゃ無いと思う」
俺が言うと、夏目は寂しそうな笑顔を見せた。
「そうだね、これがゲームだったらいいね。目が覚めたら、全部ゲームの中の事で誰も死んでいない。そんな夢の中だけの幻だったら良かったのに……」
夏目は辛そうな表情で顔を伏せた。どうやら夏目には信じてもらえなかったようだが、俺は可能性があるという事を知れただけで満足だった。
何度も繰り返す事も含めて仮想現実内のゲーム。そう考えると腑に落ちた。倫理的な面からあまり公にできない技術なら、俺たちを拉致して無理やりゲームのテスターにしたのにも説明がつく。どちらにせよこのゲーム運営がまともには思えなかったが、夏目の部屋を出た俺は自室に戻りながら、決意を新たにしていた。
(このゲーム、絶対クリアして見せる!!)
◇
ここがゲームの仮想現実世界の中だという仮説を得た俺は、その事を創賀にも話に行こうと考えた。しかし、説明の前に考えをまとめるために一度部屋に戻り、改めてこれまでの事件を振り返っていた。
(……まさか!?)
もう一度考え直している中で、俺は三周目の真相に気がついた。気がついてしまった。ちょっとした思いつきだったが、その仮説に当てはめると、俺がこれまで抱いていた違和感がするすると溶けていく。
(そうだったのか)
俺は疑問が解決してすっきりとした気分だったが、同時に心拍数は次第に上がっていった。これから相手にしなくちゃならないのは、きっとこれまでで一番の強敵だ。
俺は覚悟を決めて、部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます