第5話 一人目の犠牲者
軽い休息をとった俺達はそれから今後の方針について話し合った。その結果、それぞれの部屋にあるだろう拳銃をこの中央の部屋に集める事で意見が一致した。
俺は自分の部屋に戻る時、ドアに『1』と番号のかかれたカードがかかっている事に気がついた。おそらくこれが部屋番号という事だろう。ちなみに俺の部屋の向かいはあの声の会場説明では化粧室・浴室となっていた。部屋番号のカードの有無以外は他の部屋と同じ外見の扉だったから気になって少し覗いたけれど、ホテルのように綺麗で使うのに問題は無さそうだった。これなら女性陣から文句が出る事もないだろう。
俺は自分の部屋に入ると、机の裏を探った。すると、木戸や創賀が言っていた通り、拳銃が貼り付けてあった。手に持つと、意外と重量がある。机の裏には丁寧に取扱説明書までついていた。俺は銃の使用法を読むという行為に若干の抵抗を感じながらも、使用せずに済む事を祈りながら安全のためにも説明書に目を通した。
それから、拳銃を持った俺がもう一度中央の部屋まで戻ると、既に他のみんなは戻っていてテーブルの中央には六丁の拳銃が置かれていた。俺もそこに拳銃を並べたが、こうして見るとかなり物騒だ。本物の拳銃を置いておくなんて、やはりこのゲームの運営はまともだとは思えなかった。
「なぁ、腹減ってないか?」
唐突に木戸が言った。言われてみれば、さっき軽食を軽くつまんだとはいえ、ここに来てからちゃんとした食事は摂っていない。部屋の時計を見ると、時刻はもう18時前だ。この中央の部屋にはモニターの下にデジタル時計もあって24時間表記になっていた。時刻以外の表記が無いのは少し不気味だが、体感的に逆算して俺が目を覚ましたのは午後の3時だったことになる。つまり何が言いたいのかというと、俺も空腹だという事だ。
「夕飯にしないか? 俺もお腹空いてるし」
「賛成!!」
俺の提案に真っ先に田城さんも賛成する。
「じゃあ、私、何か作りますね」
「あっ、私も!」
「私も手伝います」
水紀や田城さん、宮野さん達が料理の準備を始めたので、俺も手伝う事にした。俺も一人暮らしで自炊くらいはするから、少しは役に立つはずだ。
それからはそれぞれがバタバタと動き回って、料理が全て出来上がったのは、約一時間後だった。大勢で料理を作るというのは久々で、俺は小学生の林間学校での
ところが机に料理を並べようとした時、視界に入ったのは中央に置かれた物騒な拳銃だった。せっかく水紀達が作った美味しそうな料理が、あの武器のせいで味が落ちてしまいそうだ。
俺が拳銃を邪魔に思っていると、木戸がやって来た。
「そこに金庫があったから、そこに閉まったらどうだ? そうすれば、誰も取り出せなくて安全だろ?」
木戸が指差した場所には黒く頑丈そうな金庫が置かれていた。
「でも鍵は誰が管理する?」
「その必要は無さそうだ」
創賀が金庫についた二つの鍵穴を見ながら言った。ちなみにこいつは唯一料理を一切手伝わず、暇そうに慌ただしく動く俺達を眺めていた。一方の木戸は、手際の良い包丁さばきで料理を手伝っていたというのに。
「鍵穴が二つ? どうやって使うんだ?」
「鍵穴のこの形状からして、おそらく……」
創賀はキッチン近くの棚に向かって歩いて行き、食器の並ぶ棚の中から何かを探している。
「創賀君、ちょっと退いてくれない?」
「ああ、悪い」
ガラスのコップを取り出そうとした水紀に追いやられた創賀の手には鍵束が握られていた。
「それは?」
「部屋の鍵だよ。ちょうどいい。みんな一旦集まってくれ」
創賀の号令に、皆が金庫の前に集まった。創賀は皆の見守る前で、七つの鍵から適当に二つを選んで、鍵穴にそれぞれを挿し込んだ。
「二つの鍵穴、ここに同時に二本の鍵を挿して回すと……」
創賀が同時に鍵を回すと、カチャリと音がして、金庫が開いた。
「おお、開いた」
俺は素直に感心した。
「たぶんどの二本の鍵を使っても、この金庫は開くはずだぜ」
創賀は他の二本の鍵でも、金庫の開け閉めをして見せた。
「けれど、必ず二本は必要ってことか」
「そういうこと」
「つまり、鍵を開けるには必ず二人の同意が必要ってことね」
水紀の発言に創賀は頷いた。
「これなら、拳銃を閉まっておくのに最適だな。拳銃はこの中に封印する。それでいいよな?」
異論がない事を確認した木戸は、机の上から拳銃を持ってきて、一つずつ金庫の中に置いていく。七つの拳銃が置かれた事を確認して、創賀は金庫を施錠した。
「あとは、各自が自分の部屋の鍵をしっかりと管理するだけだな。くれぐれも落としたり
七つの鍵にはそれぞれ『1』から『7』まで番号の書かれたシールが貼ってあり、俺は自室と同じ『1』番の鍵を受け取った。七人それぞれの手に鍵が渡り、俺達はようやく夕食にありつくことができた。
◇
それから美味しい夕食を堪能した後は、会場内を軽く調べたが物置のような場所に工具箱や斧、木板といったよく分からない物を幾つか見つけただけで、ゲームのヒントになりそうな物は見当たらなかった。結局探索は早々に切り上げて、トランプゲームをしたり、懐かしい思い出話に花を咲かしたりして過ごした。特に大きな事件も起こらず、順番に風呂を済ませてから、俺達は11時半頃に解散した。
俺は『1』番の自室に戻り、しっかりと内側から鍵をかけて扉が開かない事をよく確認した。念の為警戒しているが、無理やり連れてこられた割に不思議と不安は少なかった。みんな知り合いだったというのもあるだろうが、一緒に遊んだのが修学旅行みたいで楽しかった。俺は机の上に部屋の鍵を置き、電気を消してベッドに横になった。
唯一少し気になった事があるとしたら、冬月菜々子の事を聞いた時の宮野さんの反応だった。ちょうど俺と宮野さんの二人になった時、俺は軽い気持ちで質問した。
「そういえば、宮野さんと仲の良かった冬月菜々子ちゃんっていたよね。今でも会ったりしてる?」
その名前が出た途端、凍ってしまったように宮野さんの動きが止まった。
「菜々子は……」
「沙霧さん、お風呂空いたよ」
結局、風呂上がりの水紀に邪魔されて最後まで聞けなかったけれど、あの時の彼女の反応は少し気になった。
まぁ、今度また聞いてみるか。
それよりもこの謎のゲームについて、明日はもっとちゃんと調べないとな。
俺はそんな事を考えながら、眠りについた。この時は、翌日から始まる地獄のような日々など、まだ想像すらしていなかった。
◇
二日目の朝、目を覚ました俺は部屋の暗さに二度寝しようとしたが、いつもと違うベッドの固さにハッとして起き上がった。俺は突然
「うわっ! びっくりした。」
そこには、どうやら先客がいたようで、水紀が驚いたように声を上げた。
「おはよう、水紀」
「おはよう。灯也君」
俺が挨拶して洗面台に近づこうとすると、水紀は不自然に顔を逸らした。
「どうかしたか?」
「いや〜、すっぴん見られるのが少し恥ずかしくて」
「ああー、気が回らなくてごめん」
そう言ってから、俺はふっと笑いを漏らしてしまった。
「なに?」
水紀が不審そうに見て来るから、俺は説明した。
「子供の頃はすっぴんが当たり前だっただろ? 化粧とか、すっかり大学生だなと思って、少し昔が懐かしくなっただけだ」
水紀は俺の言葉に穏やかな笑顔を浮かべた。
「本当にそうだね、昔が懐かしい。まさか、こんな形で再会するとは思ってなかったよ」
「ああ」
水紀に同意した俺だったが、水紀が手にしているポーチが目に止まって、ふと疑問が浮かんだ。
「それ、メイク道具?」
「うん、そうだけど」
「どうして、それを持っているんだ? 水紀も強制的に連れてこられたんだろ?」
水紀は少し表情を曇らせた後、説明した。
「部屋に置いてあったの。灯也君も部屋に着替えとか置いてあったでしょ?」
「ああ、確かにそうだな」
昨日部屋に戻ってから改めてベッドの下を調べたら、引き出しの中には数日分の着替えが入っていた。
「他にも暮らすのに必要そうな物は全部揃ってる。考えると少し不思議だよね。強制連行する割には、少し親切すぎるっていうか」
確かに水紀の言う通りで、気になる事は多い。
このゲームの運営の正体や目的が未だに一切分からず、俺は漠然とした不安を抱いた。考えても何も思いつきそうに無く、後で創賀に聞いてみようと俺は思考を放棄した。あいつなら、もう既にある程度の見当ならついているかも知れない。
俺が顔を上げると、水紀はじっとこちらを見つめていた。
「あー、じゃあまた後でな」
俺は手早く顔を洗って、洗面所を後にした。
◇
俺の朝食は、水紀が作ってくれたベーコンエッグトーストだった。いつもよりも豪華な朝食を食べ終えた俺に、木戸が聞いてきた。
「なぁ、樋口。花凛に会ったか?」
「まだ、寝ているんじゃないのか?」
俺は適当に返した。時計を見ると時刻はまだ八時半だ。
「そうかも知れないけど、こんな状況だしな」
「実は、夏目君も部屋から出て来ないんです」
そう言ったのは宮野さんだった。田城さんと夏目以外の五人はこの中央の部屋に集まっている。
「部屋をノックしても返事が無くて」
宮野さんは心配そうに言った。確か、夏目の部屋は宮野さんの向かい側だったはずだ。
「一応、様子見てみるか。万が一があったら大変だからな」
創賀が言うから、俺たちは皆で未だに出て来ない二人の部屋に向かう事にした。
だが、この時の俺はまだ寝ているだけだと楽観的に考えていた。この時間だったら、俺も一限の授業さえ無ければ寝ている事は良くある。
まず向かったのは夏目の『7』番の部屋。しかし、宮野さんの言った通り、ノックしても反応は無い。
「どうする?」
「とりあえず、田城さんの部屋に行ってから考えるか。灯也の言う通り、まだ寝ているだけかも知れないしな。」
創賀に賛同し、俺達は田城さんの部屋に向かった。部屋番号は『5』番で、『4』番の木戸の部屋の向かいだ。田城さんの部屋もノックしても反応が無い。
「こっちも反応無しか」
なんとなくドアノブに手をかけた俺は、違和感を覚えた。
(鍵がかかっていない?)
「どうした? 灯也?」
「鍵がかかっていないみたいだ」
俺はそっとゆっくりと扉を開いて、部屋に広がった光景に言葉を失った。
目に入ったのは、部屋に飛び散る血の赤。壁に寄りかかり力無く
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